第315話 ヒロインは遅れてやってくる
「っと。アズールさん、こっちです」
「うん」
転移魔法陣で島の大型転送室に戻り、すぐに転送エレベータに乗る。
ボタンを押した次の瞬間には上に出て、すぐ先の十字路を左に。
「ワフッ」
ルピがダッシュするのを追いかけて……アズールさんもついて来れてるよな?
「大丈夫だよー」
「どもっす」
小学生みたいだけど、アージェンタさんやバーミリオンさんより年上だっていうし、距離感が掴みづらい。今はそんな気をまわしてる場合じゃ無いけど。
「〜〜〜?」「リュ?」
「ああ、スウィーにパーン。ごめん、ちょっと急いでるから」
「「バウ」」
グレイプルを食べに来てたスウィーとフェアリーズ。パーンとウリシュクたちは畑仕事をしてくれてて、レダとロイはしっかり警備中。
「ショウ君、すごいね」
アズールさんが呆れてるっぽいけどスルー。俺自身、なんでこうなったのかよくわからないし。
教会の扉を開けて中へ入ったところで、一番奥に祀られている、俺が作った翡翠の女神の木像に気づいたアズールさん。
「おー! あれ持っていくの?」
「あ、いえ。地下に下ります」
「うん?」
言葉で話すよりも実物を見せた方が早い。
教壇をわきによせ、地下室への蓋を開けて下りる。
奥にある長い木箱にかけられた亜魔布をどけ、蓋を開けると……
「これです」
「おお、なるほど。これってショウ君がちゃんとした女神像にできるんだよね?」
「はい」
心配なのはMPが足りるかどうかだけど、ゆっくりやれば回復があるから大丈夫のはず。
あとはこれを運べるかっていう……
インベントリには空間拡張で収まりそうだけど、謎の合金でできてるし、めちゃくちゃ重そうなんだよな。
「じゃ、僕が持つよ」
「え?」
「こう見えて竜族だからね。階段がちょっと面倒だなあ」
ニッコリと笑って箱ごとヒョイっと持ち上げると、そのまま階段を上っていく。
まあ、うん、竜族だからそうだよな。
『ショウ君。部長たちはもうすぐ外に出ます』
「りょ」
呆けてる場合じゃないな。急がないと。
ミオンの話を聞きつつ教会を後にし、レダとロイに見送られて古代遺跡へと戻る。
扉の間に集まってたプレイヤーたちのうち、先陣を切ろうとしてた人たちは大量に湧いたアンデッドに飲まれたらしい……
『組み立ててあったバリケードを使ってしばらくは頑張ってましたが、倒しても倒してもアンデッドが次々と』
女神像を使っての聖域も使ってたそうだけど、押し寄せる数が尋常じゃなく、まるで泥水が押し寄せるような感じだったとのこと。
しかも向こうは同士討ちを気にせず攻撃してくるっていう……
「じゃ、戻ります」
「うん」
女神像が入った箱は縦に置いて、ギリギリ転移魔法陣に収まった。
これ、アージェンタさんやバーミリオンさんだったら、はみ出てたかも? まあ、その時は2回に分ければいいんだろうけど。
ふっと視界が揺れて、次の瞬間には死霊都市の塔の部屋へと。あとはこれを教会に置いて、翡翠の女神像にすればオッケーのはず。
なんだけど、いつも通り出迎えてくれた竜人族の警備員さんが驚いた顔をしてて?
『あ……』
「ショウ君。左肩……」
「え?」
「〜〜〜♪」
そこにはわざとらしくてへぺろするスウィー……
勝手についてきたんだろうけど、怒るのも違うよなと。
スウィーも心配してくれての行動なんだろうし、気づかなかった自分も悪い。そもそも、今そんなことを咎めてる場合でもないし。
「スウィー、はぐれないでくれよ。迷子になったら本当に迎えに来れないんだからね?」
「〜〜〜♪」
そう言い聞かせるとグッとサムズアップを返す女王様。
そういえば女神像を変化させるときは、いつもスウィーがいてくれた気がするし、そう考えると来てくれて良かったのかも。
「行きましょう」
「あ、うん、そうだね」
アズールさんが再び女神像が収められている木箱を抱えてくれるので、部屋を出て教会を目指す。
それにしても……
「竜人さんたちがスウィーを見て驚いてましたけど、フェアリーって珍しいんですか?」
「フェアリーは妖精の中でも特に希少な存在だよ。しかも、その子は女王でしょ? 驚かない方が不思議だよ」
「え? というか、見ただけで女王ってわかるんです?」
「うん、普通のフェアリーはそんなに存在感がないからね」
確かにスウィーの存在感は他のフェアリーとは全然違うけど、それで女王ってわかるものなんだ。
ちらっとスウィーに目をやると、腕を組んでドヤ顔してて……まあ、うん。
『スウィーちゃん……』
ミオンもさすがにちょっと呆れ気味。
教会は地下室のこともあって、厳重な警備が敷かれてるみたいで、門の前に立っていた竜人さんたちが扉を開けてくれた。
そのまま一番奥へと進んで……地下室への階段は開けっ放し。そこにも警備の竜人さんが二人立っている。
「よいしょ。じゃ、像を置くね」
「お願いします」
木箱を開け、まだ『名も無き女神像』なそれを円形の台座へと置くアズールさん。そのまま「あとは任せた」という表情で俺に場所を譲ってくれる。
「ん?」
さてと思ったところで、スウィーがちょいちょいっとペンダントを引っ張る。
精霊石? ああ、加護をかけてからやった方がいいのかな? 最初の時もそうだったし、その方がいいのか?
「りょ。加護を」
今、ペンダントにつけてあるのは、光、樹、水の精霊石。火の精霊石も持ってるけど、結局まだつけずにインベの中なんだよな。相性とかありそうだし。
「〜〜〜♪」
スウィーがうんうんと頷いてるので正解なんだろう。
一つ大きく深呼吸をし、女神像に手を当てて、MPを注ぎつつ翡翠の女神をイメージする。その姿はもちろん……
「すごいね……」
うっすらとした光が女神像全体を覆い、やがてその光が強くなって像の姿が見えなくなる。
小さい女神像の時の3倍、いや、もっとMP持っていかれてる気がする。魔狼の牙のMPも使い切った気がするし、これ、最後までMP持つか不安になってきたんだけど。
「ワフン」
ルピのマナエイドがありがたい。
これなら、なんとか最後まで行けるか……
「……ふう」
「ワフ!」
「〜〜〜♪」
光が収まり、再び姿をあらわしたのは、細部まで精巧に作り込まれた女神像。うん、ちゃんとミオンに……もとい、翡翠の女神になってるな。
あとはセーフゾーンになってくれるかだけど……MPさらに追加しないとかな?
『あ!』
「来た!」
翡翠の女神像から薄緑の光が溢れ始め、やがてそれは俺たちを通り越し、さらに教会の外へと広がっていった。
あとは、外のどの辺までカバーしてくれてるかだけど……
〖真なる翡翠の女神像が設置されました!〗
【翡翠の女神の使徒:3SPを獲得しました】
「『え?』」
今の最初のってワールドアナウンスだよな。
これって、他の教会に女神像設置した時も起きてる……よね? とチラッとミオンに目線を……
『調べてきますね!』
ホント、助かります……
どっちにしても取り消しもできないわけで、今はアンデッドが溢れ出てくるのを止められるかどうか。
セスたちの作戦を聞いてる限りだと、教会に置いた女神像の聖域は結構広く、建物の出入り口付近まで到達してるはずだけど……
「アズールさん、外へ。聖域がどれくらいか確認しないと」
「あ、うん。そうだったね」
アズールさんが警備の竜人さんに引き続きここを守るように、何かあったら伝えるようにと命令している。
「ワフ」
早くと急かすルピを追いかけて、教会の外へと出ると……
「うわっ!」
「〜〜〜♪」
「ショウ君、君っていったい……」
ついさっきまで荒れ地だった教会の庭が豊かな緑に覆われ、枯れていた噴水からは綺麗な水が噴き上がって虹を作り出している。
これってやっぱり翡翠の女神像を置いたからだよな……
「しかもこれ、聖水じゃないかな……」
アズールさんが噴水の水をすくって確かめてるっぽい。
翡翠の女神像からできた聖域は教会の敷地は余裕で超えてるっぽいし、中央の方へ様子を見に行ったほうがいいかな。
「アズールさん、行きましょう」
「うん」
「あ、俺、他の人に見つかりたくないんで、誰か人がいたら隠れます」
「オッケー。じゃ、僕の後ろにいてね」
とアズールさんが先行してくれる。
理由を説明しないとかなと思ってたけど、全然気にせず、むしろ気をつかってくれてるっぽくて申し訳ない感じ。
転移塔を抜けて中心部へと近づいていくと、アージェンタさんが竜人さんたちに指示を出している。
その視線の先には例の建物の出入り口があるんだけど……あれ?
「アージェンタさん。戦況はどうですか?」
「ショウ様、ありがとうございます。女神像を設置いただいたようで、その聖域のおかげでアンデッドがかなり弱体化し、撃退することができました」
と深々と頭を下げてくれる。
ちゃんと役立ったし、間に合ったみたいで良かった。
そういえば白竜姫様は? と思ったら、転移魔法陣がある塔の中から視線が。
ホールになってる場所にテーブルと椅子が出されてて、そこでお茶してる……
「〜〜〜♪」
それを見つけたスウィーが飛んでいくんだけど……まあいいか。
あのとろとろ干しパプは獣人さんが作ったやつかな? それを分けてもらうつもりなんだろう。
「怪我人はいません?」
「バーミリオンがおりましたので、竜人たちに怪我人はおりません。途中で救出した他種族に若干の怪我人がいたようですが、自分たちで回復できているようなので問題はないかと」
「え? その人たちどこにいます?」
あたりを見回しても、それっぽい人はいなさそう。
アージェンタさん、アズールさん、白竜姫様、あとは竜人さんしかいないよな。
「道の向こうにある建物に集まってもらっています。バーミリオンが監視していますし、ご心配には及びません」
「あはは、お手数かけます」
ちょっとどういう状況だったか聞きたいところだけど、ミオンからの報告も聞きたいし、どうしたものかな……
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