第309話 看破

「マジか……」


「ん? どうした?」


「あ、いや。俺の知り合いの可能性が高そうなんで、揉めないでもらえると」


「なるほど。ちょっと俺も行ってこよう。ショウはヤバいと思ったら、先に戻ってくれ」


 そう言ってゲイラさんたちをゆっくりと追いかけるバーミリオンさん。

 うーん、ここだとイマイチ声が聞きづらいし……


「隠密使うよ。ルピはここで隠れて、誰か来ないか気をつけてて」


『はい』


 声は出さず頷いて返事をするルピが賢い。

 隠密を使って隠れ、ルピと感知共有しつつ、しっかりと確認しながら、声が聞こえるあたりまで近づく。このあたりなら一瞬で扉まで戻れるはず。


「誰だ!」


 うわっ、びっくりした……

 この声、マリー真白姉じゃん。


「我々は緋竜調査隊。バーミリオン様と共に悪魔を探している」


 ゲイラさんを先頭に、悠然と歩いていく竜人さんたち。

 通路の先はいくつかの道が繋がっているフロアらしく、その先にベル部長たちがいる模様。

 バーミリオンさんが出口で腕を組んで仁王立ち、近寄るなオーラを出してくれているので安心感がある。


『部長たちどうしたんでしょう?』


 なんか揉めてた感じだよなあ。マリー姉の声色がちょっとアレだったし……

 マリー姉にバレるのはマジ勘弁なので少し後退。謎の直感とかあるタイプだし。

 気配感知で感じ取れる範囲で十人ほど? いや、もう少しいるか。ベル部長とレオナ様のパーティに、マリー姉のパーティかな。


「マリーさん、落ち着いてください」


「でもよう……」


 なだめてるのはシーズンさんかな。

 あのマリー姉を御せてるっぽいのすごいな。


「ふーむ、今日ではないが、確かに我らもおかしなプレイヤーは見たことがある。だが、そやつらから攻撃を受けたことはないのだ」


『セスちゃんもいますね』


 あいつがいるなら大丈夫かな。

 なんか話を聞いてると、前にベル部長たちが言ってたようなおかしなプレイヤーがいて、戦闘中のマリー姉のパーティにちょっかいを出して邪魔されたんだとか。

 それを追いかけてきたらここに辿り着いたって話なんだけど……


「竜人の皆さんはそういった人と出会いませんでしたか?」


 ポリーいいんちょの声も。


「いや、こちらも出会っていないな」


 それを聞いて、他の通路に隠れてるんじゃって話になってるんだけど、そもそも俺たちは地下から来てるしなあ。

 ゲイラさんは当然、そんなことを言ったりはしないけど。


「おーい、何かあったのか?」


『あの声は……ナットさんでしょうか?』


 んんん? 気になって隙間から覗いてみると、また別の道から現れたナットとそのパーティメンバーの姿が見える。けど……


「アレ、多分、偽物です」


 バーミリオンさんにそう伝えるのとほぼ同時に、ナットに向かってポリーの矢が放たれ、さらにマリー姉が襲い掛かる。

 やっぱり気づいたらしい。


「うわっ! 何するんですか!」


「あたしの知ってるナットはそんな素直ないい子じゃねーな!」


 そう言って、容赦ない回し蹴りを食らわすマリー姉……


『どうしてわかったんでしょう?』


「雰囲気がね……」


 付き合いが長いからこその気安い雰囲気が全くない。ポリーやマリー姉、セスがいるのに名前を呼ばないのもおかしいし。


「くそっ、なぜバレた!?」


「本物はもっと男前よ」


 とポリー。良かったな、ナット……

 どうやらナット以外のメンバーも擬態してたっぽく、それを解いて下級悪魔の姿へと戻る。


「どうする?」


「大丈夫かと」


 その囁きに頷いてくれるバーミリオンさん。

 ゲイラさんたちも無理に割って入るつもりはないようで、逃さないような動きをしてくれている。


「いたぞ! こっちだ!」


 うん。本物の声が聞こえてきた。


『これはナットさんですよね?』


 小さく頷いて返す。

 ま、さすがにこの数なら多勢に無勢ってやつだよな……


 ………

 ……

 …


 およそ10分後。

 それなりに強い相手な気もしたんだけど、20人弱にボコられたらすぐだよな。

 最後の一体、ナットに化けてたやつが倒され、黒い霧となって消えた。

 悪魔は倒されると、その存在ごと晦冥神とやらに召される、もとい、食われるんだとか……


〖複数のアライアンスの協力により、男爵級悪魔ドロマディを討伐しました!〗


 なるほど。全員で倒したってことになった感じかな。これって、俺、寄生してる扱いになってそうな予感……


「ふーむ。我々で倒してしもうたが良いのか?」


「逃したのでなければ問題ない。既に一体捕獲しているしな」


 セスとゲイラさんがそんな話をし、セスはやはりというか情報をもらえないか交渉してるな。

 バーミリオンさんは当然手を出さず、両腕を組んで見てるだけ。戦闘を楽しく観戦してたって感じ?


「怪我はなかったか」


「ええ、大丈夫」


 ナットがポリーを心配してそんなことを言ってるけど、さっきのことを思い出すと……お前もうちょっと頑張れよと。

 マリー姉はレオナ様とあれこれ話してて平和そうだし、ベル部長はシーズンさんとマップを照らし合わせてるようだ。


「我々はさらに中心部へと進む予定だが、竜人殿らも同行せぬか?」


「ふむ……」


 セスの提案にゲイラさんが悩んでいる様子。

 戦力は多い方がいいし、仁王立ちしてるバーミリオンさんが緋竜だってことに気づいてるよな。


「どうしたもんだかな」


 独り言のように取れるつぶやきを漏らすバーミリオンさんだけど、これは俺の意見を聞いてる感じだよな。なので、


「撤退しましょう。時間もそろそろ……」


 と小声で伝える。アージェンタさん来るって言ってたし。


「ゲイラ! 俺たちはいったん引き上げだ!」


「はっ!」


 ゲイラさんがセスたちに断りを入れてる間に……


「俺は先に扉を施錠して戻ります。そちらは上から戻ってもらえますか?」


 これで万一追いかけられても、俺がいたことはわからないはず。


「なるほど、了解だ」


 と納得してくれたので、扉を閉めて施錠する。

 バーミリオンさん、上から戻れるよな? ゲイラさんがいるから大丈夫だと信じよう。

 さて、今何時ぐらいかなと、ルピをモフりつつカメラを見ると、


『9時半になりそうです』


「さんきゅ」


 戻ってアージェンタさんと話して、そこから島へ帰れば11時前ぐらいか。


『ショウ君。倒した悪魔の数はどうなりましたか?』


 ミオンに言われてそういえばと思い出す。

 メニューを開くと、数字は11/?に変わっていて、どうやら俺や俺が知ってる人たち以外にも倒した人がいたんだろう。

 分母の数、これいつになったらわかるんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る