火曜日

第285話 雨の日はしっとりと

「もう70%近いって、早くないすか?」


「人が揃えばそんなものよ。『区画を浄化』の謎が解けてるのもあるわね。みんな『名も無き女神像』を見つけるのに必死よ?」


 とベル部長。

 例の思い浮かべる女神に近くなるそうで、それが試したくて張り切ってる人たちも多いらしい。


「特に帝国側はゲームドールズのファンの人たちがすごいらしいわ」


「『え?』」


「自分の最推しが女神像になって設置されるかもなのよ? 彼らにしたら是が非でも欲しいアイテムだと思わない?」


 あー……

 なんか奪い合いになってそうで、ナットがめっちゃ苦労してそうな予感。いや、実際に苦労するのはポリーいいんちょなんだろうけど。


『最推し……』


「え? あ、まあ、うん……」


「はいはい、ごちそうさま。じゃ、私は行くわね」


 にっこり笑ってから、すっと目を閉じるベル部長。

 聞くまでもなく、IROに行ったんだろう。


「じゃ、俺も。行ってきます」


『はい。いってらっしゃい』


***


 食後の後片付け。水の精霊にお手伝いしてもらって、洗い物を終わらせる。

 精霊パワーなのか、洗剤とかなくてもスパッと綺麗になるし、軽く乾燥の魔法をかければ終わりなのが嬉しい。


「さて、どうしよ?」


『すごい雨ですもんね』


「こんなに降ってるの初めてかもね」


 ちょっと散歩になんて気も起きないぐらい降ってて、スウィーたちフェアリーズが心配になる。

 トゥルーたちセルキーは荒れた天気でも問題なさそうだし、パーンたちウリシュクは崖に空いてる洞穴に住んでたので、そっちも多分問題ないと思う。

 飼ってるエクリューやヤコッコも中に避難させられるだろうし。


「ルピ、今日は家でおやすみでいい?」


「ワフン」


 しょうがないよねって頷いてくれるルピを思わず撫で回す俺。

 レダとロイが羨ましそうに見てるので、おいでおいでをして、3人まとめてもふもふ分を補充。

 さて……


「うーん、積んでるタスクの中に何か手頃なものが……」


『ショウ君。ルピちゃんたちのバンダナを作ろうって』


「あ、それだ!」


 染色のこともあるけど、今回は先に作ってからでいいか。

 亜魔布は除幕式に使ったやつがインベントリに入れっぱなし。これを再利用しよう。


「ルピ、ちょっとこっちおいで」


「ワフン」


 揃えた膝の上をポンと叩くと飛び乗ってくるルピ。

 おすわりしてもらって、折りたたんだ亜魔布をあてがってサイズ調整……


『少し大きめに作っておいた方が』


「あ、そうだね。ルピももっと大きくなるもんな?」


「ワフン!」


 もうすでに助けた時から一回り、いや二回り以上は大きくなってるよな。

 とりあえずこれくらいってことで、さらに大きくなったら作り直そう。

 多分、その時にはもっといい布があったりするはず……


 ………

 ……

 …


「よし、できた」


【裁縫スキルのレベルが上がりました!】


 あ、久しぶりに上がった。


『おめでとうございます』


「さんきゅ」


 これでえっと……8か。裁縫道具を足して9は高い方だよな。

 まあ、専門でやってる人はとうに10になってそうな気はする。

 ナットに聞いた話だと、鎧は革系を使う人が多いらしい。重さと静穏性、そしてお値段の問題で。


『ショウ君、鑑定を』


「そうだった……。どうも忘れちゃうんだよな。現実だとそんなことできないからなんだろうけど」


 逆にこっちに慣れ過ぎた人って、現実世界で鑑定しようとか思ったりしないのかな? 口に出さないでできるからバレないだけとか?


【高品質な獣用バンダナ】

『亜魔布で作られたバンダナ。高品質。

 MP回復30秒につき+3』


「お? これはかなり良い感じ?」


『だと思います。今、ルピちゃんがつけてるアミュレットが30秒で+5ですし』


 あ、そうだった。

 あれと合わさると、30秒で+8、1分で+16だからでかいよな。


「ワフ?」


「おっと、ちょっと待ってな。これから染めるから」


 さすがに家の中で染めると、染料が飛んだ時に後悔しそうなので外で。

 レダとロイは休んでるだろうし、裏口から走って土間へ下りる。


『草木染め? でしたよね』


「うん。っていうか、先に銅媒染液作っとけば良かったな」


 空いてるポーションの瓶を一つ取り出して、その中に銅片を入れる。

 そこに水とグレイプルビネガーを同量足す。

 あとは放置なんだけど、これ確か時間かかったはず……


『グレイプルビネガーだと紫になっちゃいませんか?』


「そんな気もするけど、今、お酢ってこれしかないんだよな」


 いや、港にある魔導醸造機を使えば、他にもお酢にできそうなものが……


「あー」


『どうしました?』


「いや、パプの実って柿そっくりだから、柿酢と同じ要領でパプ酢が作れるんじゃないかなって」


『柿からお酢が作れるんですか!?』


 ミオンが驚いてるけど、ばーちゃんは普通に作ってた記憶。

 傷んだところをとって、洗わずにそのままガラス瓶に詰め込むだけ。

 柿の皮に酵母があるんで、洗っちゃダメだとかどうとか……後で調べておこう。


「そんな感じだから、パプの実を瓶に詰めて、あの魔導醸造器でポチッとやれば、1時間ほどでできそうな気がするんだよな」


『すごいです!』


「あの醸造器がね。ライブに来てるシェフの人とかだと、もう実用化してそうな気がするなあ」


 和風の酢の物なら、グレイプルビネガーよりパプ酢の方が絶対に合いそうなんだよな。

 いやいや、料理は後にして、染色が先だった。


「今って何時ぐらい?」


『5時を回って少ししたところです』


「また微妙な時間だなあ」


 うーん、グリシン(大豆)挽いてきな粉でも作っとこうかな。あ、オーダプラ(じゃがいも)から片栗粉、いやレグコーン(とうもろこし)の方が優先度高いか。

 どっちにしても回転の魔法は空間魔法の練習にもなるし……


『笛の練習をしませんか?』


「あ、あー……。レダやロイのお昼寝の邪魔になったりしないかな?」


『大丈夫ですよ。雨音の方が大きいです』


 まあ、こういう時ぐらいはいいか。

 笛を取り出して構えたところで、


【演奏アシストをオンにしますか?】


 これ毎回出るのかな? オン一択だけど。


【古代民謡<虹色の雨>が選曲されました】


 それっぽい選曲。

 やっぱりレベルに合わせてくれてるっぽくて、スローテンポでしとしと雨が降る感じの情景をイメージした曲かな?

 こういうことはミオンに聞いた方が的確な答えが返ってきそうだけど。と無事に一曲吹き終わり。


「ふう……」


『すごく良かったですよ。次の曲に行きましょう』


「りょ」


 うまくできると楽しい……

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