第316話 本物は桁違い

「僕、バーミリオンに話を聞いてくるよ」


 アージェンタさんの言っていた建物へと駆け出すアズールさん。

 そっちはお任せするとして、この後どうするんだろう。

 扉が開いたのが2時で、そこからあれこれあって撤退してきた感じだし、2時半過ぎぐらいだよな。

 アンデッドが溢れ出てくるのは止まったらしいし、これから反転攻勢になりそうな気がする。


『ショウ君、いいですか?』


 おっと、ミオンが戻ってきたし、先にそっちの話を聞こう。ここで話すとあれなので……


「ちょっと、スウィーと話してきます」


「はい」


 アージェンタさんのそばを離れ、スウィーと白竜姫様がいる塔へと入る。


「おけ。どんな感じ?」


『はい。女神像が設置されたというのはワールドアナウンスでした』


 まあ、うん。それはもうしょうがない。


『でも、あのアナウンスはさっきのが初めてだそうです』


 あー、やっちゃったか……

 でも、しょうがないよなあ。


「で、ベル部長やセスたちは大丈夫そう?」


『はい。ショウ君のおかげですよ』


「はい?」


『ショウ君の真なる翡翠の女神像の聖域は、中心部の建物全体を、南側や北東側の出口を越えて覆ってるんです。

 みなさん、ショウ君がドラゴンさんたちに女神像を送ってくれたんだろうって喜んでますよ』


 えええ……

 翡翠の女神像というと俺ってイメージがあるからか、俺が翡翠の女神像を作ってアージェンタさんに渡したんじゃないかって話になってるらしい。

 合ってるような合ってないような。ともかく、俺がここにいるっていう話にはなってないみたいで一安心。っていうか、


「他の教会の女神像って、聖域の範囲どれくらいなの?」


『一番近い入り口ぐらいまでみたいです』


「俺の翡翠の女神像の聖域だけが桁違いなのか……」


 やっぱりワールドアナウンスが出る本物だから?

 島の教会に使ってたら、正門を超えた先まで覆ってたのかな。

 ともかく、その広い聖域が中央の建物全域を覆っちゃって、途端にアンデッドが失速。動きが遅くなったところを、一斉にボコって撃退完了って感じだったそうで。


「じゃ、これから攻め込む感じ?」


『そうですね。部長たちがいる南側は、負傷した人たちの回復を待って、3時に再突入する方向だそうです』


 その予定は北東側や、こっち北西側にも伝えるってことで動き出してるらしい。

 ただ、3時に再突入は強制でもなんでもないので、一部の気の早い人たちは勝手に行っちゃったらしいけど。


「ナットとかってどうしてるかわかる?」


『途中ではぐれたみたいです。ポリーさんも南側にはいません……』


「マジか」


 2人ともデスってリスポンしてはいないそうなので、一緒にいそうな気がするな。というか……

 塔の外を見ると、ちょうど戻ってきたらしいアズールさんが来い来いと手招きしてる。


『また何かあったら伝えますね』


「うん、さんきゅ。助かるよ」


 さて……スウィーはまだ白竜姫様とお茶してるし放置でいいか。ああ、そうだ!


「ルピ。スウィーについててあげてくれる?」


「ワフン」


「ありがと。しばらく時間ありそうだし、おやつ食べていいよ」


 しっかりと撫でてあげ、おやつのオランジャックの燻製をランチプレートと一緒に出してあげる。

 おっと、アージェンタさんもこっち見てるし急ごう。


「すいません。お待たせしました」


「建物にいる人たちは20人ぐらいだけど、大した怪我もないし大丈夫そうだよ。南側へ戻りたいっていう話をしてたけど、どうしよう?」


 とアズールさん。

 そりゃそうだよな。竜人さんたちは優しいけど、囲まれて平気かって言われると……うん。

 そして、アージェンタさんが、


「それとは別で、20分後に再度中心部へと向かうという話が来ました。こちらも歩調を合わせ、バーミリオンたちを送る予定です」


 さっきミオンが教えてくれたやつだよな。

 それとかち合うのは避けたいけど、それでどうなるかは気になるところ。


「アズールさん、その話を向こうにいる人たちに教えてあげてください。それでも南側に帰るっていうなら解放してあげてもらえると」


「オッケー」


 と気安く了解してくれて、またバーミリオンさんのところへと向かってくれる。


「ショウ様はどうされますか?」


「俺は教会の地下の方を見に行こうと思います」


「バーミリオンから聞いております。制御室と思われる場所でしょうか?」


「ええ、ちょっと気になってて」


 真なる翡翠の女神像が設置されたら、制御室が復活してたとかありそうで怖い。

 あの制御室につながる通路にあった扉、教会に近い方も中心の建物に出る方も、どっちも権限が必要な扉だった。

 なのに悪魔が入り込んでたのが謎なんだけど、あそこで拾った蒼星の指輪が上位管理者のやつだったし、それで開けたのかな?

 でも、悪魔ってプレイヤーじゃなくてNPCなんだろうし……


「悪魔って祝福が必要な扉を開けられたりするんですか?」


 その問いに申し訳無さそうに首を横にふるアージェンタさん。

 思わず聞いちゃったけど、そんなこと知らないよなと。


「晦冥神の力を借りて祝福を偽ることは可能でしょうね」


「お姫様」


 塔から出てきた白竜姫様に頭を下げるアージェンタさん。

 その左肩にはスウィーが座っていて、ルピもしっかりと役目を果たしてくれている。


「いったん、塔へと戻りましょう」


「あー、はい」


 白竜姫様が目線を向こうに。その先でアズールさんが手を振ってるのは、俺たちに隠れてろってことだよな。バレるのは勘弁なので、さっさと塔の中へ戻る。


「はーい、ちゃんと並んでー」


「ほらほら、早く並べー」


 アズールさんとバーミリオンさんが引率してるっぽい声が聞こえてきて、それはいいんだけど、


「あの教会に真なる翡翠の女神像があるんですか!?」


 とか、


「見に行きたいんですけど!」


 とか聞こえてきて、とどめは、


「おいおい、助けてもらった上に世話になってるんだから無茶言うな」


「南側に戻りたい人はこっちへ集まってください」


 わー、聞き覚えのある声だなー……


『ナットさんとポリーさんですね』


 そんなことだろうと思ったよ。

 どうやら後方支援の非戦闘員が数名混じっていたっぽくて、ポリーがそれを率いて南側に戻るらしい。で、残りはナットたちと再突入するらしいけど、ちゃんと竜人さんと行動する模様。


「ショウ様、こちらへ」


「あ、すいません」


 地下へ行くとしても、ナットたちがここを離れてからだし、しばらくは様子見待機。

 アージェンタさんが追加してくれた椅子に座り、出されたお茶を一口。うん、美味しい。


「ただいまー。あとはバーミリオンに任せてきたよ」


「アズール、この後、ショウ様の護衛で地下へ行ってもらって良いですか?」


「アージェ。その制御室へは皆で行きましょう」


 ……え?

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