第295話 竜族の胃袋をつかむ男

 夕飯を終えてデザートタイム。


「兄上の作った女神の木像は、教会に置くことでセーフゾーンを発生させたのだったな?」


「ん? ああ、そうだな。あの場所に女神像を置けばって感じだったんだろうな」


 実はあそこに置くための等身大の『名も無き女神像』が地下にあったとも言えず。

 というか、俺が作った木像でセーフゾーンができたってのも、よくよく考えると「いいのかそれ?」って気がするな……


「ふーむ。女神像であれば良いということであろうか……」


 焼きプリン用のプラスプーンを咥えて首をかしげる美姫。


「まあ、俺には工芸(木工)もあるし、それなりに完成度が高くないとダメってのはあるかもな。で、それがどうかしたのか?」


「死霊都市にも教会があるのだが、女神像が置かれておらんのでな。例の厄災の記録からして、運び出されてしまったからかもしれん」


「ああ、そこに木像でもいいから女神像を置いて、それでセーフゾーンができればってことか」


 その答えにうむうむと頷く美姫。それで代用できるなら、余った女神像を中心部の探索に活用することもできるだろうと。

 他の人が作った女神像がどういう感じになるのか興味あるなあ。俺の作ったのは服装こそ教典に載ってたやつだけど、顔つきはミオンそっくりになっちゃったし……

 俺が魔銀ミスリルの工具を作って上限突破したことはバラしたし、本土にいる人たちも工芸(木工)は取れてるよな。

 裁縫とか鍛冶あたりも、もう先を越されちゃってそうだけど、まあ、俺ばっかり先駆者褒賞をもらうのもアレだし、全然いいんだけど。


「そういえば真白姉は?」


「ワールドクエストの進展があったことで、一度、雇い主に報告に戻ると言っておったぞ」


 雇い主ってクエスト関連ってことだよな。

 やっぱ魔王国? まさか氷姫アンシア? うーん……


「なにしてんだろ……」


「他のプレイヤーやNPCと揉めたという話も聞かんし問題なかろう。兄上は心配性よのう」


 そうは言っても、いつも心配の斜め上を行くのが真白姉なんだよ……


***


「白竜姫様にはハンバーグでも作ろうか。デザートは豆乳もちがいいかな」


 パン粉はないので片栗粉で。ソースはライコスを使ったトマトソースとかかな。


『日曜に作り方を教えて欲しいです』


「りょ」


 そういやアバター衣装の話もどんな感じなのか椿さんに聞かないとだよな。

 運営もまさかミオンが有名芸能事務所の所属バーチャルアイドルだと思ってなかっただろうし、返事が気になるところ。


『ショウ君、パーン君たちをここに呼んだりはしないんですか?』


「あ、別に来てもらって全然いいけどどうして?」


『ヤギさんのミルクは保存の問題があるので、パーン君たちが保存箱を使えればと』


「なるほど……」


 誰か来て盗んだりもしないし、保存箱は蔵の方に置いてもいいか。

 俺がいない時は、レダとロイが見張りをしてくれるだろうし。


「冷蔵庫って考えると、キッチンの近くにある方がいいんだよな」


『うふふ、そうですね。ドラゴンさんに余ってないか聞いてみますか?』


「あんまりもらいすぎるのもどうだろ。それよりも魔導具作れないかな……」


『作るんですか?』


 今持ってる保存庫ほど優秀じゃなくて良くて、冷蔵と冷凍の機能がある箱というか、キャビネットみたいなのを自作できれば面白いんだけど。

 応用魔法学<水>で加熱と冷却が使えるようになったので、冷蔵庫が作れればホットプレートとかも作れるかも?


「そんなスキルが実装されてるかどうかも謎だけどね」


 そんな雑談をしつつ、料理の方はしっかりと。

 パーンたちが玉子を回収してくれるようになったし、遠慮なく使えるようになったのは嬉しい。

 そろそろプリンとか作ってもいいかな? 土曜のライブでプリンお披露目とかも良さそう。


『ショウ君、そろそろ9時です』


「りょ。じゃ、迎えに行こうか。ルピ? スウィー?」


「ワフ」


「〜〜〜♪」


 山小屋の前で遊んでた2人を呼んで、地下の大型転送室へと向かう。

 途中、そういえばと思って、


「ニーナ。転移魔法陣が動かせないって話を聞いたんだけど、そういうのってあるの?」


[はい。転移魔法陣にかぎらず、施設内の魔導具は管理者権限により固定されているものもあります]


 おっと、これはいきなり核心だったっぽい?

 でも、それだと山小屋の1階にある転移魔法陣はどうやって? って話になるんだけど、


「管理者がその固定を解除すれば動かせるようになる?」


[はい]


 ということは、山小屋に記録を残した人が固定を解除して運んだのか。

 でもまあ、知らないうちに転移先が変わるのはヤバいし、管理者だけが移動できるようにしてあるのは納得かな。


『ショウ君。扉とかもでしょうか?』


「この扉とかも?」


 十字路の手前、今は開けっぱなしにしてある扉について聞いてみたところ、


[はい。固定を解除し、別の場所に設置することも可能です]


「マジか」


 ここの扉、北側も含めて外しちゃって、どこか別の場所に移そうかな。

 制御室に入るのに解錠コード付きの扉がある方が正しい気がするし。


 左折して地下への転移エレベーターに乗る。

 扉が閉まるのを確認し、ボタンをポチッとした次の瞬間には……反対側が開くの慣れないな。

 右手にある大きな魔導保存箱を開けると、中身はすでに空っぽになっているので、アージェンタさんが回収した後なんだろう。

 今日の分はおみやげで渡すぐらいしかないけど、またそのうち作り溜めしないと。


「ワフ」


「あ、来たかな」


 転移魔法陣の方が光り始めたので、慌ててそっちへと。

 光が収まって現れたのは、アージェンタさんと、抱っこされてる白竜姫様。そして……


「おう!」


「ど、どうも……」


 アージェンタさんと同じく、長身のイケメンなんだけど、燃えるような赤い髪にだらしない服装は正反対。

 気安く話しかけてくれる感じは、ちょっと悪そうに見えてるけど、実は気のいいお兄ちゃんってパターンなんだろう。

 ひょっとして、この人って……


「バーミリオン、控えなさい。この方はお姫様ひいさまも認められたお方ですよ」


「わーってるよ」


「ショウ様、申し訳ありません。どうしても緋竜バーミリオンが直接お礼を言いたいと、ついてきてしまいました」


 困ったようにそう告げるアージェンタさん。

 前に聞いた緋竜バーミリオンがこのお兄さんらしい。それはいいんだけど、


「いえ、それは全然。というか、お礼ってなんです?」


「ワインだよ、ワイン! あれ、めっちゃ美味かったから、またくれよ!」


 ガバッと身を乗り出してそう告げるバーミリオンさん。

 ……あれってアージェンタさんに送ったつもりなんだけど? と見ると、


「この男は酒に目がなく、見つかってしまったので止むを得ず分けたのですが……」


「でも、あれって普通のグレイプルワインですよ?」


「全然違うって! マジで美味いから! もっと作ってくれ!」


 さらに身を乗り出して訴えてくるバーミリオンさんだが、


「〜〜〜!」


「いでっ!」


 スウィーがドロップキックを食らわせ、それが目に当たったのか悶絶するバーミリオンさん。


「ちょっ! スウィーなにしてんの?」


「〜〜〜!」


「申し訳ありません!」


 そのままアージェンタさんにも怒り始めるし、アージェンタさんもめちゃくちゃ謝ってるしで……なんなのこれ?

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