金曜日

第294話 女神像のあれこれ

「昨日、ワークエ進んだけど、どんな感じなんだ?」


「ん? ああ、島からだとさっぱりか。まあ、なんか死霊都市の真ん中にあるでかい建物に入れるようになったって感じか?」


 うん、それは知ってる。言わないけど。


「入ってみたのか?」


「ああ、ちょっと行ってみたんだが……」


 といいんちょの方を見るナット。


「キリがない感じなのよね」


 中心部へと続くまっすぐの道に、左右への枝道が延びてる作り。それぞれの通路には、扉とその先に部屋がびっしりと。

 通路にも部屋にもアンデッドが出るし、レイスやらゴーストやらは急に壁をすり抜けて現れることもあるんだとか。


「うへ、大変そう……」


「部屋をスルーして先へ進もうとすると、挟まれたりするんだよな」


「手前から地道に進めて行くしかなさそうなのよね」


 それで今日は2、30人集めて突入するらしい。

 奥に行くことはいったん置いて、部屋の中の捜索とマッピングを優先するんだとか。


「女神像ってその中で使えないのか?」


「使えるだろうけど数が足らねえんだよな」


 街中の安全を確保してくれてる女神像を動かすべきなのかどうかで議論になってるらしい。

 自分が安全だと思ってログアウトした場所が、ログインしたらアンデッドだらけになってるのは嫌だもんな。

 協力者を募って女神像を配置しなおし、それであまりを捻出して進む方法を検討中だそうで。


「ショウ君、北側の……」


「ああ、そいや北側で竜人ドラゴニュートの人たちは見たか?」


「おう、なんか調査してるとか聞いたぜ。ってか、やっぱお前、一枚噛んでんの?」


 あ、しまった。藪蛇だったか、これ……


「あの、女神像……」


「そうそう、俺がライブで翡翠の女神像にしたやつって、どうなったのか気になってるんだよ。アージェンタさんからは、うまくいったって聞いてはいるんだけどさ」


「あー、それか。いいんちょは見かけたか?」


「遠くからは見たけど、出雲さんそっくりだったかどうかはわからなかったわ」


 と苦笑い。

 竜人さんたちが警戒に立ってるらしく、そこから先は通してくれないんだとか。なんで、遠くからチラッと見えたってぐらいらしい。


「島ファンの人らも翡翠の女神像になってたけど、雰囲気が似てるって程度だったし、ショウじゃないとそっくりにならないんじゃねーの?」


 ちょっとからかう感じでナットが言うんだけど、いいんちょにキッと睨まれてそっぽを向く。相変わらずな感じ。


「そういや、お前は『名も無き女神像』使ったのか?」


「ん? いや、俺はまあ……」


「もうすぐお昼も終わりよね」


「え? まだあと15分くらい……」


「終わりよね?」


 深く聞くのはやめよう……


***


『内緒です』


 にっこりとミオンにそう返されてしまった。

 あの後、いいんちょと何か話してたっぽいのって、女神像の話だよなあ……

 ナットが使ったら、いいんちょそっくりになったってオチだと思うんだけど、それを言うと怒られるんだろう。


「こんにちは」


「ちわっす」


『こんにちは』


 ベル部長がちょっとお疲れ気味なのは、昨日結構遅くまでやってたからかな? セスも朝めちゃくちゃ眠そうだったし。


『大丈夫ですか?』


「ええ、ちょっと寝不足なだけよ」


 そう答えて、冷蔵庫からエナジードリンクを取り出す。

 プシュっと明けてからぐびぐびやった後、ためらいもなくVRHMDをかぶるあたり、IRO行く気満々らしい。

 その前にちょっとワールドクエストの話、気になったことを聞いておくか。


「なんか、ワークエの最後っぽいところが大変だって聞きましたけど」


「女神像の話かしら? そっちはユキさんたちが調整してくれるから、なんとかなると思うわよ。それより、どうにも気味の悪いプレイヤーがいて、どうしたものかって話になってるのよ……」


『え?』


 寄生なのかどうかわからないけど、ベル部長たちの後ろをついてきてるプレイヤーたちがいて、気分も良くないので先に行かせようとしたら逃げていったらしい。

 同じような報告がいくつかあったけど、そいつらがどこの誰かはわからずじまいらしい。


「不気味っすね……」


「そういうことで揉めたくないのよね。レオナ様がキレると洒落にならないし……」


 と遠い目をするベル部長。

 なんていうか、お疲れさまです……


『週末と祝日で終わりそうですか?』


「そうねえ。土日でメドが立てば、月曜で終わるんじゃないかしら。運営もそんな感じのスケジュールを考えてそうだもの」


「あんまり引っ張ると、期末テストに絡みそうっすよね」


「ええ、それだけは避けたいわね」


 ベル部長の言葉に頷く俺とミオン。

 今週末の土日と開けて月曜は祝日でおやすみ。

 その三連休でスパッと終わってくれないと、テスト勉強に集中できないもんな……


***


「お、いたいた!」


「リュ〜!」


 手を振って俺たちを迎えてくれるのは、ウリシュクの族長パーン。今日も畑仕事を仕切ってくれてるっぽい。


「なんか、パーンって小さい頃のナットに似てるんだよな」


『そうなんですか?』


「うん。今度またアルバムでも見せるよ」


『はい!』


 今日の放課後はウリシュクたちに道具を配るのと、グリシン(大豆)とグレイプルの補充に教会裏へ。

 さっそくグレイプルの方へ飛んでいくフェアリーズ。レダとロイは教会の周りをぐるっと一周見回りに行ってくれた。


「リュリュ」


「お、どうした?」


 パーンに手を取って引っ張られていった先は家畜小屋。

 ヤコッコやエクリューの面倒も見てくれてるウリシュクたちだけど……


「「クピー!」」


「ヒヨコだ!」


『かわいいです〜』


 ヒヨコが2羽。なかなか攻撃的な感じだけど、鑑定したら【ヤヒョッコ】っていうらしいんだけど両方ともメス。

 順調に育ってくれれば、また玉子が増えてくれるので嬉しい。


「リュ」


「「リュ〜♪」」


 パーンが呼んだ子が蔦の編みかごを持ってきてくれて、その中に玉子が10個以上は入ってるのを俺に渡してくれる。もうひとりはヤギミルクがいっぱい入った瓶を。 


「あ、ありがとう。っていうか、パーンたちはちゃんと自分たちの分は取ってる?」


「〜〜〜?」


 スウィー経由で聞いてもらったけど、うんうんと頷いてるから大丈夫かな。

 畑も家畜も世話してもらってるんだから、採れたものはちゃんと持っていって欲しいところ。


『ショウ君、作ったものを』


「あ、そうだった。これ、パーンたちで使って」


 カナヅチ、ノコギリなんかの工具、クワ、スコップなんかの農具、余らせてた木箱や陶器の瓶、複製した小さい樽を取り出す。


「〜〜〜♪」


「リュ!?」


「うん、好きに使ってくれていいよ。足らなかったら言ってくれればだし、壊れても直すからね」


「リュ!」


「え? あ、ちょ!」


 喜んでくれてたと思うんだけど、急に走ってっちゃって……ああ、みんなに報告に行ったのか。

 ああ、そういえば、パーンたちも翡翠の女神の木像は喜んでくれるかな? 忘れないうちに複製しておかないと……


「〜〜〜¥」


「あ、うん。豆乳レーズンアイスね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る