土曜日

第297話 結果はあとからついてくる

 土曜の午後。

 ミオンは習い事があるので、ソロで夜からのライブの準備を。

 前回は港でセルキーたち、前々回は教会裏でウリシュクたちだったので、今回は島の南側をぐるっとまったりプレイを配信予定。

 手持ちの食材の仕込みはさくっと済ませたので、軽く下見に行った後は、作業場で魔銀ミスリルの円盾を作るつもり。


「ワフ!」


「「バウ!」」


 古代遺跡から南西の森へと出た草むらにルピが駆け出し、それをレダとロイが追いかける。フェアリーズは花の蜜集めをしてくれてるし、のんびりとした雰囲気が心地いい。

 なんだけど……


「ふう……」


「〜〜〜?」


 思わず出たため息にスウィーが不思議そうな顔でほっぺをつつく。

 ちょっと悩んでるっていうか、いろいろと難しいよな……


 死霊都市にある対になる転移魔法陣、動かせないっていう問題にぶち当たったんだけど、それを使えばミオンがこの島に来れるかもしれない。

 問題はミオンがどうやってそこまで行くかだよなあと思ってたんだけど、ミオン自身がそれ以前の問題で悩んでた。

 曰く、『ショウ君のゲームプレイのお荷物にはなるのは……』と。

 そんな気にしなくていいと思うんだけど……

 これが真白姉や美姫なら絶対にそんなこと思わないし、嬉々として準備を始めるだろうからなあ。


「〜〜〜♪」


「はいはい、あのグリーンベリーね」


 女王様は気楽でいいよな……

 とりあえず、この件はいったん保留して、ヤタ先生も交えて相談しようということに。今後のライブの方針にも影響があるだろうし。


「この木は切っても良さそう?」


「〜〜〜♪」


「さんきゅ」


 スウィーのオッケーをもらってから伐採。

 あれこれ作るための木材も確保しておきたいし、パーンたちウリシュクにも翡翠の女神の木像(小さいやつ)をあげたいし。


「よし、そろそろ行くよ〜」


「ワフ!」


 ………

 ……

 …


「ちょっと鍛治やるから、ルピたちは好きに遊んできていいよ」


「ワフ」


「〜〜〜♪」


 南側をぐるっとまわって作業場へ。

 そろそろ気合を入れて魔銀ミスリルの円盾を作ろうと思う。

 どうやら川の方へ遊びに行ったルピたちを見送り、作業場へと入る。


「先に精錬を仕掛けておくかな」


 鉄インゴットは余らせてるし、魔銀ミスリルは全部インゴットにしてあるので……銅にしておこう。

 精錬してる間に円盾を……の前に翡翠の女神の木像を複製。これはパーンたちウリシュクに。

 他に並列してできることは何か……ないよな。

 よし、作ろう。


 ………

 ……

 …


【鍛治スキルのレベルが上がりました!】

【鍛治スキルの基礎値が上限に到達しました。返還SPはありません】


「お、鍛治も上限まできた。これ、魔銀ミスリルでハンマー作ったら、鍛治の上限突破するのかな? ……とりあえず今はいいか」


 まずはできあがった円盾を鑑定。


【高品質の円盾】

『魔銀とランジボアの革で作られた円盾。高品質。

 防御力+42。盾+1。

 盾:装備可能』


 あれ? 最高品質じゃない……


【鑑定スキルのレベルが上がりました!】

【鑑定スキルの基礎値が上限に到達しました。返還SPはありません】

【魔法解析スキルが獲得可能になりました】


「は?」


 これまたやっちゃったパターン?

 魔法解析をスキル一覧から確認。レアスキルだから必要SPは9か。

 取る前に詳細を見る方法を聞いたので、それで開いてみると……


【魔法解析】

『魔導具などに付与されている元素魔法を解析するスキル。

 解析にて判明する魔法は自身が使える魔法に限定される。

 前提条件:鑑定LvMAX、元素魔法LvMAX、基礎魔法学Lv5以上』


 うわー、なんかヤバそう……っていうか、前提条件がエグい。

 でも、これって解析できたからどうって話な気がするなあ。解析でわかる分は自分が使える魔法だけってなると、自分で推測するのとあまり変わらないような?

 魔導転送箱とかって転送の魔法(?)が付与されてるわけだろうし、これを取るメリットがあるのってベル部長みたいな純魔ビルドだよな。


「レアスキルだから、取って試せば先駆者褒章がもらえそうだけど……」


 こういう時、ミオンがいればなんとなく相談できるんだけどな。


「このこと、先にベル部長に話しといてくれる?」


 あとでアーカイブを確認するだろうミオンに向かって、そう話しかけるのがなんとも虚しい。


「ワフ」


「ルピ。ああ、もういい時間か」


 飛び込んできたルピを受け止めてモフる。

 さっさと夕飯食べて、早めに部室行くかな。


***


「鑑定スキルのレベルが上限に達してる人が、そもそも希少なのよ?」


「あー」


 早めの夕飯を終え、7時過ぎにバーチャル部室へ。

 俺とセス美姫を待っていたのは、当然、ミオンとベル部長。

 昼に獲得可能になった【魔法解析】の件は、ミオンがアーカイブを見せてくれてたみたいで、さっそくってことになった。

 いや、取るかどうかは決めてないんだけど……


『鑑定スキルはレベルが上がりにくいんですか?』


「ええ、5になるまでは他と変わらないのだけど、それ以降が厳しいらしいわ。同じものを何度も鑑定しても意味がないそうよ」


「その点、兄上は本土では誰も見たこともない、レアなものに囲まれておるゆえのう」


 セスの補足にぐうの音も出ない俺。

 島で発見した食材、古代遺跡や港の魔導具、スウィー、トゥルー、パーンといった妖精たち。

 希少なものを鑑定する方が、鑑定スキルのレベルも上がりやすいらしい。


「それで魔法解析は取らないのかしら? 先駆者の褒賞がもらえると思うわよ?」


「うーん、俺ばっかり褒賞もらってもなって感じなんすけど」


 もう既に、調教、隠密、空間魔法と3回もらってるからなあ。

 隠密は内緒にしたままだけど。


「兄上は気にしすぎよの。そもそも先駆者の褒賞は、未知のスキルに対する人柱リスクを緩和するための施策であろう。

 さっさと取得して先駆者褒賞はもらった上で、視聴者に開示する方がプレイヤー全体に喜ばれると思うがの」


『そうですよ。せっかくなら、ライブで取って使ってみませんか?』


「じゃ、その方向で行こうか。一応、取る前に聞いてみるのでもいい?」


『はい!』


 まあ、人柱になるって話ならいいか。

 IRO、本当に使い勝手が微妙なスキルってないらしいし……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る