第283話 妖精の集う場所
「時間はまだ大丈夫だよね?」
『はい。9時半ですし、パーン君たちの工具を作りますか?』
「さんきゅ。その前に先に崖の上に行けないかなって」
『え? えっと、どうやって……』
とりあえず行って帰ってくるぐらいなら、そんなに難しくないかなと。
はしごを作ってもいいんだけど、今すぐならこれでいいはず。
「パーンにこのロープ持って上に行ってもらって、どこか木に回してもらってかな」
罠に使ってるロープはグレイディアでも引きちぎれないし、俺とルピを支えるくらいならできるはず。
「スウィー、パーンに崖の上の案内してもらえるか聞いてくれる?」
「〜〜〜♪」
ぐっとサムズアップして、パーンの元へと飛んでいくスウィー。後でご褒美が必要なやつだろうなあ。
『ルピちゃんはお留守番ですか?』
「ううん、これに入ってもらって背負うつもり」
魔導常夜灯をしまってあった木箱。
板がピッタリと合わさってるわけではなく、隙間があるやつなので、そこにロープを通してベルト代わりにすればランドセルみたいに背負える。はず。
「よし。ルピ、入ってみて」
「ワフン」
すぽっと木箱に収まったルピを背負ってみて……意外と平気だな。今後のこともあるし、背負子を作ってもいいのかも?
『重くないですか?』
「平気平気。STRとVITがあるからじゃないかな」
リアルだとそれなりに重い気がするけど、ルピもまだ成犬……成狼ってわけじゃないしなあ。
「リュ〜♪」
パーンが笑顔でやってきたので、案内してもらえそうな予感。
ロープの先を渡し、崖の上で太めの木に回して、投げ落としてもらえるようお願いする。
縛ってもらってもいいんだろうけど、長さは足りてるので安全策……
「じゃ、よろしく」
「リュ!」
ひょいひょいっと石壁を登っていくパーンとそれについていくスウィー。
登りきって、しばらく向こうへと姿を消した後、
「リュ〜」
「お、さんきゅ!」
ロープの端っこが投げ下ろされたので、それを手に取り、ぐっと力を込めて支えが大丈夫そうなのを確認する。
『ショウ君、気をつけてくださいね?』
「りょ。無理はしないよ」
もしロープが切れても、ルピをかばって落ちれば大丈夫だろう。多分。
あと、固定の魔法をとっさに使えるかどうか……
「よし。行くよ!」
「ワフ!」
こういうのは勢い重要。下を見たらヤバい気がするので上だけ見て登る。でも、慎重に。
ロープが手に食い込むんだけど、赤鎧熊のグローブのおかげで痛くない。
「ふう……」
10mほどの高さを問題なく登りきって、ほっと一息。
木箱は下ろしてここに置いておこう。
『やりましたね!』
「なんとかね」
振り返って教会裏手を見渡すと、グレイプル畑や花の周りで遊ぶフェアリーズや、畑の手入れをしているウリシュクたち、巡回中のレダとロイが見える。
「リュ?」
「あ、大丈夫。案内お願い」
「〜〜〜♪」
「ワフ〜」
いつも以上にゴーゴーって感じのスウィーだけど、何かいい果物でもあるのかな?
………
……
…
「お、開けてる場所っぽい」
『明るいですね』
崖近くの低木地帯を抜けると、そこはぽっかりと開けていて、
「うわ、すげぇ……」
『すごいです……』
その奥に背は高くないものの、幹の太さが2m近い大樹がどーんと。
葉はよく生い茂っているけど、かといって、陽の光をシャットアウトするわけでもなく、木漏れ日をもたらしてくれている。
「〜〜〜♪」
「あ、スウィー?」
肩から離れたスウィーが大樹の方へと飛んでいく。
勝手しちゃまずいんじゃないのと思ったけど、パーンもそれを止めはせず、後ろからついていくので問題なし?
「いいのかな?」
『スウィーちゃんなら大丈夫ですよ』
ミオンがそういうなら大丈夫なんだろうな。女神様だし。
俺とルピは一応その場待機で見守る方向で。
「〜〜〜♪」
「リュ〜♪」
お祈りかな?
後ろからだとちゃんとは見えないけど、スウィーが大樹に触れたっぽい。その隣ではパーンが跪いて頭を伏せている。
これなんかまたやばいことが起きるんじゃと思ったんだけど、意外と何も起こらず。
振り向いたスウィーが俺たちを手招きする。
「行こう」
「ワフ」
近寄ると幹の太さが本当にすごい。
それでいて、枯れているような箇所もなく、いきいきとしてるように見える。
『ショウ君、鑑定を』
【神樹】
『女神により植えられたと言われる常緑樹。
周囲のマナを整え、精霊や妖精に安寧を与える』
「これも神樹だったんだ……」
山小屋のある盆地の奥の神樹も育つとこうなるのか。
でもまあ、ゲーム内での成長はそんな見られるほどでもないよな。
「〜〜〜♪」
「え? スウィー?」
俺の手を取って引っ張るスウィー。
その先は神樹の裏側で……
「まさか、ここにも
前は盆地の森にある神樹の樹洞から、本土のおそらく共和国の南側にワープした。
この樹洞も本土のどこかにつながってるパターン?
「スウィー、俺は別に島の外に出る気はないよ? 前はフェアリーたちがピンチだったから行ったけどさ」
「〜〜〜!」
『違うみたいですよ?』
ん? 違うってどういうこと?
「〜〜〜……」
「ちょっ! スウィー!?」
俺が首を捻ってると、ため息一つついてから、ピューンと飛んでって樹洞の中へと消えるスウィー。
「ど、どうしよう?」
『お、追いかけたほうが!』
ミオンと二人でであわあわしてると、
「ワフン」
「〜〜〜♪」
スウィーが戻ってきて、その手にはグリーンベリーが2つ。
片方をパーンにあげて、もう片方は自分でパクっと……
『ショウ君。スウィーちゃん、山小屋のところまで行って帰って来たんじゃ……』
「ああ、泉のそばまで行って帰ってきた?」
「〜〜〜♪」
正解のサムズアップ。そしてドヤ顔。
いや、これはドヤ顔していいよな……
「スウィーすごい! さすが女王!」
「ワフッ!」
「〜〜〜♪」
右手をくいくいっとされたので、とろとろ干しパプを半分にして渡す。もう片方はパーンに渡して、喜んでくれるようなら他のウリシュクたちにも配ろう。
『スウィーちゃんがいれば、古代遺跡を通らずにここまでこれますね』
「うん。それにパーンたちを山小屋に呼べるのも嬉しいかな」
『はい!』
来てもらって何かしてもらうわけじゃないけど、遊びに来てくれるだけでも楽しそう。
あとは、
「港にも神樹があれば、トゥルーたちセルキーも呼べるんだけどなあ……」
『そうですね』
ちらっとスウィーを見ると、
「〜〜〜?」
とろとろ干しパプを咥えたまま、神樹をぺしぺし叩いてる。
なるほど、神樹があればってことか……
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