第271話 全てがそろうタイミング

 夕飯も洗い物も宿題も終えてバーチャル部室へ。


「ばわっすー」


『ショウ君!』


「来たわね」


「は?」


 なんでベル部長がいるの? 修学旅行……

 あ、いや、今日帰ってくる日だから、家にいておかしくないのか。


「おみやげは月曜にね」


「あ、どもっす。っていうか、お帰りなさい」


『ショウ君、これ見てください!』


 ミオンがテンション高めに見せてくれたのは、


「おお!? これって狼の子供ですか?」


「ええ、シンリンオオカミの子供よ。可愛いかったわよ〜」


 ちょうど公開になったばかりで、当然、触れたりはできなかったそうだけど、来園者だけが当日の映像をもらえるらしい。


『この子、ルピちゃんに似てますよ』


「あ、ホントだ。来年は俺らも同じコースにしようか?」


『そうですね!』


 ベル部長のコースだと4日目、木曜日まるまる動物園だったそうで。

 この時期は春に生まれた子のお披露目も多いらしいし、めっちゃ見たい……


「いや、それはいいとして、IRO行かないんです?」


 帰ってきて即IROに行っててもおかしくない気がするし、俺より先に来たはずのセス美姫は当然行ってるし。


「今日いっぱいはログインしないって告知しちゃってるもの。それに、ヤタ先生とも約束してるから……」


 と、そっと目を逸らすベル部長。

 出発前の日曜にライブしてたのは、今日ゲームしない約束があったからだそうで。


「二人はIROしてきていいわよ。というか、私もスタジオに行くから、水曜のことを詳しく聞かせなさい」


「アッハイ……」


『はい』


***


 IROのゲーム内も曇天。

 雨が降り出すとまずいので、女神像作りは蔵の中で行うことに。

 ルピ、レダ、ロイが揃ってお昼寝し、それを枕にスウィーやフェアリーズもお昼寝中。


『器用なものねえ。しっかり女神様に見えてきてるわ』


「それはまあ、ゲームだからって部分も大きいんじゃないかと。あと工芸(木工)スキルも影響してるかもっすね」


 部活中にそれっぽいところまではできあがり、あとは細部にこだわっていく感じ。

 女神っぽいドレス、ローブデコルテっていうらしいけど、袖や裾の部分は慎重にやっていかないと……


『部長はライブのアーカイブはご覧になったんですよね?』


『ええ、見たわよ。最初はごちそうさまって感じだったけど……あの小さい子が白竜姫様なの?』


『はい。ドラゴンになった姿はショウ君も私も見てませんが』


 ナットといいんちょに聞かれたことなので、ミオンが同じように答えてくれる。

 やっぱり小さいドラゴンになるのかな? 真っ白なドラゴンでめちゃくちゃ綺麗な予感はするけど。


『ところで、前にもらった女神像は翡翠の女神にしてあるの?』


「ええ」


 手を止めて、インベントリから翡翠の女神像を取り出す。

 せっかくなので、聖域を張って作業しよう。


「ん……よし」


 淡い緑の光がふわっと広がっていって蔵全体を覆い、さらに外へと広がっていく。

 暗いところで使ったので、光の広がりがはっきり見えて面白い。意外と広いんだな。


『それって時間はどれくらい維持できるのかしら?』


「ちょうど一日は持つ感じっすね。月曜の夜から火曜の夜まで続いてたんで。なんもなければって条件付きかもですけど」


 死霊都市で使った場合、アンデッドが突っ込んできたら消耗するとかありそうだし、それを考えると半日ぐらい?

 まあ、アンデッドの方で聖域を嫌ってくれればベストなんだろうけど。


『へえ……、水曜のライブの前に女神像にする方法は知ってたのね』


『ショウ君……』


「あ……。すいません。ネタバレしちゃうの嫌だったんで黙ってました」


『怒ってないわよ。むしろ言われても、どうすればいいのか逆に困ってたわ。まだ、魔術士の塔にいた頃よね?』


「そっすね」


 そりゃそうか。

 名も無き女神像が手に入ってたのは、帝国側の前線拠点を独占してた人たちの一部だけだし、そんな状態で「これがあれば死霊都市もバッチリ攻略!(多分)」とか言われてもだよな。


『そういうことなら、ショウ君に頼んだのも一応筋は通るわね。既に成功させてるんだもの。問題はなぜそれを必要とするかなんだけど……』


「アージェンタさんも部下に死霊都市を調査させるって言ってましたよ。古代遺跡の管理者ってのが気になってるみたいでしたし、厄災の話とかもありますし」


『そうなのね。ワールドクエストの進捗が悪すぎた場合はNPCに解決させるつもりだったのかしら……』


 ああ、そういう考えになるのか。

 でも、アージェンタさん、転移魔法陣を確保するために、部下の人たちを動員してくれてるんだよな。

 あれのことはベル部長も知ってるけど、一応黙っておくか……


「とりあえず、アージェンタさんの部下の人たちと遭遇しても、揉めないでもらえると……」


『後ろにドラゴンが控えてるNPCと一戦交えようなんて思わないから安心なさい』


「うっす」


 普通はそうだよな。

 となると、やっぱり怖いのはマリー真白姉の方……セス美姫にもう一度念押ししておくか。


『それで、覇権ギルドの人たちが持ってた「名も無き女神像」が、二人のファンに回収されてたそうなんだけど……』


「それは俺もビックリっす」


『私もです。でも、ショウ君がもらったものだから、何かあるって見越してた人もいたみたいですね』


『それはなんとなくわかるわ。セスちゃんだって「何かあるやもしれん」なんて言ってたもの』


 実際、何かあったので反論もできず。

 それにあれをアージェンタさんからもらってなかったら、マルーンレイスに負けてたと思うし、そうなるとスウィーたちがやばかった。

 今回のアプデのおかげでそれもどうにか回避できそうだし、結果的にはプラスなのかな?


『ただ、何もなくても、ファンアイテムとして集めてたみたいですね。フォーラムのここに……』


『へえ、なるほどねえ』


 なんか二人して公式フォーラムを見てるみたいだけど、気にしたら負けな気がする。

 俺は作業に集中して、明日きっちりお披露目できるようにしないとだよな。

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