第296話 落ち着いて考えよう

「スウィー落ち着いて。話が始まらないから……」


 怒るスウィーを捕まえて、グリーンベリーを口にねじ込むと、その酸っぱさでクールダウンしたっぽい?

 で、アージェンタさんが、


「バーミリオン。あなたも謝罪しなさい。竜族が全力でショウ様を掴もうものなら、肩の骨が砕けかねませんよ」


「『え?』」


 いや、うん、ドラゴンだもんな……こわっ!

 スウィーが怒ったのはそれもあってなら申し訳ないというか、ありがとうって感じ。


「もう一個食べる?」


「〜〜〜♪」


 差し出したグリーンベリーを奪い取って頬張る女王様。

 バーミリオンさんもどうやら立ち直って、


「す、すまん」


 と頭を下げてくれる。


「いえいえ。とりあえずワインはまた渡せるんで。それよりも……まずは移動しましょうか」


「はい。お手数をお掛けします……」


 アージェンタさんが苦笑い。

 白竜姫様だけじゃなくて、バーミリオンさんでも苦労してるんだろうなあ。


 ………

 ……

 …


「はい、どうぞ」


「ありがとー」


 ライコスソースのハンバーグをもぐもぐし始める白竜姫様。

 アージェンタさんとバーミリオンさんにはワインを。多分、一杯二杯なら酔わないんだろうし、これで落ち着いてくれるはず……と思ったんだけど、


「うまい! もう一杯!」


 一気に飲み干して、おかわりを要求される。


「いい加減にしなさい、バーミリオン」


「この小さい樽分しか今はないんで、それで我慢してください」


 そう伝えておかわりを注ぐ。

 さっきの感じだとザルっぽいし、次に港行った時は大樽いっぱいにワイン作った方が良さそう……


「えっと、それで状況ってどんな感じです?」


「はい。大まかには先の手紙でお伝えした通りなのですが……」


 うちにあるのと対になる転移魔法陣。

 ニーナが言ってた第11号3番転移塔に確かにあって、周囲も含めてその塔の区画は竜人族で制圧、確保してくれてるらしい。

 ただ、その転移魔法陣はどうやっても持ち上がらないんだとか。


「周りの床ごと剥がしゃいいだろ、そんなもん」


「それで使えなくなったらどうするんですか……」


 二杯目のワインが空になったからか、適当なことを言うバーミリオンさんと、それに律儀に相手するアージェンタさん。

 でも、下手すると周りだけ剥がれて、転移魔法陣だけ浮いてるとかなりそうな気はするなあ。


「えっと、その件なんですけど、なんとかなるかもしれなくて」


 古代遺跡の、施設の機能で固定されている可能性について話しておく。

 実際、空間魔法に固定って魔法があるわけだし、それが常時発動してそうな気がする。


「なるほど……」


「ん? じゃ、その転移魔法陣には都市そのものからマナが流れ込んでるってことか?」


「どこからマナを得てるのかはわからないですけど、この島の古代遺跡も保全状態でも扉の鍵はかかっていたりしましたし」


 古代遺跡っていう場そのものがマナを供給してるようなイメージ?

 あ、でも、ニーナが言ってた魔導線が通ってる可能性もあるのかな。厄災があるまでは研究都市みたいな感じだったそうだし。

 でも、それだと結局、転移魔法陣の周りを更地にしないとか……


「ショウ様がお持ちの管理者の指輪があれば、転移魔法陣の固定を解ける可能性がありませんか?」


「ああ、そうですね。これ渡しておきましょうか?」


 管理者の指輪を外そうとしたところで、


「それは無意味ではなくて?」


「お姫様ひいさま


 ハンバーグを平らげた白竜姫様が、スプーンを静かに置いてそう告げる。口の端にライコスソースついてるけど……


「姫、ここ、ここ」


「……バーミリオン、戻ったらお説教よ」


「え! ちょ、なんでだよ!?」


 そのやりとりに大きくため息をつくアージェンタさん。お疲れ様です。

 でも、無意味ってどういうことなんだろう?


「お姫様ひいさま、理由をお伺いしても?」


「私たち竜族や配下の者たちは祝福を受けていないわ。古代遺跡の管理者には成れないのではないかしら」


「なるほど」


 祝福を受けてないってなんだ?

 ……ああ! NPCだからダメってことか!

 でも、そうなると、


「えっと、俺が行くしかない?」


 その問いに申し訳なさそうに頷く白竜姫様。

 マジかー……


「ショウ様。その場所を竜族が確保し続けることは可能です。どうされるかはゆっくりお考えいただいて構いません。バーミリオン、いいですね?」


「おう、任せとけ! その分、ワイン頼むぜ」


「えっと、ありがとうございます。どうするかは……しばらく考えさせてください」


 無理そうならそれはそれでだよな。

 1階にある転移魔法陣は、今まで通り封印しとけばいいだけだし。


「バーミリオン。その件が無くても、死霊都市はしっかり監視なさい」


「おう!」


 と気安く答えるバーミリオンさん。


「アージェ。竜の都にある転移魔法陣は、確認が取れている場所以外は封鎖してあるわね?」


「はい、間違いなく」


 アージェンタさんは大人の対応。


「頼んだわよ。後は……おみやげをお願いするわ」


 そう言ってこてんと寝てしまう白竜姫様。

 豆乳もち作るか……


 ………

 ……

 …


 竜族の3人が転移魔法陣で帰っていった。


「ふう。なんか、ちょっと面倒なことになったなあ」


『転移魔法陣のことはゆっくり考えましょう。こちら側を封鎖しておけば、問題はないはずですし』


「そだね」


 ルピとスウィーを連れて、大型転送室を後にする。

 白竜姫様が寝ちゃった後は、今までの甘味に加えて、ワインも定期的に欲しいみたいな話に。

 で、やっぱりその対価って話になったので、楽譜の件とか、この前の魔導線とか魔導具の作り方について本があればっていうことで落ち着いた。


「うーん……」


『トゥルー君たちの住んでるところに行ってみませんか? 神樹があるかもですし』


「あ、そうだね。まあ、転移魔法陣は『うまくいけばラッキー』ぐらいだったし、気落ちしてるわけじゃないよ。ただ、ちょっと思いついたっていうか……」


『何をですか?』


「ミオンがそれを使えば、島に来れるかなって」


『あ……』


 ただ、ミオンが死霊都市まで来て、転移魔法陣を使ってもらうまでが大変そうなんだよなあ……

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