第293話 予備があって困ることなし

 夜。さくっと宿題を終わらせてIROへ。


「さて、溜まってるいろいろ、一つずつ消化していかないとだよな。えーっと、何から始めよう。ミオンはどれがいいと思う?」


『まずはパーン君たちに道具をお願いします』


「りょ」


 俺の代わりに畑仕事やら家畜の世話をしてくれてるんだし、そのための道具を用意するのは最優先だよな。


「ルピたちは好きに遊んできていいよ」


「ワフン」


 そう伝えると、レダとロイを従えて森の方へ。スウィーとフェアリーズを誘いに行くのかな?


「鍛治の道具は向こうにあるし、あとは工具と木材もいくつか持っていかないとだな」


『向こうで作り上げるんですね』


「うん。あと、工芸の複製を使うつもりだし」


『作って複製して、クールタイムの間にまた作る感じでしょうか?』


「そうそう。クールタイムの間は鍛治で必要なパーツを作るのもありかな」


 鉄インゴットは余るほどあるし、鉄鉱石のままのも余ってる状態。

 そのへんの採算を全く考えなくていいのは、本当に楽というかずるいよなあと。

 パーツは予備も含めて作っておけば損はしないし、クールタイムを有効活用していかないとだよな。


『道具を2つずつ渡せるのはいいですね』


「だね。うちの畑だけじゃなくて、持って帰って使ってもらいたいし」


『はい!』


 カナヅチ、ノコギリあたりは小さいサイズのを。カンナとかノミは同じサイズのでいいだろうし、刃の部分を作ったら複製して行こう。

 農具はクワとかスコップかな? 包丁とかもあった方がいいのかな。そういえば、セルキーたちにも包丁とか作ってあげないとなあ……


 ………

 ……

 …


「ふー、だいたい揃ったかな?」


『はい。それぞれ2つずつ揃ってます』


「さんきゅ。じゃ、さっそく……」


 時間的にはあと1時間ぐらいはあるはずだし、これをウリシュクたちに届けに行こう。

 あ、いや、待て。忘れてた!


「ごめん。自分用に包丁をもう一つ作るよ」


『え?』


魔銀ミスリルで作ろうと思って忘れてた。鋏を作るのに手間取って時間無かったんだよ」


『あ!』


 というわけで、魔銀ミスリルを贅沢に使った牛刀包丁を作ろう。

 最初に作った万能包丁よりもちょっと長めに、大きな肉や魚も捌きやすいはず。


「他にも作っておいたほうがいいもの忘れてそう……」


『大きな樽を作っておくのはどうですか? 複製するためにです』


「あ、それもあった……。今日はもう時間いっぱいまで生産するか」


 ワールドクエストが進んでるっぽいけど、俺には関係ないしな。

 あ、いや、微妙に関係はあるのか。第三部に入ったってことは、アージェンタさんたちも例の場所を制圧したんだろうし、何かしら連絡が来るかも?


『ショウ君?』


「あ、ごめん。ちょっと考え事っていうか、アージェンタさんたち、どんな状況なのかなって」


『そうですね。お手紙が来てもいい気がします』


 だよな。戻ったら手紙が来てそうな気がするし、さっさと作るもの作っちゃおう。


 ………

 ……

 …


【最高品質の万能包丁】

『料理に使用する万能包丁。魔銀ミスリル製で最高品質。攻撃力+26。

 料理+1、短剣+1』


『すごいです!』


「牛刀で作ったつもりだけど万能包丁扱いなんだ。いや、それはいいとして、攻撃力+26ってやばいな……」


『いざという時の武器になりそうですね』


「ああ、それもありか。って、短剣のスキルレベルが今9だし、MAXになれば上限突破できそう……」


 なんか、ちょっと短剣のスキルレベル上げたくなってきた。

 そういえば、最近、キャラレベも短剣スキルも上がってないのは、格下とばっかり戦ってるから?

 教会の正門の先に行けばだけど、ワールドクエストが終わるまではおとなしくしてるつもりだし。


『料理も9ですから、あと1つ上げればですよ?』


「うん、魔銀ミスリル包丁はそっちのつもりで作ったし、料理はまあいつもやってるから、そのうち行けるかな」


 さて、あとは大きい樽をなんとか時間内に作れればだな。


『料理の上級スキルってなんでしょう?』


「……なんだろ?」


 木工は工芸になって専門性とか芸術性が上がった感じ? あとアーツ増えたのは意外だったけど、上級にしたくなる仕組みだよな。

 そう考えると、料理の上級で専門性……製菓とか? うーん……


『あ、ごめんなさい。手を止めちゃいました』


「おっと、大丈夫。さくっとやっちゃうよ」


 一度作ってしまえば、あとは複製でどうにでもなるし頑張ろう。


 ………

 ……

 …


 大きな樽はなんとか11時前に完成し、慌てて山小屋へと帰ってきた。

 ルピが「そろそろいつもの時間だよ」って感じで迎えに来てくれてからは、さらにスピードが上がった気がする。

 そのおかげか、工芸(木工)のレベルが上がって4に。アーツの取得はなし。


「ああ、やっぱり手紙来てる! ごめん、ミオン。時間オーバーしちゃってるけど……」


『はい、大丈夫ですよ』


「さんきゅ。さくっと読んじゃうから」


 魔導転送箱を開けて中身を確認。今回は手紙だけ。取り急ぎって感じかな。


『ショウ様


 既にご存知かと思われますが、死霊都市の区画は中心部以外全て浄化され、我々の実働部隊も目的の転移魔法陣と、その周辺区画を押さえることに成功しました。

 さっそく、転移魔法陣をお渡ししたく思ったのですが、その魔法陣自体がしっかりと固定されていて、どう対応したものか悩んでいるという状態です。


 つきましては明日夜にでも、この件について直接詳細をお伝えし、今後の方針を話し合えればと考えております。

 ご都合のほど、いかがでしょうか?


 追伸。お姫様をお連れしてもよろしいでしょうか?』


 固定されてるって、なんか地面に打ち込まれちゃってるとか?

 いやでも、うちにある転移魔法陣はただの板に見えるしなあ……


『困りましたね』


「うん。まあ、ちょっと詳しい話を聞かないとわからないし、明日なら大丈夫かな?」


『はい』


 今日作った道具は明日の放課後にウリシュクたちに配ればいいし、その時にお姫様用の甘味の用意もしよう。


「じゃ、さくっと返事を書こう。明日の夜でオッケーって書くぐらいだけど、ミオンから何かある?」


『あ! 楽譜がないか聞いてもらえますか? 急ぎではなくていいと思いますが、探してもらってもいいかなって』


「あー、おけ」


 楽譜は確かにあれば楽曲のレパートリーが増えるかもだもんな。

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