第322話 ライブの予定はPV次第

 後のことは椿さんにお任せということで解散。ヤタ先生はベル部長の配信を確認してから落ちるとのこと。

 というわけで、IROに戻ってきたんだけど、


「ただいま」


「ワフッ!」


 戻ってきて山小屋を出ると、ルピが飛びついてきたので受け止める。突進力が凄くてちょっと押されるレベル。


「じゃ、南側ぐるっと散歩に行くよ」


『はい』


「ルピ。スウィーたち呼んできて」


「ワフン」


 ルピが走って行き、レダとロイがそれを追いかけていくんだけど、もうレダとロイに近いぐらいの大きさになってるんだよな。


「ルピのご飯、また少し増やした方がいいのかな?」


『そうですね。レダちゃんとロイ君が加わって、遊ぶ時間が増えたのかもです』


「なるほど。育ち盛りだし、遊んだ分食べないとだよな」


 俺がログインしてない時も寂しくないようなら何よりだけど。それはそれで俺がちょっと寂しい……


『ショウ君。明日のライブは港でと話してましたけど、その時にワールドクエストのことをいろいろと聞かれるんじゃないでしょうか』


「あー、うん。覚悟はしてる」


『どうするつもりですか?』


「一応、考えてあるから、散歩しつつ話すよ」


『はい』


 ルピたちの後ろにスウィーとフェアリーズが見える。

 2時間ぐらいあるし、南側をさくっと回ったあとは作業場にこもっていろいろ作らないと。

 合金を作って、階段用のステップと魔導線とフードプロセッサーと……うん、頑張ろう。


 ………

 ……

 …


 多分、最初に聞かれるのは死霊都市に運び込んだ翡翠の女神像の件。

 それに関してはセスに説明した通り「アージェンタさんに頼まれたので。間に合ったようで良かったです」と答えるつもり。


「どうかな?」


『いいと思います。詳しい話はしない感じですか?』


「聞かれたらかな。大きいサイズの名も無き女神像を翡翠の女神にしたってぐらいで」


 アーカイブで見たいって人もいるだろうけど、そこは実物を見てくださいってことで逃げよう……


「バウ」


「お、さんきゅ、ロイ」


 ロイが見つけてくれたチャガタケを採集し、インベントリに放り込む。

 戻ってからまとめて乾燥をかけて、干しチャガタケにする予定。


「ただ、ワールドクエスト終わったし、そろそろPVが出そうなんだよな……」


『PVでショウ君が死霊都市に行った部分が映ると、せっかくいろいろと秘密にしたのにですね……』


「まあ、それはもうしょうがないかなって。転移魔法陣が映ってないなら、アージェンタさんに連れてきてもらったって言えば大丈夫のはず」


『はい。もし、映ってた場合はどうしますか?』


「その時は転移魔法陣は諦めて封印……でいい?」


『そうしましょう』


 解放された死霊都市だけど、やっぱり今のところはスタート地点に選べないらしい。

 ヤタ先生が予想がはずれたって謝ってたけど、俺も含めてみんなそう思ってたしなあと。


「まあ測位はしてあるし、頑張って転移の魔法を覚えて迎えに行くから」


『ショウ君が迎えに来てくれるのを待ってますね』


 アズールさんの話だと、結界魔法と重力魔法を覚えないといけないらしいので、アージェンタさんに甘味を送って交換してもらおう。


「「「〜〜〜♪」」」


「さんきゅ」


 今日、フェアリーズが集めてくれてるのは花の蜜。

 カムラスのコンポートで白竜姫様の体調が良くなるって話で、アージェンタさんに頼まれてたやつ。スウィーにちゃんと説明して、送っていいオッケーも貰ってる。


『あと、ワールドクエストの貢献度ランキングの順位はどうしますか?』


「うーん、なんかもう公表しちゃった方がいいのかなって気がしてるんだよな。別にそれ以外にバレることないし、隠す方が追求がめんどくさいなって。どう?」


『いいと思います』


 森を出て砂浜へ。ルピが駆け出し、レダとロイが続いていくのを見送る。

 ここでちょっと休憩かな。


「じゃ、それ以外の細かいツッコミはスルーしようか……」


『はい!』


 ………

 ……

 …


「おっけ。これみんなで食べて」


「「「〜〜〜♪」」」


 スウィーとフェアリーズにとろとろ干しパプを作って渡す。

 洞窟前の広場、ゴブリンたちがいたときは荒れてたけど、ここ最近は下草が生え揃ってきていい感じ。


「ルピたちはこっちね」


 前に燻製にしたフラワートラウトを、火の精霊にお願いして軽く炙る。

 いい感じに温まったところで、それぞれのランチプレートに。


「ワフ」


「「バウ」」


 俺はというと、ちょっとお試し料理というかデザートを試す。

 作り方は簡単で、完熟パプの実の皮を剥き、おろし金でコップへとすりおろす。

 そこにエクリューミルクを注ぎ、フェアリーの蜜をほんの少し垂らしてかき混ぜる。


「〜〜〜?」


 甘味に鋭いスウィーが覗き込んでくるんだけど、とりあえず放置。

 しっかりとかき混ぜたところで30秒ほど加熱。で、もう一回混ぜてから、今度は冷却の魔法で……固まり始めた。


『ショウ君。それって……プリンですか?』


「うん。パププリンでいいのかな。柿ってなんとかっていう成分がカルシウムと反応して固まるらしいんだよね」


『そうなんですね』


 放置でもいいんだけど、冷やした方が早く固まるらしいし。

 で、問題は味なんだけど……スプーンですくって一口……


「うん、甘くて美味しい。って、ちょっと待ってスウィー。フェアリーってエクリューミルクは大丈夫なの?」


「〜〜〜♪」


 くいくいっと手で合図する感じは大丈夫って言ってそう。

 けど、今まで果物というか植物系の食材でできたものしか食べてなかった気がするんだよなあ。


『大丈夫なんでしょうか……』


「まあ、本人がそういうなら。とりあえず一口だけね」


 スウィーたちフェアリー用のスプーンを渡すと、パププリンにサクッと……ちょっと待って待って。


「最初からスプーン山盛りはやめてって。お腹壊すかもしれないんだから」


「〜〜〜…」


 しぶしぶ普通の量をすくってパクッと……


「〜〜〜♪」


「あ、うん、美味しいのはわかったけど大丈夫なの? 生理的に受け付けない感じではなさそうだけど……」


『お肉とかはダメなんでしょうか?』


「そうなのかなあ。ミルクはオッケーだとして、玉子はどっちだろ……」


 まあ、お腹壊さないならいいんだけど……とフェアリーズが集まってきて、女王様の食べている甘味に興味津々。


「〜〜〜♪」


「いいけど、食べ過ぎはダメ。ここにある分で終わりだからね?」


 今日のところはコップ一杯分で我慢してもらおう。

 人間だって牛乳飲むとお腹壊す人とかいるし……


「っと、そろそろ10時?」


『はい。ちょうどまわったところです』


「さんきゅ。じゃ、ルピたちは遊んできていいよ。俺、ちょっと鍛治やってるから、いつもの時間になったら呼びに来て」


「ワフ!」

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