金曜日

第270話 アップデート Ver 1.2.9

 いつもの昼。梅雨入りして雨続き。

 この時期は食材が傷むのも早いし、そうなると買い物をまめにする必要があるしで、めんどいんだよな……


「前線拠点の方は落ち着いたのか?」


「おう。俺は建物の修理ぐらいしかしてないけどな」


 そうニッコリ言うナットの隣で、大きくため息をつくいいんちょ。ご苦労様です……

 覇権の人らから捨て値で買い取った物資は、今までここにいた人たちに均等に再配分し、今後どうするかは自由にということになったらしい。

 後から来たナットたちや、白銀の館の生産組メンバー、そしてなぜか俺とミオンのファンの人たちもいて、さくさく前線拠点を立て直したそうだ。


「建物の修理って、そんなひどい状況だったんだ」


「人減っちゃってたからな」


「あー……」


 なんかもうご愁傷様ですって感じ。

 そりゃ残ってた人たちも心折れるよな。


「ま、白銀の館の人たちがいれば、すぐか」


「力仕事は柏原くんたちも役に立ってくれたわよ。家の修繕なんかは手慣れたものよね」


「はっはっは! 戦闘以外のスキルはみんな大工や土木だからな!」


 ナットのギルド『妖精の友』は近接メンバーのほとんどが大工スキル持ち、後衛メンバーは土木や木工のスキルを持ってるそうで……建設会社かよっていう。


「人数多いとあっという間に家が立ちそうだよな」


「この間ショウが見せてくれた空間魔法があれば、もっと短縮できる気がしてるぞ」


「空間魔法?」


 俺が見せた空間魔法の固定が使いたいらしい。

 あれを使えば、支えが必要な作業が全部1人でできるんじゃないかっていう。


「ああ、なるほど!」


「いろいろ試してみてくれよ。うちの連中もみんなチャンネル登録してるって言ってたしよ」


「まあ、女神像の方が落ち着いたらな」


 空間魔法もあのあとレベル上げしてないんだよな。

 女神像を作り終えて教会に設置したら、いよいよ教会の外へ行くつもりだけど、その前にいろいろと準備しないと。


「ん?」


 ミオンがちょいちょいと腕を突き、タブレットを見せてくる。

 IRO公式ページっぽいけど、


「え? アプデ?」


「おお!?」


「え?」


 ナットだけでなく、いいんちょも気になってるのか覗き込んでくる。

 皆が見やすい位置にタブレットを置き直したミオンが、アップデート内容のページを表示してくれる。


「マイナーアップデートか」


「さすがにワールドクエストの途中にメジャーアプデはこねーか」


「どういうことなのか説明して」


 ゲームに詳しくないいいんちょがジト目でナットを睨む。

 ミオンもそこまでは詳しくないのか、俺をじーっと見つめてきて……恥ずかしいんだけど。


「あー、マイナーアップデートってのは、バグ修正とかちょっとしたバランス調整とか、細かいのだな」


「魔王国からスタートできるとか、他の種族が選べるようになるとか、そういうゲームの目玉になるのがメジャーアップデートだと思う。

 IROなら新しい種族が追加されて、魔王国からスタートできるようになるのが、次のメジャーアップデートなんじゃないかって言われてるけど」


 二人とも納得してくれたっぽい?

 で、今回のそのマイナーアップデートの内容はというと……


―――

【アップデート Ver 1.2.9 概要】

◇システム変更◇

・プレイヤー主導のパーティやアライアンスに所属するNPCのHPが0になった場合の挙動を変更しました。

 ・対象NPCは仮死状態となって、NPCごとに設定されている地点へと戻ります。

 ・メンバープレイヤー全員の対象NPCとの関係性が変化(主に悪化)します。

 ・関係性の悪化により称号を失うことがあります。

 ※その時の状況によって関係性の変化には差があります。


◇ワールドクエストのシステム変更◇

・ワールドクエストに間接的に参加しているプレイヤーの貢献度を増やしました。

 ・間接的とは消耗品生産や情報収集などを指します。

・離島プレイヤーも以下のいずれかの条件を満たした場合、参加扱いとなります。

 ・ワールドクエストに関連するNPCと面識がある。

 ・ワールドクエストに関連するアイテムを所持している。


◇スキル効果の調整・不具合修正◇

・土木スキルのスキルレベル上昇に伴う、各種行動の効果範囲を増やしました。

・調教スキルでテイムした仲間の獲得経験値を増やしました。

・最大MPを固定量使用する魔法・アーツに対し、一部装備品によるスキルレベル補正が適用されていなかった不具合を修正しました。

 ………

 ……

 …

――――


「……お前のためのアプデか?」


「ノーコメント……」


 内容的にはどれも嬉しいものだからいいけど、ワークエに参加できるからって、ポロポロと情報を流すのもどうかって感じなんだよな。

 もともと攻略メインのチャンネルにするつもりはないし、ヤタ先生が言ってたのんびり配信を目指してるわけだし。


「ま、パーティ組んでりゃNPCが死なないのは、俺らも一安心だな」


「そうね」


 二人の言葉に不思議そうな顔をする俺とミオン。


「ノームの子たちが何人かついて来ちゃってるのよ……」


「「え?」」


 ナットのギルドの本拠地は、開拓もひと段落したのでNPCも来てくれて、もうしっかりした村になってるらしい。

 コショウの収穫も安定し、黒コショウ、白コショウが王都へと送られるクエストも発生してるそうで、じきに街と呼べるぐらいになりそうなんだとか。

 ノームはそれの手伝いをしてくれたりもするらしいんだけど、


「なんか、ノームの若い子たちがどうしてもってな」


「へー、って良く賛成したなあ」


 といいんちょを見ると、


「心配だけど、やりたいっていうのを頭ごなしに反対するのもね」


 と優等生なお答えが。

 いいんちょ、心配でずっと見てそうな気がするけど。


「じゃ、ノームたちも手伝いしてくれるんだ」


「おう。昨日までは拠点の周囲が荒れてたから、そっち手伝ってもらった。今日から例の魔王国側への道づくりに参加してもらうぜ」


「私が行くまでちゃんと待ってなさいよ?」


「うっす……」


 ナットたち『妖精の友』が警戒とモンスターの駆除、『白銀の館』の生産組とノームたちで道を作るんだとか。


「そういや、ナットとかいいんちょはノームたちと話せる?」


「うーん、話せはしねえけど内容は通じてる感じ?」


「そうね。こっちが言ってることは伝わってるわ。向こうが言ってることは、まだなんとなくかしら」


 うーん、俺と似たようなものか。

 何か話せるようになるスキルあればいいんだけどな……

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