木曜日

第292話 進む話と進まない話

「よし、ただいま!」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


『お帰りなさい』


 放課後部活のIRO。さくっと山小屋まで戻ってきて、ほっと一息。

 まずはもらったオリーブとオランジャック(アジ)の燻製、採集してきたカムラスの実を保存箱に移しておかないと。

 全部入り切らない気がするな……


「スウィー、これ1人1個ずつね」


 カムラスを人数分、入り切らなそうだし分けちゃおう。

 オリーブはとりあえずは木箱でいいかな。そんなすぐに悪くなったりはしなさそうだし、夜には加工しちゃうつもりだし。


「まだ少し時間あるよね?」


『はい。あと30分ぐらいありますよ』


「りょ。じゃ、ご飯先にしちゃうか」


 せっかくなので、もらってきたオランジャックの燻製をちょっと温め直そう。

 石窯コンロに火を入れ、俺とルピたちの分を温め直す。


『日本酒に合いそうですねー。今日の夕飯は干物にしましょうかー』


「……お酒はほどほどがいいっすよ」


 ヤタ先生、今日はベル部長のライブの見守りもある気がするんだけどな。


『そういえばー、気になっていたことがあるんですがー』


「なんでしょ?」


『回転の魔法を使ったままで他のことはできますかー?』


「あー、元素魔法はダメっす。精霊魔法なら精霊にお願いしとけばいいんですけど」


 一応、収納拡張の魔法は使ったままになるけど、MPの消費の仕方からして、ちょっと特殊だもんな。


『そうですかー。いろいろと使い勝手がいいように思ったんですがー、ずっと魔法に集中してないとなんですねー』


「そうなんですよね」


 固定も回転もその状態を維持し続けるには、ずっとマナを使い続けて掛けっぱなしを維持しないといけない。

 空間魔法の練習にはいいんだろうけど、回してあとはほっとけばいいってするには、何かしら工夫が必要そう。


『風車とか水車とか作ってもいいかもですねー』


「なるほど。そういや、本土には普通に水車小屋とかあるんだっけ?」


『はい。部長のライブで見たことがあります』


 森の奥の泉から外へ流れ出てるし、あのあたりに水車小屋を作るのもありかな。

 それか、この盆地は山からの風があるし、風車の方が近くていいか……


「ワフ!」


「おっと、さんきゅ」


 危ない危ない。温め過ぎて焦がすところだった。

 大きい3つはルピたちに。俺は普通のサイズで十分かな。


「火傷しないようにね」


「ワフン」「「バウ」」


【ワールドクエストが更新されました!】


「お?」


 なんか一気に進んだのかな? えーっと、メニューから……


【ワールドクエスト:死霊都市:第三部「真実」】

『漆黒の森の奥に見つかった廃墟。アンデッドに占拠されたその都市は古代魔導文明が引き起こした厄災の中心地であった。

 アンデッドが巣食う都市内部は、竜族の信頼の証を得た者たちにより浄化され、かつての繁栄をうかがえるほどとなった。

 残るは厄災の中心地。最奥の「英知の核」で待ち受けるのはいったい……

 目的:死霊都市、最奥の「英知の核」を浄化する』


『第三部は最後ですよね?』


「だったはず」


『今回は達成率の表示がありませんねー』


 あ、そういえばないな。

 英知の核ってところを浄化すれば完了だからってことでいいのかな?


「待ち受けるのはって……厄災を引き起こした人がアンデッドで出てくるパターンかなあ」


『お約束的にはそうでしょうねー』


「最奥の『英知の核』ってどこだろ? 周りから制圧してたし、都市の真ん中?」


『フォーラム見てきましょうか?』


「いや、食べ終わって片づけしたら時間だし、ベル部長に聞こうよ」


『あ、そうですね』


 現地にいる部長に聞いた方が早いだろうし、何か掴んでそうな気がするんだよな。


***


 リアルの部室に戻ってきて、ミオンとヤタ先生と相談を。

 と言っても、さっきのワールドクエストの話ではなく、ゲーム内で作る翡翠の女神の衣装をアバター衣装として持ってきていいかっていう問い合わせの件。

 ついさっき返事が来ていて「即答できないので時間が欲しい」って話だったそうで。


「どういうことなんだろ?」


『わからないです。私もいいかダメかで返事が来ると思ってました』


 だよなあ。

 ダメってことは多分無くて、いいけど売り上げの数%は運営がもらうよって話が返ってくると思ってたんだけど。


「どこかのタイミングで公式が売り出そうとしてたのかもですねー」


「あー……」


 それより先に俺が作っちゃうと、いろいろと販売戦略みたいなものが……って話?

 それならそれで言ってくれればなんだけどな。俺はミオンのためにしか作らないつもりだし。


「ミオンさんー。待つのはいいと思いますがー、その返事は事務所を通して伝えた方がいいかもですー」


『は、はい。そうします』


 ヤタ先生、結構えぐいよな……

 まあ、俺らみたいな知識のない高校生よりも、椿さんあたりに交渉してもらった方がいいとは思うけど。


「あら。2人も早いわね」


「あ、どもっす。ワークエ進んだんで話を聞きたくて」


『です』


 ベル部長もいつもより少し早く戻ってきた感じ。

 俺たちがどういう状況なのかを聞く前に、自身のアーカイブ動画を表示して途中までシークするベル部長。


「ここからかしら。私が第一発見者じゃないんだけど……」


 再生された瞬間、さっきのワールドアナウンスが流れて、ベル部長や周りの人たちがざわつき始める。


『ベル、どうやら次に進むみたいだよ』


『レオナさん。エリアボスでもいたんですか?』


『いや、三方ある入り口前の区画を制圧したからじゃないかな?』


 ベル部長は後から来た感じなのかな?

 白銀の館の人たちや、雷帝の座の人たちも集まってきて、今日のライブで入ってみようかなんて話をしている。


「三方って?」


「この先に小さく映ってるのが南側の門ね。あと、北東と北西に同じような門があるらしいわ」


 画面を拡大して、それを見せてくれる。

 死霊都市の中心部に見えるのは、多分、円形のでかい建物。

 そこに二車線ぐらいの広い入口があって、格子の門がどーんとそれを閉ざしている。

 あれ? これって……


「あー」


『どうしました?』


「いや、この門、島の教会の正面を閉じてるやつとそっくり……」


『あ!』


 やっぱり次のエリアって意味合いなんだろうな、あれ……

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