第310話 鑑定の上といえば

「ショウ様」


「あ、どもです」


 転移魔法陣がある塔に戻ってくると、入り口で待ち構えていたアージェンタさん。

 外へ出る前に教会にいた竜人さんが伝えに行ってくれたらしい。なんか、先触れとかいうやつみたいで申し訳ない感じ。


「捕まえた悪魔はどうです? 何かわかりました?」


「今、アズールが尋問しています。ほどなく奴らがここへと来ていた狙いもわかるでしょう」


「へえ……」


 前に打ち合わせをした部屋へと通され席につく。

 ルピと目があったので、少し椅子を引いて、膝の上へと座らせた。


「先ほどまた一体、悪魔を倒したと聞きました。ところでバーミリオンがいないようですが……」


「あ、ええっと、ちょっといろいろあってですね……」


 バーミリオンさんと別行動にしたのは俺がお願いしたからなので、そのことでアージェンタさんが怒るのはまずい。

 教会の地下から進んだ先、制御室っぽい場所の話と、その先であったことについて簡単に説明し終えたところで、バーミリオンさんが戻ってきた。

 俺を見てほっとした顔をした後、座る気がないのか、壁へともたれかかって腕組み。


「悪魔どもは随分倒されたっぽいが、連中がどれだけいるのかはわかったのか?」


「今それをアズールが引き出してますよ」


 アージェンタさんがそう答えつつ、机の上に本を三冊置く。

 どれも古そうだけど、本の装丁は全く違う感じ。


「まず、こちらは以前お問合せがあった、魔導具関連の本になります。魔導線というものについては、後ほど来るアズールが専門ですのでお聞きください」


「あ、はい」


「そしてこちらは音楽関連の本です。我々はそちらには詳しくないので、ご要望のものかどうかはわかりかねますが」


 そうなんだ。

 まあ、古代文明の曲とか言われても、興味なかったらそんなもんだよな。


「最後にこちらが服飾関連の本です。我々竜族は人の姿を取る時は鱗を服に変化させますが、主にこの本を参考にしております」


 なるほど。竜から人の姿になる時に服ってどうしてるんだろうと思ったけど、鱗を服にしてるのか。

 そういう意味だとスウィーやトゥルー、パーンとか妖精もそうなんだろうな。

 ミオンの女神服、結局どうするかまだ決めてないけど、面倒なことになるなら、この本に載ってる別の服を作ろう。


「ありがとうございます。借りますね」


「いえ、そちらはお譲りしますので」


「え?」


「問題ありませんよ。この世に一冊しかないという本でもありませんので」


 ま、まあ、それなら良いのかな。

 いずれ、本土の人たちも同じ本を手にする機会があるんだろうし。


「アージェンター、入っていいよねー」


 ドアがノックされ、なんだか軽い声が扉の向こうから聞こえて、だが、返事も待たずにその扉が開く。

 青い髪の俺より少し小さい少年? ……この人がアズール?


「やーやー、君がショウ君だね」


 人懐っこい笑顔で握手を求められたので、それを受けたんだけど、


「ふむふむ。君は随分と妖精に愛されてる子なんだね」


「え?」


 なんか今の握手で俺のステータス見られた?

 守護者の称号とかって鑑定されるとわかるんだっけ?


「気をつけろよ、ショウ。アズールはガキみたいな顔してるけど、俺らより年上だからな」


「は?」


 その言葉に思わずアズールさんを見ると、ニコニコ顔のまま。

 そして、大きくため息をつくアージェンタさん……


「それで、悪魔の方はどうでしたか?」


「ここに来てる爵位持ちは13人。子爵級が1人で後は男爵級らしいよ」


 空いている椅子にちょこんと座り、足をぶらぶらさせているのがまた子供っぽい。

 とても2人より年上には見えないんだけど……


「で、奴らの目的はなんだ?」


「厄災の再現が可能かどうか調べにきたって」


 そう言いつつ、目の前のお茶をちょこっと飲む。

 バーミリオンさんが大きく舌打ちしたのと対照的だ。


「既に11体の爵位持ちを退けたそうなので残りは2体。子爵級は残っていると見るべきでしょうね」


「悪魔たちを始末すれば問題ないのか?」


「多分ね。でも、人族や魔族たちがどうするのかは知らないよ?」


「魔族もどうやら悪魔を追っているようです。我々と同じく、彼らだけでは扉を開けられないことを知っていて、人族を雇ったようですね」


 へー……


『ショウ君。お義姉ねえさんのことを話しておいた方がいいんじゃないでしょうか?』


 ああ、それがマリー姉とシーズンさんか!

 ってことは、死霊都市に来てからずっと悪魔を探してたんだな。


「ショウ?」


「あ、すいません。さっき悪魔を倒した時にいた、格闘で戦ってた女性がいましたよね? 魔族の人たちと一緒でしたけど、あれがそうなんじゃないかって」


 アズールさんには説明してなかったし、改めて教会の地下の先、悪魔を倒した時のことをざっくりと。


「おおー、じゃ、君やその人たちは悪魔が擬態しているのを見抜いたの?」


「あ、はい。たまたま知り合いだったからですけどね。明らかに普段と雰囲気が違ったから、間違いないだろうって感じで」


「なるほど、真贋持ちがいるわけじゃないんだね。うーん……」


 アズールさんのいう『真贋』ってスキルなのかな。

 持ってると確かにそういう偽装とか見破りそうな気がするし、いろいろと便利そうなスキルだよな。


「アージェンター。これショウ君にあげたら姫に怒られたりする?」


「問題ないでしょう。むしろ、褒めてくださいますよ」


「お! やった! はい、これあげるね」


 ぽんと手渡されたのは、小さいブローチかな?

 模様が入った青い金属片。縁取りは魔銀ミスリルっぽい。


【鑑定のスキルレベルが上限を突破しました】

【ワールド初のスキルレベル上限突破(鑑定):3SPを取得しました】

【真贋スキルが獲得可能になりました】


「え? えええ!?」


『ショウ君。鑑定を』


【蒼竜の鱗飾】

『蒼竜の鱗で作られた飾り。物事の隠された部分を見抜くことができる。

 鑑定+1。罠発見+1』


 えー、鑑定スキルのプラス補正って、初な気がするんだけど。


「これ、もらっていい物なんですか?」


「いいよいいよー、すぐ作れるものだし。本来は僕のためのおつかいをしてくれた人にあげるものだけど、送ってくれた甘味で姫の体調がだいぶ良くなったし、そのお礼ってことで」


 なるほど。そのうちアズールさん関連のおつかいクエストみたいなのが出てくるのかな。まあ、そういう話ならいいか……


「ショウ様、あのカムラスのコンポートの作り方は教えていただけませんか? あれを食べてから、お姫様の体調がかなり良くなりまして」


「あ、はい。レシピは戻ったら送ります。けど、あれってフェアリーたちのおかげな部分が大きいんじゃないかなって」


 うちの妖精さんたちが優秀すぎて困る……

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