日曜日
第278話 反面教師(自覚あり)
最後にリビングの掃除をし終えて、ほっと一息。
時計を見ると11時45分。ミオンと椿さんが来るまであと15分か……
「兄上! 手伝って欲しいぞ!」
「今行くから待ってろ」
俺と美姫が今まで使っていた椅子は、リサイクルに回収される手はずなので、玄関先まで移動しておかないと。
ちなみに、俺の椅子は既に移動済みだ。
「あとは俺がやるから、リビングでいてくれ」
「良いのか?」
「そろそろミオンが来るかもだから頼む」
「心得た!」
めちゃくちゃ大きな椅子でもないけど、これを抱えて階段を降りるのは美姫には酷な話。とはいえ、俺も慎重にやらないとな。
ここのところ日曜はナットの妹、奈緒ちゃんの家庭教師をしてた美姫だが、今日はお休みにしてもらった。
お高いゲーミングチェアを、名目上はレンタルとはいえもらうことになるわけだし、そこはちゃんとミオンにお礼を言うべきだろう。
ピンポ〜ン♪
「あー」
やっぱりちょっと早く来たっぽい。
ミオン、いつも駅で先に待ってるもんなあ。
「はい、伊勢です」
『おはようございます、椿です』
そんなことを思ってると、美姫がちゃんとよそ行きの対応でドアホンに出た。
予定よりちょっと早いけど、前の椅子のリサイクルも呼んであるのでとか、そういうことらしい。って、俺は美姫の椅子を運ばないと。
………
……
…
「こんなもんかな」
今日の昼は冷やし中華。
蒸し暑い日にぴったりで、かつ、野菜も取れてヘルシー……だよな?
新しいゲーミングチェアの搬入と組み立て、VRHMDとのセットアップは椿さんがやってくれている。
任せきりになるのもどうかなと思ったんだけど、ミオンのをセットアップしたことがあるのでと。
まあ、美姫がセットアップ手順を教わってるし、あとで聞いておこう。
終わったら降りてくるだろうけど……呼びに行くか。
階段を上っていると、奥の美姫(と真白姉)の部屋から、椿さんが説明している声が聞こえてくる。
手前の俺の部屋の方を先にセットアップするとか言ってたし、もう終わってるかな?
開けっぱなしの扉から中を覗くと、ばっちりセットアップされたゲーミングチェアと、
「……ミオン、何してるの?」
ベッドに腰掛けて、枕を抱きしめてるミオン。
俺の声に気づくと、そっと枕をもとの位置へと戻して立ち上がり、ニコッと微笑む。
「えっと、お昼できたから」
「ん」
さっきのに突っ込んでいい雰囲気ではなさそうなので、美姫の部屋へ行こう……
「お昼できたんですけど」
「おお、ちょうどよかったの!」
「今、終わったところです」
セットアップは無事完了し、梱包していたダンボールや緩衝材などを片付け終わったところっぽい。
それはいいんだけど、ミオンほっとくのどうなのかな。
………
……
…
「これ、お願い」
「ん」
お昼を食べ終わり、洗い物を手伝ってくれてるミオンにガラスの器を渡す。
絞った布巾で拭って、食器たてへと並べてくれるだけでも、助かるんだよな。
ちなみに椿さんは手伝ってくれてはいない。なんでも、今日はミオンが一人で俺を手伝うことが重要なんだそうだ。まあいいんだけど。
で、何をしてるかというと、
「将来的にバーチャルアイドルの事務所を本格化するとなると、独自の衣装を発注できる体制を整えねばならんのではないか?」
「はい。ファッションデザイナーにはあてがあるのですが、いかんせん現実的なデザインとなることは否めず」
リビングで美姫となんか難しいことを話してるので放置しておこう。
「最後?」
「うん、これで終わり。デザート作りは一息ついてからね」
「ん」
おやつの前に簡単な豆乳アイスを作るつもりで材料は準備済み。
ゲームの中だとレーズンアイスにしたけど、今日はヨーグルトとブルーベリージャムを混ぜたやつを作る予定。
ガシャン
「え?」
俺がそう思った瞬間、美姫が玄関へと走る。
誰か来たんだろうけど、玄関のセキュリティに引っかからずに入って来れるのは、間違いなく家族のうちの誰かだし、多分……
「父上!」
「美姫!」
そんなやりとりが聞こえてきて、隣のミオンが硬直した。
緊張してる? いや、そりゃ緊張するか。俺もミオンのお母さんと顔合わせの時は緊張したもんな。
「ただの能天気なおっさんだから気にしなくていいよ」
どうせすぐに母さんのとこへ戻るんだろうし。
廊下にでると、玄関口に大量の土産を置いて、美姫と抱き合う親父の姿が見えた。
「友だちが来ておってな」
「ん? 奈緒ちゃんか? 直斗くんか? ああ、柏原のとこにも土産を分けて……」
「おかえり」
「おう、翔太! 元気そう……」
そこまで言ってから、隣のミオンに気づいて『?』マークが飛んでいる様子。
うん、見たことない女の子いたら、そりゃそうなるよな。
「同じクラスで同じ部活の出雲さん」
「ぃ……出雲……み、澪です」
おお、ちゃんと声出てる出てる。
美姫がうんうんと頷いてる隣で親父が呆けたまま……
「親父?」
「す、すまん。翔太の父です。えっと……」
「今日はまた母さんのお使い? 昼飯どうする?」
「あ、ああ、ハンドバッグを取りに来ただけだから、すぐ帰る……」
驚いたままそう答えた親父にさらに、
「お邪魔しております。私、澪さまのマネージャーをしております、椿と申します」
「こ、これはどうもご丁寧に……」
レディーススーツ姿の椿さんが現れ、すっと名刺を差し出す。
専業主夫とはいえ、さすがに社会人としての対応はできる模様。
「俺らのことは気にしないでいいよ」
「あ、ああ……」
呆けたまま二階へと上がる親父。頭の中パニックになってるんだろうな。
普段からほったらかしにしてるんだし、たまには驚いてもらわないと。
………
……
…
「翔太、美姫、父さん帰るよ」
リビングで寛いでる俺たちに、親父が体半分だけ覗かせて告げる。
目的のハンドバッグだっけ? 見つかったっぽいのか小脇に抱えてるし。
「うむ。母上によろしくな!」
「母さんには適当に説明しといて」
「翔太、ちょっと……」
俺の言葉に微妙な顔をした親父が手招きする。
ノリで押し切れるかと思ったけど、意外と立ち直りが早かったっぽい。
とりあえず小言をもらうくらいは覚悟して近寄ると、
「……あの子のこと、真白は知ってるのか?」
「あ、うん、真白姉も美姫も、当然俺もだけど、ミ……出雲さん家にお邪魔して、親御さんにも会ってるよ」
「そうか、ならいい。お前のことだから心配はしてないが……俺みたいになるなよ?」
うるせーよ、ダメ親父……
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