第289話 ないなら作ればいいじゃない

 ライブに備えて、少し早めのログイン。

 まずは、パプビネガーが完成してるかを確認。

 パプの実を詰めた小さい樽を魔導醸造器に置いてみたら、『パプワイン』と『パプビネガー』って出てビックリしたんだけど、とりあえず『パプビネガー』を選択した。

 お酒は作っても味がわからないし、アージェンタさんがグレイプルワインを気に入ってくれたなら、パプワインも試すかな。


【パプビネガー】

『パプの実を発酵させて作った酢。グレイプルビネガーに比べて甘みがある。

 料理:調味料として利用可能』


『できてますね!』


「よしよし」


 ちょっと味見を……

 うん、甘みがある酸っぱさは柿酢とそっくりで和風だよなあ。紅白なますとか作れそう。

 とりあえずは前にやった南蛮漬け? フラワートラウトの甘露煮とかできるかも?


「これはオッケーとして、オリーブの方は持ち帰ってからになるかな」


『すぐは無理ですか?』


「実を絞った後に1日ぐらい放置して、油分と果汁を分離する必要があるんだって」


 部活の時にセルキーたちがくれたオリーブだけど、結局、どうやって油を抽出するのかわからなかったし、時間もなかったのでそのままに。

 ログインする前に軽く調べて、すごく簡単だったのを知って……わかってたら、やっとけばよかったなと。


「ライブで時間余ったら試してみるかな」


『あ、そうですね。視聴者のみなさんにお話を聞きながらもいいかもです』


「だね」


 ともかく、パプビネガーは完成なので脇へと避ける。代わりに大樽を置いて、中にグレイプルを放り込んで……まずはグレイプルワインにしておいて、ライブ終わってからビネガー追加でいいか。


「さて、あとは食材の準備」


『あ、先生がスタジオに来られました』


『こんばんはー』


「ばわっす」


『ところでー、ミオンさんの衣装は変えないんですかー?』


 あ……


『探してはいるんですが……』


「これっていう感じの服が見つからなくて保留中っす……」


『なるほどー』


 椿さんも探してくれてて、いくつか候補はもらったんだけど、どれもコスプレっぽい感じなんだよなあ。

 ミオンがヤタ先生とあれこれと相談してるっぽいので、俺は俺でライブの準備を進めておこう。


「ルピ。スウィーたちは?」


「ワフ」


 部屋の方へ出ると、レダとロイに寄りかかって寝ているスウィーたち。

 2人は目を覚ましてるんだけど、寝てるのを起こさないように気をつかってくれてるっぽい。


「起こしていいよ?」


「ワフ」


「「バウ」」


 すくっと立ち上がった2人から、ずるっと滑り落ちるフェアリーたち。

 キョロキョロとあたりを見回してから、


「「「〜〜〜♪」」」


 おはようって感じなのかな?

 小皿にグリーンベリーを盛ってテーブルに置くと、わっと群がって、どれを食べようかなんて楽しそうな雰囲気。

 で、それはそれとして、スウィーだけそのままぐーすか寝てる件……


「ルピ。女王様起こしてあげて」


「ワフン」


 そう言ってみたものの、どうやって起こすんだろうと見てると、尻尾でスウィーの顔を撫ぜて……


「〜〜〜!!」


 なんか「ぶぇっくしょい!」って感じ大きなくしゃみで目を覚ますスウィー……

 きょろきょろとあたりを確認し、そういえばそうだったみたいな顔を。

 ふらふらと浮き上がって、定位置の左肩へ座ると大きなあくびを一つ。


「〜〜〜……」


「はい。これ食べて目を覚まして」


 グリーンベリーを受け取ってぱくっとかぶりつくスウィー。

 ライブのご飯の下ごしらえを始めよう。トゥルーたち、倉庫にいるかな?


『ショウ君の裁縫スキルっていくつですかー?』


「え? えっと、素が8で鋏で+1して9ですね」


『ゲーム内で作ってー、それをアバターアイテムとして持ってこれませんかねー』


 えええ……

 うーん、不可能でもないのかな? 亜魔布と糸は十分あるけど、見ただけで作れるかどうかはいまいち自信がない。

 アージェンタさんに「ドレスください」って言えばもらえるか? ちょっと恥ずかしいけど、白竜姫様用のドレスとかあるよな?


『できますか?』


「参考になるものがあればできると思う。でも、翡翠の女神の服そっくりになったら、運営がやっぱりダメとか言わないかな?」


 俺がそれを売りに出すつもりはないけど、真似をして売りに出したりする人が出てくるかもだし。


『なるほどー。一度、運営に問い合わせてみてもいいかもですねー』


「ああ、そっすね。ミオン、お願いしていい?」


『は、はい!』


 ミオンもアカウントはあるし、お問合せはできるよな。

 そっちは任せて、俺は飯の準備しよ……


 ………

 ……

 …


『みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムへようこそ!

 実況のミオンです。よろしくお願いします!』


 挨拶がすごい勢いで流れていくのを見つつ、ルピをモフって心を落ち着ける。

 スウィーもすっかり目が覚めたのか、隣に座っているトゥルーと何か話をしてるっぽい。

 場所は酒場前。前と同じようにテーブルや椅子はこれからのご飯に備えて、外に出してあって、あとは料理の到着を待つのみっていう感じ。


『それでは、さっそくショウ君につなぎますね。ショウ君、ルピちゃん、スウィーちゃん、そして、トゥルー君〜』


「ようこそ、ミオン」


「ワフ〜」「〜〜〜♪」「キュ〜♪」


【ブルーシャ】「久しぶりの海〜ヽ(=´▽`=)ノ」

【ルコール】「トゥルー君、かわよ〜♪」

【クランド】「女神像の名前決まりました?」

【ラッセーラ】「ルピちゃんバンダナ可愛い!」

 etcetc...


 トゥルーは久しぶりだからか、みんなテンション高いなあ。

 本人は当然そんなことはわからないので、スウィーと楽しそうに話してるけど。

 あと、バンダナの件はどこかで話さないとかな。で、まずは……


『今日はショウ君が作った翡翠の女神の木像の名前を決めた話からですね』


「うん。たくさんのコメント、ありがとうございました」


【マハチャン】「結果発表〜!」

【クサコロ】「ドキドキ……」

【ジョント】「どっち系かな〜」

【ビジョナー】「だだ甘希望w」

 etcetc...


 正直、めっちゃ恥ずかしいやつとかもあったけど、


「えっと『島を見守る女神ミオン』にしました!」


 その発表にすごい勢いでコメントが流れ、それがどんどんと投げ銭にもなっていく。

 うん、まあ、恥ずかしいやつ推しだった人が残念がってるけど、さすがに勘弁してください……

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