第301話 動き出す特異点

「どうぞ」


「ありがとうございます」


 何もなしもなんなので、パプの葉茶をとりあえず。

 アージェンタさんもそれを一口飲んで、とりあえず一息ついた様子。


「ショウ様は悪魔について、ご存じでしょうか?」


「いや、全然です。魔族とは違うんですよね?」


 悪魔の話が出てきて気になったのがまずそれ。

 セス美姫が今の魔王様は開国派とか言ってたし、普通に交流もしてるから関係ないとは思うんだけど。


「これを言うと魔族は怒るでしょうが元は同じです。悪魔とは厄災よりも遥か昔、魔族が二つに分裂し追放された側なのです」


「追放された側……」


「以前少し触れましたが、竜族も信仰を禁じている神、晦冥神かいめいしんを崇める魔族が悪魔と呼ばれ、追放された旧魔王派になります。

 その大半は魔王国の遥か東へと逃げたはずですが、厄災が起こってからは動向が掴めずにいたのです」


 その悪魔たちは、今は魔王国の一般市民である人馬ケンタウロス族や人牛族ミノタウロス族などを隷属させて……っていう感じだったそうだ。

 今ある魔王国はそういった旧体制を打倒してできたまともな国なので、当然、悪魔たちを警戒してるらしい。


「それが死霊都市にもいるってなると……厄介ですね」


「はい。悪魔たちの目的が……」


『また厄災を?』


「え? まさか……」


 そんなことしたら、自分たちも巻き込んじゃうと思うんだけど。

 いや、それはまた白竜姫様が止めるだろうし、その時の混乱に乗じてとかそういう可能性もあるのか……


「真意は分かりませんが、奴らが再び厄災を起こそうと言うのなら、それを止めねばなりません。再び同じことが起こってしまった場合、またお姫様ひいさまが……」


 そう言って目を伏せるアージェンタさん。


【アライアンス『雷帝と魔女』が男爵級悪魔カラビゴルを討伐しました!】


「あ……。また、悪魔が討伐されたみたいです」


「天啓でしょうか。詳細を教えていただけますか?」


「はい。えっと……」


 雷帝と魔女って、これレオナ様とベル部長だよな。

 それはいいとして、男爵級悪魔カラビゴルっていうのを伝える。

 その前にマリー姉が倒したのは男爵級悪魔ルコシオンだったよな。


『爵位は強さなんでしょうか?』


「この男爵級っていうのは、悪魔の強さですか?」


「ええ、男爵は実働部隊の部隊長クラスでしょう。おそらく手下の悪魔も相当数いると思われます」


 ゲーム的に言うと中ボス未満の小ボスぐらい?

 男爵の上って子爵だっけ。それが中ボスで、伯爵がボスって感じなのかな……

 いや、それはいいとして、


「そのせいで転移魔法陣がある区画の維持も難しい……とかですか?」


 対悪魔戦に戦力を割いちゃうとって話なら、もう転移魔法陣は諦めるしかないかなと。

 が、アージェンタさんはゆっくりと首を横に振り、


「いえ、そちらはご迷惑が掛からぬよう、確保している区画の警備は万全を期します。

 本日、お伺いさせていただいたのは……ショウ様に死霊都市に来ていただき、調査にご協力いただきたく……」


 両手をついて深々と頭を下げたのだった。


 ………

 ……

 …


「それでは失礼いたします」


「はい。返事は明日のうちには」


 転移魔法陣が光り、アージェンタさんがその姿を消す。

 さて、いろいろと忙しくなりそうな予感。


 アージェンタさんにお願いされた調査の先は、例の転移魔法陣がある塔の近くにある教会。

 そこに悪魔が隠れていて、なんなら晦冥神が祀られてるとか……ぞっとするよな。

 で、「なんで俺?」って話なんだけど、そこが例によって『祝福を受けし者』でないと開かない扉な点。

 一応、俺が信頼する俺以外の誰か・・・・・・を紹介するのでもいいとは言われた。

 どっちもダメって話なら、ドラゴンパワーで壁を壊すことも検討されてるけど……あんまりやりたくはないらしい。

 悪魔が潜んでれば当たりだけど、普通に女神像が置かれてて、それを壊しちゃったりすると……庇護下の種族のこともあるもんな。


『ショウ君。自分で行くつもりですよね?』


「うん。ミオンを迎えに行く予行演習ってぐらいのつもりだけど……反対?」


『いえ。ただ、ちゃんと島に戻って来れるかが心配です……』


「そこはまあ、アージェンタさんも保証してくれたし」


 万一何かしらあって、向こうにある転移魔法陣が使えなくなっても、竜族が責任を持って島に送ると約束してくれた。

 まあ、マイホーム設定があるから、最悪1デスすれば帰れるんだけど……


『部長やセスちゃんを紹介じゃダメですか?』


「それでもいいかなと思ったんだけど、ミオンを迎えに行く予行演習をしておきたいなって。向こうで<測位>もしておきたいし」


『あ……』


 何らかあってミオンが使う前に転移魔法陣を回収することになっても、測位の情報があれば、転移を覚えることで本土へ行けるようになるはず。

 そのためのきっかけだけは残しておきたい。


「あとはアージェンタさんが用意してくれる魔導具しだいかな?」


「ワフ!」


『ルピちゃんは一緒にじゃないとですよね』


「うん」


 一人だけで行くことも考えたけど、やっぱりルピは連れて行くことに。頼りになる相棒を置いてはいけない。

 で、アージェンタさんに相談したところ、変装の目的で毛色を変える魔法の装身具があるとのこと。

 戻り次第それを探して送ってくれるって話なので、それが使える魔導具なら、ミオンを迎えに行くときもルピと一緒にいけるし。


「〜〜〜♪」


 山小屋の盆地へと出る階段を上り切ったところでスウィーとフェアリーズ、レダにロイもお出迎えしてくれる。


『スウィーちゃんたちはどうしますか?』


「ルピ以外は今回はお留守番してもらうよ」


「〜〜〜!?」


 その言葉に「なんで!?」って顔のスウィー。

 けど、さすがにちょっと連れて行けない。


「スウィーたちを連れてると絶対にバレるのもあるんだけど、悪魔と戦う可能性もあるから。レダとロイは女王様とフェアリーズの護衛、頼んだよ?」


「ワフ」


「「バウ!」」


 シャキッと「了解!」って感じの2人の返事に思わず頭を撫でてしまう。

 それに対して、憮然とした表情のままのスウィー。


「〜〜〜…」


「スウィーにはトゥルーたちやパーンたちのことも任せられるからさ」


 そうお願いすると「はぁ……」という感じで肩を落とすんだけど、こくりと頷いてくれる。


「明日、ミオンち行くけど、そこからIROログインってできる?」


『はい!』


 予備のPCパーソナルコアがあるらしいので借りることに。もちろん、IROが問題なく動くスペック。

 水曜までに片付かない場合はライブお休みでもいいかな。

 状況を見つつ、いったん島に帰ってライブだけしてでもいいし、臨機応変かつ柔軟に対処っていうやつだよな。

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