第313話 やらか……すごい依頼

「待ってる間って暇じゃない?」


「いや、こういうことになると思ってたんで……」


 持ってきた本3冊を机の上に置くと、アズールさんが嬉しそうな顔に。

 とりあえず、レベル上げた先の魔法が気になる空間魔法の本を手に取る。


「ショウ君、空間魔法どれくらい使えるの?」


「えーっと、固定と回転と測位は使えます」


「ふむふむ。転送はもう少し先だけど、測位はもう使えるんだね」


 おっと、転送ってやっぱり空間魔法なのか。このままレベル上がれば覚えられるのかな。


「転送魔法って難しいです? 島での移動に使えたらなって思ってるんですけど」


「あ、転送では移動できないよ。移動するのは転移で空間魔法だけじゃなくて、重力魔法と結界魔法も使えないとだからね」


「えっ……」


 アズールさんの話だと、生きてる物は転移じゃないとダメらしい。

 結界魔法で保護し、重力魔法で落下を防ぐところまで入って、初めて転移として成立するからなんだとか。


「転移魔法陣って、それ全部入ってるんですか?」


「そうだよ。だから、すっごく貴重品なんだよねー」


 マジか。今はともかく、死霊都市のワールドクエストが終わったら、割とすぐ手に入る物だと思ってた。というか、


「死霊都市のこの塔以外にも転移魔法陣ってあるんですよね?」


「あるはずー。調べた感じだと、第3、第7、第11って転移塔があって、ここ第11号3番転移塔は竜族で確保してるってわけ」


 時計でいう3時のところに『第3号1番転移塔』、7時のところに『第7号2番転移塔』があるらしい。


「他のところって……」


「第7の塔は崩れちゃってて、掘り起こさないと出てこないと思う。第3号の方は魔族が押さえてるけど、使えてるかどうかはわからないんだよね。ここもショウ君が来た転移魔法陣以外は使えないし」


「俺が来たやつ以外にも転移魔法陣あるんですね……」


 でも、使えないってなんでだろ? 転移先の魔法陣の上に何か置かれてるとか?

 俺が山小屋の1階で見つけた時は、別に何も置かれてなかったんだけどな……


「他の転移魔法陣、気になるなら見に行く?」


「あ、いいです」


「えー……」


 いや、一応、何かあった時の待機だし。というか、魔法の勉強させてください……


 ………

 ……

 …


【空間魔法スキルのレベルが上がりました!】


『おめでとうございます』


「さんきゅ」


 ちょうどアズールさんが呼ばれて、部屋を出たところでレベルアップ。

 誰もいないうちに、ちょっとミオンに様子を聞いておこう。


「ベル部長たちどう?」


『今、奥へと進んでるところです』


 まとまった敵はほとんど出てこないそうで、ちらほらとはぐれモンスターが現れては周りのプレイヤーたちが処理してると。

 扉が開くらしい2時にはまだ時間があるみたいで、ゆっくりとツアー状態らしい。


『扉の前に広間があって、そこで準備をするみたいですね』


「へー」


 人集めて来いって感じだし、その分の広さはあるってことかな。

 ちなみにポリーいいんちょもいて、ナットたちの面倒を見てるらしい……


『神官の人が女神像を手にしてますよ』


「ふむふむ。やっぱりアンデッドのボスが出てくることを想定してるんだろうなあ」


 ミオンが見てるのはレオナ様のライブだけど、コメント欄の質問に答えてるのはベル部長らしい。

 どうやってるのかわからないけど、どうにかしてるんだろうなって納得でもある。

 俺がミオンにいろいろ聞いてるのと似たようなことしてるんじゃないかな……


「ワフ」


 足元で伏せていたルピが誰か来たことに気づいたのか教えてくれる。


「あ、アズールさん戻って来たかな」


『あ、はい』


「返事はできないけど、ミオンの声は聞いてるからよろしく」


『はい!』


 と、ドアが開いて入ってきたのは、


「ショウ様。本日も来ていただき、ありがとうございます」


「あ、どもっす」


 いつものように深々と頭を下げてくれるアージェンタさん。と、それを全く気にせず、俺の隣の椅子にちょこんと腰掛ける白龍姫様。

 キラキラした目で俺を見るのは、何か食べ物をって感じだよな……


「お姫様ひいさま……」


「まーまー、いいじゃん。僕もショウ君が作ってくれた甘味に興味あるんだけどなー」


 最後に入ってきたアズールさんもテーブルについてそんなことを。

 カムラスのコンポート持ってきてて良かった。


「これ、あんまり量はないんで。ちょっと待ってくださいね」


 入れてきた瓶のまま渡すと、白竜姫様が全部食べちゃいそうなので、木皿を出して取り分ける。

 木皿とスプーン、インベントリの空きに放り込んでおいてよかった。


「姫、ちゃんとありがとう言おうね」


「うん。ありがとー!」


「いえいえ」


 お皿は三つ、一つは白竜姫様、一つはアズールさんとアージェンタさん、最後は俺とルピの分。

 もともと俺とルピの毒対策用なので、無くなる前に食べておこう。スプーンですくったそれを、あーんしているルピに。


「ワフ〜」


 俺も一つパクっと。うん、美味しい。

 白竜姫様とアズールさんも、


「おいしー!」


「いや、すごく美味しいね、これ!」


 喜んでくれるのは嬉しいんだけど、すごい勢いで減っていく……


「ショウ様。少し相談したことがあるのですが……」


「あ、はい」


 改まって相談ってなんだろう。

 カムラスのコンポートの件? それかワインの件?


「昨日ご覧いただいたかと思うのですが、ここの近くにある教会には女神像がありませんでした」


「あ、そうですね。でも、女神像が無いのって、なんか像だけ運び出したみたいな話を聞いたことがありますけど」


「はい。なにぶん厄災を止めた後のことになりますので、私どもも正確には把握していないのですが……」


 白竜姫様がダウンしてそれどころじゃ無くなっちゃった竜族が、配下の人たちに後の混乱を収めるように言ったんだっけ。

 この都市にあった女神像もその時に外に運び出され、結果的に帝国や王国や共和国に渡ったとかいう話。


「なるほど……。えっと、やっぱり女神像がないとまずいとかです?」


「今すぐ問題があるというわけでは無いのですが。実は他の2つの教会には新たに女神像が置かれているそうです」


「え? 南側に教会があって、そっちに女神像が置かれた話は俺も聞きましたけど、もう一つの教会が?」


「はい」


 いつぞやに出した地図を広げるアージェンタさん。

 アズールさんがそれに合わせて、カムラスのコンポート……もう空っぽの器を端へとよせてくれる。


「こちらです」


 中心部の東側にも塔とその後ろに教会がある。

 アージェンタさんの話だと、ここが魔族が抑えている教会で、魔族領から運ばれてきた蒼空の女神の石像が置かれているらしい。


「それらの女神像は教会を中心に大きな聖域を展開しているそうです。そうなると、女神像を置いていないこちら側は……」


「あー、なるほど……」


 言い方は悪いけど、アンデッドを押し付けられる可能性が高いと。


「ですので、この先の維持のためにもショウ様に女神像を作っていただくことは可能でしょうか?」

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