水曜日
第323話 3回連続3回目
今日のライブは港の予定なので、放課後のうちにみんなで移動。
トゥルーたちが元気そうなのを確認し、ワインを仕込んでログアウトした。
で、夜。
「ばわっす」
『ショウ君!』
「兄上! 早う!」
「え?」
ミオンも美姫もテンションが異様に高くて、ベル部長は黙ってるけどなんか楽しそう? ヤタ先生はいつもと変わらないニコニコ顔だけど……
「どうしたの?」
席について隣のミオンに聞くと、
『ついさっき新PVが公開されました!』
「皆で見ようと待っておったのだぞ!」
「アッハイ……」
俺、また出てるのかな。というか、死霊都市にいたのがバレるPVだったらアージェンタさんに相談しないと……
「覚悟は決まったかしら?」
「うっす」
「ではー、再生ぽちっとなー」
ヤタ先生が楽しそうにそう言うと、全員が見える位置に大きな画面が現れ、動画が再生され始める。
真っ暗な画面に曲だけ流れ始めたんだけど、この曲どっかで聞いたことがあるような?
やがて明るくなった画面に映るのは……
「っ!」
「おおっ!」
息を呑むミオン、思わず声を上げる美姫、呆然とするベル部長、ニコニコ顔のヤタ先生。
はい。どう見ても魔導神楽笛を演奏する俺です。
いきなりかよ!!!
これって場所は展望台のところだし、演奏してる曲は確か鎮魂歌だっけ。ルピのお母さんのために演奏した部分を切り抜かれたんだな。となると……
『〜〜〜♪』『『『〜〜〜♪』』』
スウィーとフェアリーズの合唱が流れる。
舞い上がる花びらと歌声を追いかけるように、カメラが青い空を映し出す。
そして再び下へ向くと、そこは灰色がかった死霊都市。
スウィーとフェアリーズの歌をBGMにして、アンデッドを倒していくプレイヤーが次々と映されていく。
いつの間にか俺の演奏とフェアリーズの合唱がフェードアウトし、アップテンポの曲が流れ始めると、画面は一気にラストバトルへと変わった。
でかいキメラスケルトンの攻撃を、盾のアーツを使って耐えるセスたちタンク部隊が映る。
隙ができたところに、近接部隊が順番に攻撃を叩き込むんだけど、
『次の部隊! 突撃!』
お、これってゲームドールズの人だっけ。姫騎士って感じの派手な鎧だけど、まあ、こういうシーンなら似合ってるかな。
あ、真白姉も混じってる混じってる。
『魔術士隊! 撃て!』
今度はベル部長の号令で、敵後列に強烈な魔法の束が撃ち込まれ、その爆風がおさまらないうちに追撃で矢の雨が降り注ぐ。
途中、プレイヤー側後衛を急襲した悪魔をレオナ様が圧倒したりといろいろあったみたいだけど……最後は神官たちの浄化重ねがけでリッチが消滅していく。
光の粒が天へと昇っていき、
『〜〜〜♪』
再び俺の演奏とスウィーの歌声。ソロパートの熱唱部分が流れてホワイトアウト。
そして現れる文字……
『Iris Revolution Online 魔王国アップデート 7月下旬予定』
セーフ! セーフ!!
死霊都市でいろいろやったことは、翡翠の女神像含め何一つ映ってなかったけど、これってミオンと交渉中だからっていうのもあったり?
「で、いつの間に演奏なんて覚えてたのかしら?」
「そうよのう。妹にも内緒とは悲しい限りよ」
……それくらいならいいです。
………
……
…
ログインは港の旧酒場のバックヤード。
飛びついてくるルピをモフりつつ配信をオン。
「ライブまであと20分ぐらいだっけ?」
『はい。急がなくても大丈夫ですよ』
「りょ。っとワインを確認しなきゃ」
ロフトから降りて、下にある魔導醸造器を確認。ちゃんと終わってるな。
どれどれ……
【グレイプルワイン(フェアリー栽培)】
『フェアリーが育てたグレイプルの実から作られたお酒。酸味と甘味のバランスが良く、フルーティーな味わいで飲みやすい。
料理:調味料として利用可能』
「え?」
『すごいです!』
あのグレイプルに、フェアリーたちが水やりとかしてくれてたからだよな。っていうか、随分前からこうだったのか。
そりゃ、バーミリオンさんが美味い美味いって言うだろうし、スウィーが怒るのも当然か……
まあ、今回は送ってオッケーをちゃんともらってるし、これはこれでってことで。
「じゃ、これは送るとして……」
インベントリから取り出したのは、エクリューミルクが入った瓶。
これを魔導醸造器にセットして……
【魔導醸造器:準備完了】
『原材料
・エクリューミルク
醸造メニュー
・エクリューチーズ……所要時間:15分
・エクリューヨーグルト……所要時間:15分』
「お、やった!」
よしよし、チーズを使った料理が作れるし、ライブに間に合いそう。
トルティーヤにチーズとベーコンでブリトーとかいいなあ。
<いいですねー。スモークチーズとか作りませんかー?>
なるほど。ってそれお酒のつまみな気が。
『15分で済むのは量が少ないからでしょうか?』
「あ、そういえば短いね。この瓶で1リットルほどしかないからかな?」
今回はグレイプルを優先で運んだから、エクリューミルクが少ないのはしょうがない。
まあ、少ない量ですぐできるなら、それはそれで……いや、ちょっと待て。リアルだとチーズって使った牛乳の10分の1ぐらいになるって聞いたことがある。
『どうしました?』
「あ、うん。チーズを作ろうと思ったんだけど……」
今の量で作って10分の1だと100グラムとかになるんだよな。
『調べてきましょうか?』
「うーん、いや、どうせだし試してみるよ。量が少なかったら、トゥルーだけ特別ってことでどうかな?」
『いいと思います』
作ろうと思ったのは、ロブヌスっていう大きなエビ(ロブスター?)のチーズ焼き。チーズ以外の味付けもいろいろ考えてある。
「キュ〜♪」
「〜〜〜♪」
チーズを作るようセットして外へ出ると、セルキーたちがフェアリーと楽しそうにおしゃべりをしてる。
放課後に来たときに、そのロブヌスや魚、オリーブをもらってて、それはライブで料理して食べる予定。
今日は飯テロと質問タイムだけでいいかなと。ただ……
「質問タイムで演奏してって言われるかな?」
『はい! 絶対にお願いされると思います!』
「もう流れちゃったし、それはいいんだけど……ミオンも歌う?」
前に港でフェアリーたちやセルキーたちが歌った曲、波のまにまにだったかな。
ヤタ先生のおかげでミオンの歌声が聴けたんだけど、それを歌うかどうかは本人に任せたいところ。
『私も歌っていいんでしょうか?』
「そりゃいいと思うけど……」
俺としては、ミオンの綺麗な歌声はみんなに聴いて欲しいかな。ちょっと自慢したい気持ちがあるのも正直なところ。
<いいと思いますがー、最後に一曲だけにしましょー>
「えっと……どうしてですか?」
<イメージキャラクターの件がありますからねー>
なるほど……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます