第286話 働く大人への贈り物

『あ、着信があるみたいですね』


「うん。そろそろ目的の場所ぐらいまで行けたのかな?」


 夜。ログインしてベッドから下りると、魔導転送箱に着信アリ。

 開けた中には手紙と革袋?

 何かまた貴重なものでもと思って革袋を開くと……え? とろとろ干しパプ?


「あれ? なんかいまいちだった?」


『でも、それを返品してくるとは思えないです……』


「そうだよなあ」


 あの真面目で温厚なアージェンタさんがそんなことするとは思えない。

 1つ取り出して真ん中で割ると、良い感じにトロッとした果肉。

 パクッと一口……うん、美味しい。


「ルピ、どう?」


「ワフ〜」


 ルピも美味しいって顔してるし、問題はなさそうなんだけど。


『手紙に何かあるかもですよ?』


「だね」


 えーっと……


『ショウ様


 現在の進捗についてご報告させていただきます。

 竜人族の部隊は北門を制圧後、女神像を利用して区画を確保しつつ前進中です。

 早ければ明日、遅くとも今週末には目的の場所まで到達できる見込みです。


 別件でお願いなのですが、こちらで獣人が作ってみたパプの甘味を試食していただけますでしょうか?

 大まかな手順を伺っておりましたので、それにそって再現したものとなります。

 こちらではほぼ同じものが作れたと思っておりますが、ショウ様のご意見を伺いたく。


 以上、よろしくお願いいたします』


 なるほど。


「これって向こうで作ってみたやつなんだって」


『向こうでですか?』


 パプの実は本土でも普通にあるって、前にベル部長も言ってたもんな。

 あとは乾燥の魔法の加減しだいだから、一番簡単に作れる甘味だと思う。


「うん。獣人さんに作らせてみたんだけど、これで合ってるか俺にも試食して欲しいんだって」


『あの……それだけですか?』


「あ、いや、死霊都市の方の進捗も書かれてるけど、そっちは目的の場所の近くまで制圧できたので、もう少し待って欲しいってぐらい」


『なるほどです』


 あとはスウィーとフェアリーズに聞いてみればいいか。

 なんだけど……


「雨はちょっとマシになったぐらいか」


『ですね』


「雨がやんだら散歩に出るとして、まずは銅媒染液を確認しとくか」


 裏口から土間へと出ると、レダとロイが気付いたのかルピのそばへとやってきて伏せる。

 賢いなあと思いつつ、銅媒染液を何か平皿にちょろっと出してみるんだけど……


「うーん、わからん。グレイプルビネガーがうっすら赤いからなあ」


『そういえば、ワインって赤とか白とかありますけど、どうやって色分けされるんですか?』


「え、ああ、あれはぶどうの皮を取れば白ワインだったはず。そうか、グレイプルの皮を取ってから醸造すれば。でもなあ……」


 めちゃくちゃ手間だよな。

 一粒一粒皮を剥く作業を1人でやるのは時間がもったいない気が……


『セルキーさんたちに手伝ってもらうのはどうですか?』


「あー、その手があったか」


『あと、ショウ君が作ってるきな粉や片栗粉もウリシュクさんたちにお任せできたりしないかなって』


「やってくれるかな?」


『ちゃんとお仕事分の報酬を渡せば大丈夫だと思いますよ』


 ミオンがそう柔らかく答えてくれるので、なんか大丈夫そうな気がしてきた。

 セルキーたちとはそもそもそういう間柄だし、ウリシュクたちはどっちかっていうと無償でやってくれそう。

 けど、それはなんか嫌っていうか、タダ働きさせるのはどうかと思うし、ちゃんと報酬を渡すことにしよう。


「じゃ、それは任せることにして、バンダナを染めるよ」


『はい。でも、草木染めに必要なものは足りてるんですか?』


「多分? 笹ポにつけようかと思って」


『え?』


 ミオンが驚いてるようなので染め方の手順説明を。

 と言っても、これは俺がばーちゃんを手伝った時の手順なので、合ってるかどうかは微妙なところ。

 試してダメだったら、その時また考えるってことで。


「えっと、まずは豆乳と水を混ぜたものに浸けてしばらく待ちかな」


『なぜ浸けるんでしょう?』


「色がつきやすくなるって話らしいよ?」


 原理はよくわからないけど、染料にそのまま浸けるよりもいいらしい。

 リアルなら30分から1時間ほど浸けるといいらしいけど、ゲーム内時短が効いてくれるはず。


「15分待ちの間にアージェンタさんに返事を書くかな」


『そういえば、甘味ばかり送ってる気がしますが、他のものはダメなんですか?』


「え? ああ、そういえばそうだな。白竜姫様、オムレツ美味しそうに食べてたし、保存箱があるから料理を送るっていう手もあるのか」


『あと、できれば、転移の魔導具を確保しようとしてくれる人たちにも……』


「あー、そうだよなあ。なんか任せっきりになってるけど、よくよく考えたら体張ってくれてるわけだし……。さんきゅ、ミオン。ちょっと真面目に考える」


『はい!』


 てか、まずはアージェンタさんにだよな。

 こっちから送って嫌がられなくて、かつ、白竜姫様用じゃないもの……


「グレイプルワイン送るか……」


『え?』


「いや、普通に食べ物送ったら白竜姫様が全部食べちゃう気がしない?」


『……します』


 オムレツも豆乳スープもわらび餅もアイスも白竜姫様が好きそうで、全部そっち行っちゃいそう。

 アージェンタさんにって書いてあっても、白竜姫様が欲しがったらあげちゃうんだろうなあ……


「お酒ならさすがに飲ませないと思うけど……どうかな?」


『いいですね。グレイプルはたくさん取れますし、作る手間も少なくて済みますし。でも、運ぶのがちょっと大変そうです』


「あー、そうなんだよな。まあ、今回はお試しってことで、前に作ったグレイプルワインを送ってみるよ」


『なるほどです』


 ワイン煮込みとかで使うかなと思ってたけど、結局、使わないままのがある。

 気に入ってくれてって話になると嬉しいんだけど、そうなると真面目に大きな樽を作ること考えないとダメかな。

 小さいのは前に一つ作ったし、サイズアップだけでいけるはず。増やすのは<自作複製>で行ける気がするし……


『あ、ショウ君、15分たちましたよ』


「りょ」


 取り出したバンダナをしっかり絞って、さらに乾燥の魔法をかけて完全に乾かす。

 で、これを今度は笹ポに浸けて、かなり弱火で煮る。沸騰させるとダメだってばーちゃんが言ってたので。


『それで染まるんですか?』


「この後に媒染液を薄めたのにつけて、色を定着させる工程があるよ。で、薄かったらまた、色水で煮てって繰り返す感じ」


『大変なんですね』


 リアルでやると大変だよなあ。

 ゲーム内の時短があっても大変だけど、さて、どれくらい染まるかな?

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