第303話 VIP待遇

 装備品をチェック。

 剣鉈、魔銀ミスリルの円盾。赤鎧熊のマント、グローブ、ブーツ。

 精霊石各種と魔狼の牙のネックレス。

 サイドポーチにはいつでも取り出せるように、ヒールポーションと麻痺投げナイフをセット。

 蒼月の指輪はいつも付けてるのでオッケー。

 インベントリにはポーション各種予備、翡翠の女神像、古代神楽笛などなど。


 ここと対になる転移魔法陣はアージェンタさんが確認。それがある塔と周り一帯をバーミリオンさんが確保してくれているとのこと。

 そして、手紙に「くれぐれも忘れないように」と念を押されてたのが白竜貨と銀竜貨。警備してくれてる竜人さんに、まず竜貨を見せるよう手紙に書いてあった。


『忘れ物はないですか?』


「うん」


 1階に降りて、まずはミニチェストを退ける。

 さらに石壁をインベントリにしまい、転移魔法陣に手をかける……


「良かった。動かせるよ」


『一安心ですね』


 そのまま、これもインベントリにしまい込む。

 思ったんだけど、普段からインベントリに入れておけば、どうやっても転移して来れないよなと。かさばるけど。


 で、わざわざそうしたのは、転移魔法陣を使う場所を変えようと思ったから。具体的にいうと、大型転送室に設置して、そこから転移する予定。

 そうすることで、今ならニーナの権限で転移エレベーターの方を停止させて、最悪を防ぐことができる。はず……


「さて」


「「……」」


 表に出たところで、レダとロイが待ち構えてたんだけど、目をまん丸にしてびっくりした様子。ルピが真っ白だからなんだろうけど、


「ワフ」


 ルピが元の毛色へと戻すと、呆けていたレダとロイがシャキッとおすわりしなおす。


「「バウ!」」


 真面目な2人に戻ったのを確認して、また真っ白なもふもふへと戻るルピ。

 うん、自分たちの主が急に違う色してたらびっくりするよな。


「〜〜〜♪」


「スウィーにフェアリーズも見送りに来てくれたんだ」


 両腕を組んで、うんうんと頷くスウィー。

 フェアリーズから一人ずつグリーンベリーを受け取る。


「ありがと。ちょっと行ってくるから、おみやげ期待しててね」


「「「〜〜〜♪」」」


 そう言ったものの、おみやげになりそうな物なんかあったっけって感じだよな。

 なんかいい果物でもあれば……苗ごと買って帰れたりするといいんだけど。


「じゃ、行ってきます」


「〜〜〜♪」


「「アオォォ〜ン!」」


 見送りは古代遺跡に続く階段の手前までで。

 階段を下りつつ、ニーナにもしばらくいないことを伝えておかないと。


「ニーナ。しばらく本土へ行ってくるけど大丈夫だよね?」


[はい。問題ありません]


「一つお願いなんだけど、俺がいない間、大型転送室の転移エレベーターを止めることってできる?」


[はい。可能ですが、フェアリーやドラブウルフの使用も制限しますか?]


「うん。安全優先、あそこから変な人が入り込まないようにね」


[はい。承知しました]


 これで、大型転送室に誰か来ても、上に行けないから大丈夫のはず。

 十字路を左折したところで、


『ショウ君、扉は閉めていかないんですか?』


「うん。スウィーたちが教会裏に行きやすいようにね」


 神樹の樹洞うろを使ってウリシュクの集落には行けるけど、レダとロイが教会裏に下りるのに苦労しそうなので。やっぱり戻ってきたら階段作った方がいいよな。


「さて」


 大型転送室に到着。

 まずは蓋をしていた石壁を部屋の奥に置いておく。


「ニーナ。この石壁はリサイクルしといてくれる?」


[はい。了解しました]


 で、転移エレベータのところまで戻ってきて、大きな保存箱の反対側に転移魔法陣を置く。


「ニーナ。これで本土の方へ行くんだけど、俺たち以外が現れたら、この部屋に閉じ込めておいてね」


[はい。了解しました。転移魔法陣は固定しておきますか?]


「あー、うん。お願い」


[はい。了解しました]


 やっぱり俺が管理者になってるから、ニーナに魔導具の固定を頼めてるんだよな。

 ということは、死霊都市も俺が管理者になれば、固定されてるだろう転移魔法陣を動かせられるんだろうけど……


「ミオン、今って何時?」


『2時前です』


「りょ。4時前ぐらいまではプレイしてて大丈夫だろうし、とりあえず1時間ほど様子見して、それから戻ってくるかどうか考えようか」


『はい!』


 転移先には竜人さんがいるはずなので、竜貨を2枚手に持っておく。

 すんなり行くといいんだけど、なぜかアンデッドに囲まれてるとか、ありませんように……


 ………

 ……

 …


【セーフゾーンに入りました】


 あ、うん、なるほど。そりゃそうかと思ったところで、


「何者だ!」


 と厳しい声。そして突きつけられる短槍ショートスピア

 この竜人さん2人は警備してたんだろうなと。ともかく、アンデッドじゃなくて一安心。

 俺の前に出て、威嚇しようとするルピを止めて、手にしていた白竜貨と銀竜貨が見えるように差し出す。


「ショウです。えっと、バーミリオンさんはいますか?」


「こ、これは失礼しました! すぐにお呼びしますので、しばしお待ちを!」


 そう言って、一人が飛び出していき、もう一人が跪く。

 こういうVIP待遇みたいなの慣れないんだけど……


『ちゃんとお話が通ってるみたいで良かったですね』


「うん。できればもう少し普通に接してもらいたいけどね」


 しゃがんでルピを撫でつつ、ミオンとこそこそと会話しながら、周りをぐるっと確認する。

 扉は唯一外へと繋がってるのかな。壁には一箇所だけ出窓があるけど、がっちり戸締まりされてるせいで、ここが何階なのかは不明。

 転移魔法陣以外には何もないし、ここに2人も警備を割いてもらうのは、ちょっと過剰なんじゃないかって感じ。

 というか、


「すいません。落ち着かないので立ってもらえますか?」


「……はっ!」


 ちょっと逡巡があったけど、とりあえず立って後ろに手を組んでくれてホッとする。

 やがて、バタバタと足音が聞こえてきて、予想通りというかバーミリオンさんが現れた。


「よく来てくれた!」


「どうも。とりあえず、ここってどういう場所なのか教えてもらえます?」


「おう! ってか、この部屋で話すのもなんだし、出ようぜ」


 バーミリオンさん、なんかこう普通に気のいいお兄さんって感じで話しやすいよな。

 そんなことを思いながら扉をくぐると、左右にずらっと跪いた竜人さんたちが並んでいた……

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