水曜日
第288話 女王様オンステージ
「じゃ、出発〜」
「ワフ〜」
「〜〜〜♪」
放課後はさくっと準備をして出発。ご飯はライブの時ってことで後回し。
昨日はあの後、アージェンタさんに返事を書いた。
獣人さんが作ったとろとろ干しパプが美味しかったこと、他の料理や甘味の作り方をレシピにまとめたり。
あと、ニーナにもわからなかった魔導線の作り方について教えて欲しい旨も書いたけど、何か手がかりになりそうな本とかがあればって感じかな。
そして、小さい瓶に詰め替えたグレイプルワインを添えてみた。アージェンタさんが喜んでくれるといいんだけど……
返事があるとして今日の夜? ただ、今日は港で過ごして明日の放課後に帰ってくる予定なので、その辺も伝えておいた。
『晴れてくれて良かったですね』
「だね。海は荒れると洒落にならないし……」
階段に差し掛かったところで、一応確認を。
「ニーナ。特に異常とかない?」
[はい。異常はありません]
「りょ。まあ、中で何かってのはもうないかな?」
『ですね。セルキーさんやウリシュクさんも、中に入ってもらっていいんじゃないですか?』
「なるほど……」
何かしら外で危ないことが起きた時に、古代遺跡の中に逃げ込んでもらうのはありだよなと思ったんだけど、ミオン的にはもっと普段からってことらしい。
つまり、
「教会裏と港で物をやりとりする感じ?」
『です』
セルキーたちはあんまり海から離れられないだろうけど、ウリシュクたちならって話。
でも、結構距離があるんだよな……
「うーん、保留で。あんまり遠出させたくないし、転移魔法陣が手に入れば、俺が行き来すればすぐで済むからさ」
『はい』
というか、転移じゃなくて転送でもいいんだよな。
空間魔法の測位で座標は取得できたはず? なので、荷物をそっちへ送る転送ができればいいわけで。
「〜〜〜♪」
転移エレベータを通って、展望台への扉を開けると、スウィーとフェアリーズが飛び出して、お供えの花を探しに行ってくれる。
「ルピ、お願い」
「ワオォォォ〜ン!」
「「オオ〜ン!」」
ルピに続いて、レダとロイが吠える。
その遠吠えの声がこだまし、しばらくするとドラブウルフの家族たちが展望台へとやってきてくれた。
「ワフ」
ルピが許可したのか、レダもロイもそれぞれの親兄弟のところへ行って、嬉しそうにしている。
ルピがちょっと寂しそうに見えて……
「ルピ」
「ワフ〜」
俺も似たようなもんか……
そういえば、ルピの父親は結局どこへ行ったんだろ?
「〜〜〜?」
『ショウ君?』
「ああ、ごめん。ありがとう」
スウィーとフェアリーズが花を供えてくれたので、みんなでお祈りを。
あ、そうだ……
「うまく吹けるといいけど」
『大丈夫ですよ』
多少ミスっても、こういうのは気持ちだよなってことで。
演奏アシストをオンにして待つことしばし。
『古代聖歌<魂は女神の元へ>が選曲されました』
さすがに少し慣れてきたのと、あんまり難しい曲じゃなくて良かった。
しっとりとした感じの曲に聴き入っていたフェアリーズだけど……
「〜〜〜♪」
「「「〜〜〜♪」」」
透き通る綺麗な合唱で参加してくれる。
そして、サビの部分? ソロパートを歌いあげるスウィー。
よくわからないけど、すごく歌がうまいのはわかる……
「ふう」
【演奏スキルのレベルが上がりました!】
『すごく良かったです!』
ミオンが拍手してそう言ってくれるのが素直に嬉しい。
ほとんどスウィーとフェアリーズのおかげだけど、ミスはしなかったのでよし。
「スウィー、歌うますぎでしょ」
「〜〜〜♪」
ドヤ顔ではなく、テレ顔のスウィーも珍しい。
ルピやドラブウルフたちも嬉しそうでなにより。
『今日のライブで演奏しましょう!』
「それは恥ずかしいから勘弁して……」
………
……
…
「じゃ、またなー」
「「バウ!」」
港を見下ろせるところまで付き合ってくれたドラブウルフたちとお別れ。
時間的にもまだ余裕があるということなので、のんびりと坂を下っていくと、倉庫の方から煙が上がっているのが見える。
「お? トゥルーたち、燻製室使ってくれてるっぽい?」
『みたいですね』
途中、フェアリーズがカムラス畑に行きたがったので、レダとロイに護衛をお願いし、俺とルピ、スウィーは酒場へと向かう。
「キュ〜♪」
『トゥルー君です!』
「トゥルー! 元気そうで良かった!」
走ってきたトゥルーを受け止めるとずいぶん軽いのでびっくりする。
ちゃんと食べてるのか心配になるんだけど、俺のSTRが高いからなのかもと。
ルピも大きくなってきたけど、全然重いって感じしないもんな。
「キュキュ!」
「うん、わかったわかった」
俺の手を引っ張って行く先は倉庫の方。
多分、他のセルキーたちが魚の干物か燻製を作ってるんだろうなと。
「キュ〜」
「「「キュ〜」」」
「おー!」
トゥルーの声に振り向いて、俺たちに気づき、挨拶してくれるセルキーたち。
魚を捌いて燻製を作ってるようで、その手つきも慣れたもの。
特に手伝う必要もないなあと思っていると、
「キュキュ!」
「え?」
『なんでしょうか?』
さらにそうこの奥の方へと進むと、そこには以前いろいろと渡した時に使った木箱があり、その中身は、
「え、これって」
【オリーブの実】
『オリーブの木の実。油分を多く含む実で主に食用油の抽出に利用される。
素材加工:オリーブオイルに加工可能。また、塩漬け、油漬けなどに加工可能』
『すごいです!』
「うわ、ありがとう! すごく嬉しい!」
「キュ〜♪」
でも、これどこで採れたんだろ?
このあたりでオリーブの木が生えてそうなのって、カムラスがあったあたり? 見逃してたのかな?
「スウィー、このオリーブ、どこで採れたか聞いてもらっていい?」
そうお願いすると、スウィーからトゥルーへと質問が伝わって、
「キュキュ」
トゥルーに手を引っ張られて、倉庫の外へと出ると、
「キュ〜」
右手(ヒレ?)で差した先は、以前、トゥルーたちが住んでいると言っていた岩礁の向こう側かな。
「ああ、超えた先があるのか。そういえば行ってないなあ」
『島の東側ですね』
「うん。断崖絶壁が続いてるのかなって思ってたけど、オリーブがあるんなら、他にも何かありそうで気になるな……」
ちょっと行ってみたいところだけど、俺は泳ぐとして、ルピとスウィーを連れて行けるかなんだよな。
なんかこう、たらい舟でも用意すればいいのかな? すごく間抜けな感じだけど……
『あ、ショウ君。そろそろパプの実を仕込んでおかないと時間が』
「あ、やべ。トゥルー、ちょっと荷物置いたりしてくるから」
「キュ〜♪」
パプ酢? パプビネガー? それ以前にパプワイン……にはならないよな。
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