火曜日
第320話 無手勝流
結局、昨日の夜はベル部長たちに会わないままログアウトし、美姫にも事情を聞けずじまい。
朝、ナットに会議のことを聞いたら、
「俺らはセスちゃんに一任してるから、どうなったかは決まったら聞くだけだぞ?」
という返事が。いいのか、おい……
で、いいんちょなら知ってるという話になったので昼休み。
「で、なんでゲームドールズの人を代表に推薦って話になったの?」
隣のミオンも興味津々って感じ。
で、聞かれたいいんちょだけど、至極当然といった感じで、
「単純な話よ? 私たちは死霊都市のワールドクエストが終わったら、王国の本拠地に戻るつもりだったもの」
「あ、そうなんだ。ナットたちも?」
「おう。今んとこ、あそこで何か探そうって話はねえし、本拠地に戻る理由もあるしな」
「理由?」
ナットのギルドの本拠地って、王国の南西だったよな。
コショウの実やカムラスが採集できるし、海まで繋がってる川もあってっていう住みやすい場所。
少し外へ行けば森もあるし、古代遺跡もあるし、のんびりプレイできる場所だけど……
「死霊都市の攻略で手に入った蒼雲の指輪で、今まで開かなかった扉が開くんじゃねーかって話があるんだよ」
ナットたちがアンデッドからゲットした『蒼雲の指輪』っていうのは『古代魔導施設の一般管理者が着用した〜』ってなってるらしく、それで権限付きの扉が開いたりしてたらしい。
「アミエラ領の北西の『ドワーフのダンジョン』にも『権限が足りません』で開かない扉があるのだけど、そこが開けられるんじゃないかって」
「ああ……」
前に聞いた時に「俺が持ってる蒼月の指輪があれば開くんじゃ」って思ったアレだよな。
いいんちょが言ってる『ドワーフのダンジョン』もそうだし、あと『魔術士の塔』もだっけ。
死霊都市のワークエが終わったら、さらに奥に行けるよっていう感じかな。
今の段階で管理者権限がある指輪を持ってない人って……ああ、なんかインスタンスダンジョンがあったんだっけ。そこに潜れば手に入りそうな気がするな。
「それは理解したけど、なんでゲームドールズになったかわからないままなんだけど。順当に氷姫アンシアとかは?」
「アンシアさんは、すでに自領があって、そっちを捨てるわけにはいかないからって、レオナさんかベルさんを推薦したわ」
「なるほど……」
どっちかをより自分に近い場所に、関われる場所に呼び寄せたい感じなのかな。
2人がよく一緒に行動してることが多いのも気に入らないとかそういう?
「それに対して、セスちゃんがゲームドールズの人を推薦したの。今回のワールドクエストの初期からずっと死霊都市で活動してた功績もあるって」
「あー、そういや頑張ってたな。俺らが死霊都市に行った時も、ファンがうまくフォローしてたし」
「そうなんだ」
もう一方の覇権ギルドの方は崩壊してたけど、ゲームドールズの方は補給や前線維持をファンが順番に肩代わりしてたりしてたそうで。
「それともう一つ理由があるのよ」
「ん?」
「セスちゃんが『戦わずして勝つのが無手勝流。氷姫アンシアは放置が一番』って……」
「「うわぁ……」」
推薦されたゲームドールズの人も喜んで引き受けると表明。
参加してた他のプレイヤーズギルドのギルドマスターも大半が賛成して終了だったそうだ。
「それであっさり終わったんだ。もっとこう『俺が俺が』ってなって揉めるかと思ってたんだけど」
「いや、あんなのめんどくさいだけだろ。俺らも中心部分にできた地下迷宮はちょっと気になってるけど、まずは自分とこの古代遺跡が先だしよ」
管理者の指輪を持ってるギルドは、まずはホームグラウンドの古代遺跡が優先。よそから来たプレイヤーに先を越されたくはないか。
「それもセスちゃんが先にその件を広めてくれてたからよ」
「マジか……」
美姫のことだし、このワールドクエストが終わった後のことも見通してたんだろう。
なんかうまく行きすぎてる気がするけど、その分、アンシアから睨まれてないか心配……
………
……
…
部活の時間。昼の話を確認したいのでベル部長待ち。
『ショウ君。イメージキャラの件なんですけど……』
「あ、それなんだけど、夜に椿さんも混じってもらうことできるかな?」
『はい。大丈夫ですよ』
実際に今交渉にあたってくれてるのは椿さんなので、ヤタ先生と椿さんがいるところで話がしたいなあと。
「こんにちは」
「ちわっす」
『こんにちは』
ベル部長が現れ、いつも通り冷蔵庫からエナジードリンクを取り出してから席に着く。
さっそく死霊都市の話を聞いておこう。
「昨日の会議の話を聞いたんですけど」
「それね! 私もレオナさんも、今日の夜には王国へ戻るわよ!」
とウキウキなお返事が。
『アンシアさんの提案を断る形になりますが、良かったんですか?』
「ちゃんとした理由があることだから心配はいらないわよ。ま、それもセスちゃんが裏で動いてくれてたからね。助かったわ」
「セスがゲームドールズの人を推薦した理由は聞きましたけど、裏で動いてたっていうのは管理者の指輪の件です?」
「もちろんそれもあるのだけれど、崩壊した覇権ギルドのフォローアップをして、いくつかのグループは別にギルドを起こしたりしてるのよ」
「『え?』」
大人数だった覇権ギルドが空中分解したのは知ってたけど、そのフォローってナットがやってくれてるんだと思ってた。
でも、別にギルドを起こしたりって、
『ギルドを作るのにはお金が必要だと思うんですが……』
「それに貴族とのコネも必要だった気が。それも全部、白銀の館で出したんです?」
「うちだけじゃないわよ。前に名も無き女神像を回収してくれた人がいたでしょ? その人が投資という形で資金を集めて、コネも用意してくれたのよ」
「すげえ……」
お金は後で返してもらうとしても、コネの方とかって博打だよなあ。
それもベル部長の話だと、共和国と公国で複数らしいし。
『あの……、たしかショウ君のファンの人ですよね?』
「へ?」
「ショウ君、知らないの? ライブですごい額の投げ銭を、何かにつけてしてくれる人がいるでしょ?」
「ひょっとして、あの料理出したりすると5,000円とか投げてくれる人?」
『はい。デイトロンさんという人で、部長のライブでもそんな感じですよ』
マジか。っていうか、それだけ配信見ながらゲームもやって、かつ、お金持ちっていったいどういう人なんだよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます