第306話 やらかしの序曲

「ふん。竜人族が只人や獣の力を借りるとはな……」


 その言葉にバーミリオンさんがキレた。

 ルピを俺の方へと優しく放り投げ、振り向きざまに右の拳で悪魔に襲い掛かる。


「なっ!?」


 本能的に危険を感じ取ったのか、悪魔が大袈裟にそれを避けたのだが…………拳圧っぽいものが壁を陥没させる。


「バーミリオン様! 堪えてください!」


「クソが!」


 マジでヤバい。口の端から炎が漏れてるし……

 受け止めたルピを下ろし、悪魔の鑑定を試みる。


【悪魔(男爵級):ギエロ:敵対】

『晦冥神の眷属と化した魔族。

 男爵級は数体の部下レッサーデーモンと行動するか、特殊な任務に単独であたると言われている』


「竜だと!?」


「はあっ!」


 ゲイラさんが一気に踏み込んで短槍を突き出す。が、それも後ろへと避け、さらにジリジリと下がっていく。

 バーミリオンさんに勝てると思うほど馬鹿でもないらしい。

 選択肢としては逃亡一択のはずだけど……


「ちっ……」


 間合いを詰めるゲイラさんとの間に、不意に真っ黒な壁が現れて視界を遮った。

 気配感知はまだ奴を捕捉してるけど、このままだとまずい!


「くっ!」


 その真っ黒な壁へとゲイラさんの槍が突き出されるのと同時に、隠密を発動して黒い壁の端をすり抜ける。うっ、精霊の加護がごっそり減った気が。

 槍を避け、背中を見せて逃げ出そうとしている悪魔に、


(<投げナイフ><急所攻撃>!)


「がっ!」


 麻痺毒が塗られた細いナイフが首筋に命中する。

 10秒、いや、5秒でいいから麻痺してくれ!


(<バックスタブ>!)


「ギャァァァ!」


 渾身のバックスタブは悪魔の背中にヒットした。

 首を狙ったはずなのに、麻痺に抵抗したのか、咄嗟に体を丸めてかわしたっぽい。

 真っ黒な壁が一瞬にして消え、バーミリオンさんが驚いてるけど、


「拘束を!」


 俺がそう叫ぶと、素早く、そしてガッチリと悪魔の頭を鷲掴みにして意識を奪ってくれた。

 ゲイラさんも慌てて駆け寄り、何か魔導具っぽい鉄枷で後ろ手に、そして足にもはめる。さらには猿ぐつわまで……


【キャラクターレベルが上がりました!】

【短剣スキルのレベルが上がりました!】

【短剣スキルの基礎値が上限に到達しました。返還SPはありません】

【投擲スキルのレベルが上がりました!】

【気配感知スキルのレベルが上がりました!】

【気配感知&調教アーツ<感知共有>を習得しました!】

【気配遮断スキルのレベルが上がりました!】

【精霊魔法スキルのレベルが上がりました!】

【隠密スキルのレベルが上がりました!】

【隠密&元素魔法アーツ<詠唱隠蔽>を習得しました!】

【隠密&調薬アーツ<ポイズニング>を習得しました!】

【隠密&調教アーツ<潜伏>を習得しました!】


 おおお!? ちょっと一気にいろいろ来すぎてヤバいんだけど……


〖アライアンス『緋竜調査隊』が男爵級悪魔ギエロを捕獲しました!〗


 は?


『ショウ君、おめでとうございます。でも、そろそろ時間が……』


 うわ! とりあえず、レベルアップ関連は後でいいや。

 島に戻って、山小屋まで帰らないとだし。


「バーミリオンさん。俺、いったん島に戻っていいですか?」


「おう! 撤収準備だ!」


「はっ!」


 ギエロとかいう悪魔はバーミリオンさんがしっかりと拘束。

 残りの竜人さんたちが倒したスケルトンナイトやバーンドゴーストの戦利品を回収する。

 ここからさらに中央へと進んでるみたいだけど、悪魔を捕まえたことの方が大きいし、こいつをどうするかってのもあるんだろう。


「ワフ……」


「ルピもお手柄だったね」


 申し訳なさそうにやってきたルピだけど、しっかりバーンドレイスは倒してくれたし、ちゃんと褒めて撫でてあげる。


「バーミリオン様、ショウ様、こちらを確認いただけますか」


「ん? 指輪か? ショウ、これどうする?」


 手のひらに乗せたそれを見せてくれるので鑑定。


【蒼星の指輪】

『古代魔導施設の上位管理者が着用した元素魔法を補助する指輪。魔銀ミスリルとブルースピネルで作られている。元素魔法+1、応用魔法学全般+1、MP回復6秒ごとに+1』


 これって、俺が持ってる蒼月の指輪の下位互換かな? それなら別にいらないんだけど……ああ、そうか!


「これ、多分、ここにつながる扉を開けるのに必要だったんじゃないかと」


「マジか。じゃ、ショウが持っといてくれ」


「え?」


「祝福があるやつが持ってないとダメなんだろうしな」


 あ、そうだった。

 たしかにさっきの扉も、祝福を受けし者であり、かつ、管理者権限を持ってる必要があった感じだもんな。


「わかりました。じゃ、これは預かっときます」


 元素魔法のプラス補正は重複しないだろうけどMP回復は上がるかな?

 まあ、それはそれでルピかスウィーか、誰かに装備してもらうでもいいか。


「撤収準備完了しました!」


「よし! 引き上げるぞ!」


 夜にまた来ることになりそうだけど、その前にキャラレベル上がったのとか、スキルレベル上がったのとか整理しないとだな……


 ………

 ……

 …


「ショウ。また後で来てくれるか?」


「はい。捕まえた悪魔のことも気になるんで」


「すまんな」


 ルピと2人、転移魔法陣に乗って島へと戻る。

 あ、測位するの忘れてた……。まあ、夜にまた来た時にでもやっておこう。

 そんなことを考えてると、目の前が見慣れた大型転送室に変わる。


「ふう。ニーナ、何かあった?」


[いいえ。特に通知すべき事項はありませんでした]


 続いて転移エレベータに乗って上へ。

 さっきの悪魔ギエロを捕獲した時に、やたらいろいろ上がったけど、それの確認してる暇があるかどうか。


「もう4時回ってる?」


『いえ。あと5分です』


「りょ。ちょっとあれこれ確認してる時間はないか……」


 隠密のアーツが複合アーツも含めて多いのは、上級スキルだからだよな。

 なんかベル部長曰く、上級スキルになるとアーツは魔法と同じくらい種類が増え始めるらしいし。


『ショウ君。短剣スキルの上限突破ができますよ』


「ん? 剣鉈はプラス補正なかったよね?」


『この間作った魔銀ミスリルの包丁があります』


「あ、あー!」


 あの包丁に短剣+1ついて、へーってなったよなあ。

 で、短剣の上級スキルって、なんだったっけ? いや、それは夜に落ち着いてやろう。

 とりあえずは山小屋に戻ってログアウトしないと。


「よし、ルピ。競走しようか!」


「ワフッ!」

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