第305話 順調に逆走中?

 これ以上は手伝わなくても大丈夫そうかなと、竜人さんたちの戦闘を眺める。

 曲刀シャムシール短槍ショートスピアを持ってて、盾は持ってないんだけど、スケルトンたちの攻撃はうまくいなしててかっこいい。

 程なくして戦闘も終わり。片付けは竜人さんたちが後でやってくれるそうなのでおまかせ。

 二列ある長椅子の並びの真ん中、身廊を通って奥へと進むと、


「やっぱり女神像はなしか」


「杞憂だったか。すまんな、ショウ」


「いえ、こっちも転移魔法陣を確保してもらってますし、これくらいは」


 扉開けに来ただけだし。

 で、それはいいとして、確認しておきたいことがある。


「ちょっと、バーミリオンさん。その場所からどいてもらっていいですか?」


「ああ。どうした?」


 これだけ似た建物なら、絶対にあると思うんだよな、地下室。ずっしりと重い教壇を避けると、そこには見慣れた取っ手が現れた。


『あ!』


 これ、本当はこの死霊都市で「地下室がある!」みたいな話があったあとに、「島の教会にもあるよね」って順番な気がするんだよな。

 運営の人がどう思ってるかわからないけど、せっかく来たんだし、ちゃんと地下室も綺麗にしておきたい。


「ショウ様。我々が」


「あ、じゃあ、お願いします」


 ゲイラさんたちが開けてくれるというのでおまかせ。下にまだ何かいる可能性はあるし、加護は継続のままにして剣鉈と円盾も準備。


「ふんっ!」


 この床扉も結構重いよね。

 がぱっと空いた空間に、見たことのある階段が照らし出される。

 ただ、怪しい気配は感じないかな?


「先行します」


 と竜人さんが慎重に降りていくので、あかりをもう一つだして追わせる。

 2人が下りたところで、


「バーミリオンさま。敵は見当たりません!」


「よし、俺も行こう。ショウたちは俺のあとを」


「はい」


 この地下にも『名も無き女神像』があるかな?

 あったらあったで、ここに設置するのもありかなと思うけど……


「空っぽか」


「うーん……」


 広さも島の教会の地下と同じだけど、木箱やらといった雑貨はなく、誰かがいたような痕跡もない。すごく殺風景なんだけど、奥の壁に大きなタペストリー(?)が掛けられている。

 近寄ってみると、複数の女神の模様が織り込まれた高そうな代物で……


【色彩の女神たちのタペストリー】

『色彩の女神たちの姿が織り込まれたタペストリー。

 掛けられた場所にわずかながらの聖域を作る』


 へー、どういう仕組なんだろうと思って、端っこをぺらっとめくってみると、


「『あ』」


 うん、なんか扉があるし、これは俺じゃないと開かないやつだ。


「どうした?」


「この裏に扉があります」


「おい、こいつをはがせ!」


「ちょっ!」


 バーミリオンさんの言い方が雑だったので、このタペストリーの効果をちゃんと説明して、丁寧に外すようお願いする。


「はい。それはもちろん」


 とゲイラさんも苦笑い。アージェンタさんと似たタイプなのかな。苦労してそう……

 丁寧にタペストリーが外されて現れた扉だけど、やっぱり開けることができるのは俺だけのやつだ。


「開けます」


「おう。お前らも備えろ」


「「「はっ!」」」


 いつものやり取りをやって、慎重に押し開けると……気配感知には何もなし。

 通路はまっすぐ続いてるっぽい。あかりが照らす範囲では。

 これずーっとまっすぐ行ったら……


「おいおい。これ、中心部へ続いてるのか?」


「方向的にはそうですね」


「どうする、ショウ?」


「気になるし、行っておきたいですね。上の安全を確保しても、この先から悪魔が来たら厄介かなって」


「確かにな」


 乗りかかった船感はあるけど、行ってみるべきだろう。

 石壁を積んで塞ぐとかもありかもだけど……ゴースト系だと意味ないよな。


『ショウ君。行く前に上の教会を誰かに見ておいてもらったほうが』


「あ! えっと、ちょっと増員っていうか、上の教会の部分の警備の追加って頼めますか?」


「はい、少々お待ち下さい」


 とゲイラさんが答え、一人が階段を上って増員を呼びに行ってくれた。


『今ちょうど2時半です』


「りょ」


 ま、時間制限があるし、行けるとこまでかな。


 ………

 ……

 …


 あかりは2つ。前と後ろに。

 道はまっすぐ続いていて、雰囲気としては島の古代遺跡の通路に近い。道幅もほとんど同じじゃないかな。こういうのって規格化されてたりするんだろうか。


「ん?」


「扉ですな」


『いつもの扉と似てます。でも、ちょっと模様が違う気もします』


 いつもの魔導扉とはちょっと違うのか。解錠コード付きだったらどうしようもない気がする。


「バーミリオンさん、俺が」


「すまん」


 解錠コードが必要だったら、例の番号ぐらいしか思い当たるのが無いんだけどなあと思いつつ、そっと手を掛けると、


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。最上位管理者権限を確認しました。解錠しますか?】


『あ……』


 あー、これはひょっとして、本来開けてはいけない扉を開けてしまった可能性……

 ということは、ヤバい敵が出てくる可能性あるな。


「開けますけど、ヤバそうなんで気をつけてください」


「おう!」


 振り返らず、返事だけを聞いて扉を強く押し開ける。

 あかりに照らされた先には、鎧を着込み、剣と盾を持つスケルトンナイトが並んでいた。


「<氷槍>!」


 射出された氷柱が手前にいたスケルトンナイトを弾き飛ばしたが、急に何かにぶつかって叩き落とされた。


「お前ら、行け!」


 両脇をすり抜けていく竜人さんたちが、氷槍を避けたスケルトンナイトと交戦開始。

 氷柱が弾き返されたのは魔法障壁? 多分だけどそんな感じがする。


「詰めます!」


 見覚えのあるローブ姿に【バーンドレイス】という赤いネームプレートが浮かぶ。

 島であったマルーンレイスの親戚か? だとしたら……


「wей……」


「させるか!」


 インベントリから取り出した翡翠の女神像にマナを注ぎ込む!

 溢れ出る眩い光が、スケルトンナイトを、バーンドレイスを包み込んで……


「ルピ!」


「ワフッ!」


 足元をすり抜けたルピが、バーンドレイスにクラッシュクローを放つ。

 容赦のない一撃がローブをすっぱりと切り裂き、あとはと思ったところで、


「まずい!」


 バーミリオンさんが猛ダッシュし、バーンドレイスの後ろに現れた黒い何かからルピを庇った。

 背中に何者かの一撃を受けたバーミリオンさんだが、まったくダメージはなさそうで一安心なんだけど……


『ショウ君、あれって……』


 ドス黒いコウモリのような羽。黄ばみ黒ずんだ巻角。何よりも嫌悪感を催すギラついた目と歪んだ口。

 それは悪魔としか言いようのない異形だった。

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