第304話 緋竜調査隊

「こっちだ」


「はい」


 バーミリオンさんの後ろをついて歩くんだけど、左右に跪いてる竜人さんたちが頭を伏せてて、なんかもうホントごめんなさいって感じ。

 歩いてるのは1階っぽいし、ここは中庭なのかな? 石畳の脇に花壇のあとみたいなのがあったり。

 しばらく進んだ先にまた扉があり、その中はごく普通の会議室みたいな部屋。


「さ、座ってくれ」


「はい。……なんか期待してそうなんで先に言っときますけど、今日はワイン持ってきてないっすよ」


「え……。あ、いや、すまん!」


「仕込みに行くのに、ちょっと離れた場所に行かないとなんで、この件がちゃんと落ち着いたら樽で送りますから」


 それを聞いてパーっと明るい顔になる。とてもわかりやすい。

 この前のバーミリオンさんの態度に、スウィーが結構おかんむりだったし、そっちはしばらく我慢してもらうとして、


「えっと、教会の場所ってどこですか? さくっと開けて中を綺麗にしたいなって思ってるんですが」


「おう、ちょっと待っててくれ。今、調査の部隊長を呼んでくる!」


 そう言って出ていくバーミリオンさん。

 それを見送ってから、足元で所在なさげだったルピを膝の上におすわりさせる。


『用件はすぐに済みそうですね』


「だといいんだけど」


 ルピを撫でながら待つことしばし、足音が聞こえてきたので、ルピを下ろして立って迎える。


「ショウ。竜人族の族長でゲイラだ」


「お初にお目にかかります、ゲイラです。よろしくお願いします」


 握手とか風習的なのは同じなんだなと思いつつ、それを受けると、


【ゲイラからアライアンス結成が申請されました。受諾しますか?】


 あ、なるほど。そうだったそうだった。


「ショウです。こちらこそ、よろしくお願いします」


【アライアンス『緋竜調査隊』に加入しました】


 これでゲイラさんたちも最悪は無くなるだろうし一安心。


「よし。さっそくだが、作戦の説明を頼む」


「はっ!」


 ゲイラさんが大きな紙――藁半紙?――を取り出して広げると、そこには死霊都市を上空から見た俯瞰図が描かれていた。

 で、11時の場所に丸がついてるのが、今いる塔だろう。そのすぐ後ろ? 外側? に教会がある。


「この教会の門が開かないのです」


「なるほど」


 縮尺がいまいちわからないけど、これなら外に出てるのは5分もないぐらい?

 さっと行って玄関の扉を開けて、中をいろんな意味で綺麗にしたら終わりかな。あ、一応確認しておきたいことがあるんだった。


「じゃ、さっそく行きましょうか」


「おう。今回はもてなすこともできんが、いろいろ片付いたら竜の都に招待するさ」


 そう言って、ぱんと一つ手を叩いて立ち上がる。

 まずは最初の門を開けないとだもんな。


 ………

 ……

 …


 打ち合わせした部屋を出て、南側が外への出入口っぽい。

 中央のでかい建物への出入口も近くにあるはずだけど、そっちは竜人さんたちの確保対象外。プレイヤーたちが出入りしてるかもしれないし、この塔を出た場所まで見えるかも?


「ルピ。あんまり人に見つからないようにね」


「ワフン」


 賢い白ルピの返事を確認し、俺も目立つ装備、剣鉈と円盾をインベントリにしまう。一応、フードもかぶっておこう。気配遮断と隠密は……


「この塔を出たら誰か、竜人さんたち以外から見られたりします?」


「いや、こっちに入ってこねえようにしてるし、覗き見するやつらは追っ払ってるから心配すんな」


「どもっす」


 外に出ると、かつては栄えていた街というイメージまんまの風景が目に飛び込んでくる。

 石造りの建物が並んではいるが人はまばら。というか、竜人さんたちが歩哨に立っているぐらい。

 

 うん。他のプレイヤーの姿は見当たらないな。と、石塀の上に見慣れた像が置かれていた。


「あ……」


『あれって……』


「ああ、アレもお前さんのおかげなんだってな」


 近寄ってじっくりと見てみると、確かに翡翠の女神像になってるけど、俺がやったほどミオンそっくりにはなってないかな? なんとなく似てるなーってぐらい。

 やっぱり、本人を実際に見たことがあるかどうかっていう部分で差があるのかな。


 北側へとまわってすぐ、島にあるのとよく似た教会が見えてびっくりする。

 ただ、島にあったような厳つい格子の門は無し。ふらっと立ち寄れる憩いの場って感じで使われてたのかな。

 建物の入り口まで続く参道はまっすぐで、枯れた噴水に荒れた庭と物悲しい感じだけど、昔は綺麗だったんだろうなあ。玄関の様子もよく似てる。


『ショウ君。この扉は普通の祝福が必要な扉です』


 と女神様から助言が。


「開ける前にあかり出しておきます」


 光の精霊にあかりを出してもらって準備オッケー。

 バーミリオンさんが少し驚いてるようだけど……


「ショウは精霊魔法も使えんのか。器用だな」


「ははは」


 実は神聖魔法も使えたりします。

 使う機会が魔石を浄化する時ぐらいしかなかったので、レベルは低いままだけど。


「おう。お前らも戦闘準備だ!」


 竜人さんたちの野太い返事に、俺も気を引き締める。


「じゃ、開けますよ」


「おう!」


 扉に手を置くと、


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 押し開けたところで、気配感知にはいやーな感じがひしひしと伝わってくる。


「ワフ!」


「加護を」


 精霊の加護をかけ、中にあかりを先行させる。

 あかりがすーっと飛んで行って、照らし出されたのはやはり……


「<氷槍>」


 目の前に電柱ほどの太さの氷柱ができ、次の瞬間にはスケルトンの群れへと射出された。

 氷柱にぶつかったスケルトンは、おもちゃの人形のように弾き飛ばされ、バラバラになって崩れ落ちる。


「行け!」


「「「はっ!」」」


 バーミリオンさんの指示が飛び、左右を竜人さんたちが走り抜け、残っているスケルトンを駆逐していく。

 任せっきりで問題なさそうだけど、久々のまともな戦闘だし、ちょっと勘を取り戻しておきたいところ。


「光の矢を」


 近接では攻撃しづらい天井付近にいるゴーストに向けて、精霊魔法で光の矢を放つ。

 これはスウィーとフェアリーズが使ってたので教えてもらったやつ。


「はー、俺も暴れたいとこなんだけど、アージェンタに止められてんだよな」


 人の姿をしてるとはいえ、本性は緋竜のバーミリオンさん。手加減の具合が難しいので、俺たちがマジでヤバいってならない限りは手を出さない方向らしい。


「ブレス一発うちゃ終わるのにな」


「マジでやめてください……」


「ワフゥ……」


 バーミリオンさんよりルピのほうが賢いんじゃないかな……

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