日曜日

第302話 天の羽衣

 日曜日。

 例によって、ミオンの家でお昼――真鯛のポワレ豆乳ソース――を作って、雫さん、椿さん、ミオンと俺の4人で食べて食休み中。なんだけど、


「そういえば、澪の衣装の話はどうなってるのかしら?」


「え?」


「?」


 驚く俺に不思議がるミオン。

 いや、その話、雫さんまで知ってたんだって……そりゃ、当然知ってるか。社長なんだし。


「昨夜に返信が来ていましたが、ここで話してよろしいでしょうか?」


 と俺に視線が……


「あ、はい」


 なんで俺に? って感じだけど、別に隠すことでもない。

 雫さんが知ってるならなおさら?


「実は向こうには既に衣装データがあるそうです。今後のゲームやPVに使用する予定があるということで、そっくりなものを作られるのは……と」


「あら、そうなのね」


 としょんぼりする雫さん。

 そりゃ、一人娘が綺麗な衣装を着てる姿は見たいよなと。アバターだけど。


「それで、先方から一つ提案がありまして。澪お嬢様のミオンをIROのイメージキャラクターの一人として採用させていただけないかと」


「は?」


「IROの翡翠の女神役で今後のPVなどに出演いただけないかとのことです。衣装はそのままお渡ししますと」


 ……

 思わずミオンを見ると、目をまん丸にして驚いてるし、これに関しては聞いてなかったってことだよなあ。


「澪と翔太君のライブ人気に当て込んでってあたりかしら?」


「おそらくそうかと」


「最終的にどうするかは二人に任せますが、椿は足元を見られるようなことはないよう注意しておきなさいね」


「はい」


 俺とミオンがぽかーんとしてる間にもそんな感じで話が進み、雫さんはまた仕事ということで、


「それじゃ、あとは二人に任せるわ。困ったことがあったら椿にね」


 そう言い残して行ってしまった。

 えええええ……


「ショウ君……」


「うーん、ミオンはどうしたい?」


 そう聞くと困った顔になるミオン。そりゃそうだよな。

 どうしようって感じに、どうしたいって聞くのだめじゃん、俺。


「ごめん、ミオン。えっと、考える時間ってあります?」


「はい。先方からもじっくり考えていただければとのことです。今後の宣伝スケジュールに関わるでしょうし、数ヶ月も待たせるわけにはいかないかと」


 えーっと、直近で考えると、夏休み前の大型アップデートのPVに出演ってあたり?

 それも今のワールドクエストが終わってたらだとは思うけど。


「ヤタ先生に相談かな?」


 それにこくこくと頷くミオン。


「そうですね。熊野先生に確認いただいた方が良いかと思いますし、先方にはそのていで返事を待つよう伝えておきます」


 既にバイトオッケーは貰ってるとはいえ、ちょっと部活と違ってくるもんな。

 翡翠の女神の衣装を作りたいって話だったのに、どうしてこうなったんだろ……


 ………

 ……

 …


 お昼の後片付けをミオンと二人で済ませ、普段ならデザート作りをするんだけど、今日はおやすみ。

 さっきの話もヤタ先生を交えてでないと……突然過ぎてどうにも。そもそも、それを学校が許してくれるかもわからないし。


 まずは約束してる話を先に。

 アージェンタさんからルピが変装(?)するための魔導具が届いてるはずなので、それを確認して問題なければ死霊都市へ行ってみる予定。

 そんな理由もあって、今日はミオンの家からIROすることを前提にVRHMDを持ってきてるんだけど……


「え? いいの?」


「ぅん」


 俺の手を取って、引っ張って行く先はミオンの部屋……

 本当にいいのか不安で、ついてくる椿さんを振り返ると、


「高性能なPCパーソナルコアはお嬢様の部屋にありますので」


 と素で返されてしまった。

 リビングにあったやつでも大丈夫じゃないの? とか思ってるうちに、ミオンが自分の部屋の扉を開けて中へと入る。

 なんか意外とそっけない感じの部屋。左側に俺んちに来たゲーミングチェアが2つ。

 右側に扉があって、


「ここは二つあるお嬢様の部屋の一つです。隣の寝室はご遠慮ください」


「りょっす」


 さすがにそんなつもりないです。


「ん」


「こっち、俺が使っていいの?」


 手前にあったゲーミングチェアに座るよう促すミオン。

 というか、これは新品な気がしてきたんだけど。


「先日、3台購入しておりまして、2台は伊勢様のお宅に。こちらは何かあった場合の予備ですのでお気遣いなく」


「はあ……」


 何かしら不具合があって使えなくなった時に、修理に出すと時間がかかるからと予備も買ってあったらしい。

 そっちを俺が今から使うってことでセットアップ。ミオンは自分のへと座って、VRHMDをかぶる。


「ああ、部屋にPCパーソナルコアが2つあるのって、片方は編集用?」


『はい。片方は私がフルダイブするために使っていますが、もう片方は普段は編集AIが作業をしています』


「すげえ……」


 ミオンが土曜の習い事でいない時も、ミオンが後から見れるように限定配信はしてるけど、それは編集AIが確認してダイジェスト版を作ってるらしい。

 土曜のソロで何してたか、よく見てるなあと思ったけど、そういうことだったのか。


「どうぞ」


「あ、すいません」


「では、私はリビングの方におりますので、何かありましたらご連絡ください」


 え? って思ったけど、椿さんはあっさりと部屋を出て、ご丁寧にきっちり扉を閉めていってしまった。


『ショウ君?』


「あ、ごめん。じゃ、直接IRO行くよ」


『あ、待ってください』


 そう言って席を立つと、とてとてっと歩いて隣の部屋へ行ってしまう。

 一体何をと思っていたら……枕を抱えて戻ってきた。


『はい』


「え、あ、うん。え?」


『持ってると落ち着きますよ?』


「はい……」


 ……まあ、いいか。


***


「よっと」


「ワフ!」


 飛びついてきたルピをもふりつつ、ミオンへの限定配信をオン。

 で、届いてるっぽいな。テーブルの上の魔導転送箱は着信ありの水晶が点滅中。


『来てるみたいですね』


「うん。さっそく確認するよ」


 ルピがおすわり台に飛び乗ったのを確認して蓋を開ける。

 中にあるのは手紙と……やたら高価そうなネックレス? なんだか小さいプレートがついてるけど、これ魔銀ミスリルだよな。


【変身のアミュレット】

『マナを消費して毛色、瞳の色を変えることができる。首にかけることで、本人のマナを使用して発動する。MP消費30秒ごとに1。

 変装+1。気配遮断+1』


 身につけてると常時発動みたいなアイテムっぽい。

 MP消費も30秒で1なら、自然回復の方が上回ってるはずだよな。


「ルピ、これつけるから、発動してみて」


「ワフン」


 色を変えることができるって何色になるんだろう。

 そんなことを思いながら、ルピにそれをつけると……


「うわあ……」


『白も似合ってますね!』


 そこには、真っ白でもふもふのルピがいた。

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