第284話 ウリシュクたちのお宅拝見

「リュ〜♪」


「あ、美味しかった?」


 とろとろ干しパプを食べ、とても嬉しそうな顔のパーン。

 トゥルーたちセルキーも好きだし、妖精たちには安定の甘味だよなあ。


「〜〜〜♪」


 一足先に食べ終えたスウィーが、こっちこっちって感じでマントを引っ張る。


「ん? ああ、向こう側は畑なんだ」


 神樹の南側に小さめの畑がいくつか並んでて、何かいろいろ植えられてるっぽい。

 というか、実際に見たことある野菜がいろいろと。


「うわ、キャベツにキュウリ、ナスにカボチャもある!」


『お野菜たくさんですね!』


 鑑定するとそれぞれ、キャピタ(キャベツ)、キューカ(キュウリ)、メランザ(ナス)、クルビータ(カボチャ)と出て、物としてはリアルと一緒っぽい。

 根菜もキャロッタ(ニンジン)、ケーパ(タマネギ)、ルディッシュ(ダイコン)と植えてあってかなり本格的。


「リュリュ〜♪」


「うわ、ありがとう」


 いい感じに熟れてるやつを採って、俺に渡してくれるパーン。

 一通り全種類の野菜をもらっちゃって、インベントリがいっぱいになりそう。

 それとは別の畑で気になるのが、背が高く2m近くありそうなやつなんだけど……鑑定。


【レグコーン】

『大陸全般に生息し、高地でも栽培できる植物。栄養価の高い実を目的に栽培されている。

 料理:実は焼いて食べるのが一般的。素材加工:実を粉にして食材として利用可能』


 あれ? これって……


『何かわかりますか?』


「とうもろこし!」


『え?』


 ああ、ミオンはあの黄色い状態でしか知らない感じかな?

 これでコーンフラワー(とうもろこし粉)が作れれば……


「このレグコーン、とうもろこしを粉にしてパンが作れるかも?」


『パンが作れるんですか?』


「うん。コーンブレッドっていうパンよりもケーキのスポンジに近いかな? バター、玉子、牛乳、砂糖があればいいんだけど、パーンたちのおかげで全部揃いそうな気がする」


 ただ、ちょっと食材が今の状況からすると贅沢なんだよな。

 まずはとうもろこし粉だけでトルティーヤを作る方がありな気がしてきた。


「リュリュ〜」


 そんなことを考えてると、パーンがレグコーンの房をどんどん採って、俺に渡してくれる。

 ゲームだからすぐまたできるんだろうけど、自分たちの分もちゃんとあるんだよな?


「うわ、ありがと! これ以上は持てないから、もう大丈夫」


 パーンが「残念〜」みたいな顔をしてくれるのが心苦しい。

 いや、もう野菜もたんまりもらってるし、もらいすぎなんだけどさ。


「さて、じゃ……」


『ショウ君。この場所って端っこはどうなってるんでしょう?』


「あ、そうだね。スウィー、この場所の端っこまでパーンに案内してもらえるかな?」


 そう伝えると、パーンが更に南西側へと案内してくれる。

 少し林を歩いた先が明るく、開けた場所に出るのかなと思ったら、


「ワフッ!」


 先行していたルピが立ち止まって注意をうながす。

 なんだろうと思ってると……


「うっ……」


『あ、あまり端っこに行かないほうが……』


 もうあと数歩歩くと、そこから先は地面がない状態。

 下まで50mぐらい? 落ちたら確実に1デスな高さで、眼下に広がるのは崖際の森とその先に草原。

 左右を見渡すと……断崖絶壁がずっと続いてるのか、これ。


『向こうに見えるのは川でしょうか?』


「あー、そうっぽいね。山小屋のある泉から流れ出たのも合流してそう」


 教会の正門の向こうにも川があったような気がするし、やっぱり北西側は平地が広がってて、川もあって、小麦とか米とかありそうな感じなんだよな。

 やっぱりワールドクエストが落ち着いたら、門の外へ出てみるか……


「じゃ、あとはパーンたちの家にお邪魔していい?」


「〜〜〜?」


「リュリュ〜♪」


 ………

 ……

 …


 来た道を戻り、神樹を横切って更に進むと、切り立った山肌が見えてきた。

 そして、その山肌に見えるいくつもの洞窟? 洞穴?


「リュ〜!」


「「「リュリュ〜」」」


 パーンの呼びかけ(?)に洞穴から現れたウリシュクたちが崖を降りてくる。

 10cmも無いような足場をひょいひょいと降りてくるウリシュクたち……


「すごいな……」


『転ばないか不安でドキドキします』


 これならモンスターが襲ってきても、家の中に逃げ込めば大丈夫だろう。

 そもそも、この場所も台地って感じで登ってこれなさそうだし。

 気になるのは空から来るモンスターと、地面潜ってくるやつぐらいか。


「呼び出しちゃってごめんな。これ、みんなで食べて」


「リュ〜♪」


 とろとろ干しパプ、持ってる分をインベントリから全部出しておすそ分け。

 パーンが2つに割って食べるんだよ〜って感じで説明してくれてるのが微笑ましい。


「あれ? そういえば、パーンたちのヤコッコとかエクリューはどこにいるんだろ?」


 この崖下は木々がまばらになってるけど、特に飼育小屋みたいな場所はないよな。まさか教会裏にいるので全部だったり?

 キョロキョロと見回してると、


「「「クケー」」」


「「メェェェェ」」


 地上にあるいくつかの洞穴から、ヤコッコとエクリューたちが現れる。

 あたりの草を食べ始めたり、ふらふらと神樹の方へ行ってしまったりと、なかなかフリーダムな感じ。


「なるほど。洞穴で飼ってるんだ。安全っちゃ安全なのかな」


『迷子になった子が教会に降りてきちゃったんですね』


「だろうね。迷子っていうか、教会裏の畑につられた気がするけど……」


 グリシン(大豆)やオーダプラ(ジャガイモ)はウリシュクたちの畑にはなかったから、それが気になって降りてきちゃったとか。

 さて、そろそろお暇……の前に、ここへはアレが必要なのか確認しに来たんだった。


「これって使う?」


「リュ?」


 魔導常夜灯と魔晶石を取り出して見せるんだけど……わかんないよな。

 説明するよりも見せたほうが早いだろうしということで、魔晶石にマナを注いでセット。


「リュ〜!」


 光るそれに驚くパーンとウリシュクたち。

 でも、よくよく考えたら、普段から暗い洞穴に住んでるから、いらない気がしてきた……


「リュリュ?」


「〜〜〜♪」


「リューリュ」


 なんかスウィーとあれこれ話してるなーと思ったら、それを受け取って、近くにある木の枝に引っ掛けた。


「リュ〜♪」


『あ、ヤギさんやニワトリさんのために使うんじゃないですか?』


「なるほど」


 このあかりがある方向が家だってわかるもんな。

 家畜だけじゃなくて、ウリシュクたちにも十分目印になるだろうし。


「じゃ、帰ろうか。そろそろ時間だよね?」


『はい。10時半を過ぎました』


「りょ」


 いろいろと食材が増えたし、料理のレパートリーも増えそうで嬉しい。

 ウリシュクたちにも、塩とかコショウとか調味料のおすそ分けしないとだし、明日はちょうど南側をぐるっと回る日。

 いろいろ補充しないとだよな。

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