第281話 神は細部に宿る
「さて、パーンとウリシュクたちはいるかな?」
『いてくれるといいですね』
放課後のゲームプレイは、ほぼ採掘と鉱石のインゴット化に費やした。
鉱物学を取ってたのをすっかり忘れてて、「え?」ってなったのをミオンに突っ込まれたり……
魔導炉で高品質なインゴットにできたのって、実はそれもあったかもだよな。
鉄インゴットはまだ余ってるので、銅と軽銀を中心にインゴットにしていき、その間に釘やらL字金具やら蝶番やらを量産して放課後は終了。
北側の洞窟にあったセーフゾーンは、今はもう教会のセーフゾーンと繋がってるっぽい。
このあたりの雑草も、もう少し綺麗にしてもいいかもなあ。
「ワフ」
「「バウ」」
ルピがレダとロイを連れて駆け出す。
フェアリーズもグレイプルが食べたいのかそれに続くんだけど、スウィーは落ち着いて左肩に座ったまま。珍しい……
「うわ、随分と仕事してくれてる……」
教会裏にはウリシュクたちが数人、畑の野菜の世話をしてくれている。
「リュ〜」
「〜〜〜♪」
俺たちに気づいて挨拶に来たのは、ウリシュクの族長でもあるパーン。
スウィーの「苦しゅうない」みたいな返事に嬉しそうにしてくれて……そういや女王だったなって。
フェアリーの女王って、妖精の中でも上の方なのかな。トゥルーの時もなんか話がスムーズだったし。
そのまま教会の横手、馬小屋の方へと案内される。
「あ、ヤコッコの面倒も見てくれてるのか」
『すごいですね』
いや、ホント大助かりだよなと後をついていくと、
「「メェェェェ」」
「『え?』」
なんかヤギがいるんだけど? しかも2匹!?
えっと、とりあえず鑑定しないと。
【エクリュー】
『山間部に生息する草食動物。
家畜化されているものは大人しいが、野生のものは攻撃的になることがあるので注意が必要。
畜産:飼育可能。肉、乳は食材として利用可能。毛は被服素材として利用可能』
「ヤギミルク!」
『やりましたね! これでチーズやバターも!』
「ありがとう! って、これ連れてきてくれたの?」
そう聞くと、スウィーが通訳してくれて、うんうんと頷く。
ヤコッコたちと同居してる感じだけど、とりあえず喧嘩にはなってないっぽい。
まあ、馬も4、5頭かそれ以上つなげられるスペースがあるからだろうけど。
「リュ」
「ん? あー、これ直さないとだな……」
パーンが「これを見て」って感じで指差してくれた先、木の柵なんだけど、止めてあった釘の一つが錆びて取れかけてる。
『壊れかけてる感じですか?』
「うん。ヤコッコなら大丈夫だろうけど、エクリューだと体当たりしたら壊れると思う」
ちょうどいいというか、釘やらは量産したところ。
今日、農作業が終わったら、この馬小屋をメンテしようと思ってたところだし。
「この板の方は大丈夫そうだし、古い釘を抜いて新しいのを打てば大丈夫かな?」
インベントリから、カナヅチと釘を取り出したところで、
「リュ!」
「え? ひょっとして使える?」
アピールが激しいパーンにそれを渡すと、カナヅチを器用に使って、木の柵をはずす。
「ワフ」
「「バウ」」
ルピがレダとロイに指示し、エクリューが逃げ出さないように監視。っていうか、睨んでるせいで、奥へ逃げて身を寄せ合ってるし……
『すごいですね』
「うん、器用だなあ」
柵を支えるのを手伝ってあげると、あっという間に直してしまった。
スウィーがパチパチと拍手するのにつられ、俺も思わず拍手。
「リュリュ?」
「〜〜〜♪」
「え、ああ、他も気になるとこ、やってくれるの?」
そういうことならと、残りの釘や金具が入った革袋を出す。
ランジボアの革の端切れで作った袋は、熊ほどではないけど耐久性もあって使いやすい。
「リュ?」
釘以外の金具が珍しいのか、L字金具をためつすがめつ眺めたり、蝶番をパタパタさせてみたりと興味津々っぽい。
『ショウ君、工具は手のサイズに合うものを作ってあげた方がいいんじゃないでしょうか?』
「あー、さっきもカナヅチ、ちょっと短めに持ってたっけ」
『工具だけじゃなくて、農具とかも用意した方がいいかもです』
「なるほど。スウィー、ちょっと聞いて欲しいんだけど」
彼らのサイズに合う工具を作るので、それを使って馬小屋を補修してほしい件。
農具もあったら嬉しいかな? もちろん、工具も農具も譲る前提で、自分たちのためにも使って欲しいって感じで。
「〜〜〜?」
「リュ〜!」
うん。嬉しそうな顔をしてるし、オッケーってことで良さそう。
そういうことなら、今日は鍛治に行った方がいいかな。
あ、いや、その前に……
「これ、うちで食べ切れない分だから、持って帰ってみんなで分けて」
ランジボアのモモとスネを渡しておく。普段、ヒレ、ロース、バラを優先しちゃうせいで余らせてたやつ。
30人以上いたと思うけど、結構でかいので皆に行き渡るぐらいはあるはず。ウリシュクたち、肉は食べる……よな?
「リュ〜♪」
あ、良かった。喜んでくれてそうで何より。
この馬小屋を修繕してもらうとして、工具と釘なんかは足りてるけど、木材がそもそも足りてない気がするな。
「ひとまず工具は置いて、木を切りに行こうかな?」
『ショウ君。その前に教会の地下を』
「ああ、そうだった!」
ライブが終わってからか、日曜の夜にでも確認しようと思ってたんだった。
とりあえず、今日のところは手持ちの工具やら農具やらは全部置いていこう。
パーンはそれを持って、さっそく馬小屋の点検をしてくれるっぽい。
畑の方を見回すと、フェアリーズはグレイプルのところできゃっきゃしてるし、呼びに行く必要もないかな。
「じゃ、教会へ行こうか」
「ワフ」
「「バウ」」
ルピがそれを聞いて、レダとロイに指示を出したっぽい。
頷いた2人がそれぞれ、別方向へと向かったので、ぐるっと教会の周りを巡回してくれるんだろう。
「ありがとな」
「ワフ〜♪」
ルピをしっかり褒めてから、いざ教会へ。
きっちりと戸締まりしてあった扉を開くと、柔らかい光に照らされた翡翠の女神像――ミオンそっくり――が出迎えてくれる。
自分で作った女神像なんだけど、淡く光る照明に照らされたそれは、
「綺麗だ……」
『え?』
「あ、いや、何でも無いよ」
やっぱり衣装、妥協は無しにしよう……
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