第265話 おやつに呼ばれて
カツンカツンと小気味良い音がし、サクサクと余分な部分を削り落とされる。
リアルなら、何度も何度もノミを叩かないとだけど、ゲームならではというか、二発三発で綺麗に削れるのが楽しい。
『ショウ君、次の質問です』
「りょ」
『他に新しいスキルは取りましたか? です』
「えーっと……。ああ、元素魔法が上限突破したんで、空間魔法取りました」
【ムシンコ】「それもっと重要やろぉぉぉ〜!」
【レーメンスキー】「忘れてて良いことじゃないw」
【アクモン】「え? どうやって取ったの?」
【ナーパーム】「上級スキルってことですよね?」
etcetc...
あ、うん……
インベントリ増えたのが嬉しかったぐらいで、それ以降は女神像作りとアージェンタさんが来たことで、後回しになってたというか。
「空間魔法の魔導書はアージェンタさんから、甘味のお礼ってことで貰って、でも、元素魔法の上限突破までは使えてなかった感じで……」
あれ? あんまりこれ深く話すと、転移魔法陣とか管理者の指輪の件に行きそうな気がする。
魔術技師の短杖は+1しかないし、素の元素魔法のスキルレベルが10になるまでは、ステータスは伏せておくほうがいいか。
「まだレベル上げてないんで、できるのは、こういうこととか……<固定>」
手にしていたノミを空中で静止させると、コメント欄に「手品」って単語が並ぶ。
うん、俺も手品みたいだなって。
『あと、インベントリの容量を増やす魔法が』
「そうそう、<収納拡張>っていうのが、MPを固定で200弱持っていく魔法。容量が倍ぐらいになるから結構ありがたいかも?」
【シューメイ】「うわあああ! めっちゃ欲しい!」
【マジブ】「MPを固定でってどういうこと?」
【タラアミ】「荷物を倍運べるとかうらやますぐる……」
【ロッサン】「しかし、ショウ君のインベは食材で埋まるw」
etcetc...
説明の仕方が悪かった感じなので、最大MPが200弱削れるって感じで説明し直し。
インベントリは、実際、食材で埋まってるので反論できない。常備薬とかもちゃんと入ってるけどね。
空間魔法の先駆者を獲得したこととかを話しつつ、女神像を作る作業も進める。
話しながらの作業はあんまり捗らないけど、ライブ中に絶対完成させるつもりでもなかったのでのんびりと。
ああ、そうだ。
「あと、応用魔法学<水>を取ったんだった」
『これは料理のためですよね』
「まあね。氷水が作れるようになったから、わらび餅は作りやすくなった」
【ビジョナー】「氷水のためはショウ君らしいw」
【マスターシェフ】「冷蔵冷凍がないの辛いよねえ」
【リンレイ】「なんか新しい料理作った?」
【ドンデン】「攻撃魔法取れた?」
etcetc...
「あー、グレイプルを凍らせただけでも美味しいすね」
『スウィーちゃんたちのお気に入りですね』
フローズングレイプルにがっついて、頭痛を起こしてたスウィーを思い出す。
真面目に応用魔法学<水>を読めば、5まではすぐ上がりそうだし、女神像作りが落ち着いたら時間取りたいんだよな。
そんなことを話しながら、またカツンカツンと木を削っていく。
『次の質問です。教会から先へはいつ行きますか?』
「あー、いろいろとタスクが溜まってるからなあ。応用魔法学も全部習得したいし、円盾を
あと、俺、いろいろやらかしてる自覚があるし、ワールドクエスト終わるまで大人しくしてようかなって……」
【ミンセル】「1人だもんなあ」
【リーパ】「自重せんでええんやで?」
【イザヨイ】「ワークエは気にしなくて良いかと」
【ベアメン】「セルキーくんたちもいるしね(*´∀`*)」
etcetc...
『ショウ君。「やらかし」じゃなくて「すごい」ですよ?』
「アッハイ……」
【カティン】「せやせや。卑下したらあかん」
【ピューレ】「ショウ君はすごい!」
【イズポン】「すごいやらか……イエ、ナンデモナイデス」
【アマツノユ】「女神様から指導が入りましたよ♪」
etcetc...
卑下してるつもりはないんだけど、すごいっていうのもなんだかなあ。
スウィーやアージェンタさんに関しては、巻き込まれたっていう方が正解な気がしてるんだけど。
ミオンと視聴者さんが楽しげに会話してるのを聞きつつ、カンカンコンコンやって、大まかな形が見えてきた。
もう一段階、削ってから、細かい造形を彫り込んでいく感じになるかな? まあ、慎重にやろう。
『次は質問というよりは要望です。この前作ったランジボアのベーコンで何か作って欲しいそうです』
「なるほど。じゃ、女神像作りはいったん置いて、何か作ろうか」
『はい!』
【チョコル】「飯テロキター!」
【シャズン】「ベーコンといえばベーコンエッグ?」
【サクレ】「ペペロンチーノ! ……はパスタがねえ」
【マスターシェフ】「ベーコンのトマト煮とかも良いね」
etcetc...
なるほど、トマト煮も良いなあ。
というか、ミネストローネを作っても良いんだけど、ちょっと小腹が空いてる感じなので、ボリューム感もあるあれを作るか……
「火をお願い」
火の精霊石を取り出してお願いすると、シュッと火花が飛んでいって、石窯コンロに火が起こる。
精霊魔法使いの視聴者さんたちが盛り上がってるのを横目に見つつ、まずはオーダプラ(じゃがいも)を1cm角に切って茹でる。
その間に、ランジボアのベーコン、ライコス(トマト)、レクソン(クレソン)、キトプクサ(ギョウジャニンニク)も1cmほどの角切りにしていく。
『炒め物でしょうか?』
これだけだと、ただのベーコンと野菜の炒め物になっちゃうけど、卵をいくつか取り出して溶きほぐし、塩コショウで味付け。あ、さすがにプロの人にはバレてるっぽい。
よし、オーダプラはいい感じに茹で上がったみたいなので、しっかり水を切っておく。乾燥の魔法を軽くっていう裏技。
「まずはキトプクサとレクソンを軽く炒めて、次にオーダプラ、ベーコン、トマトを」
ちょっとつまんで、塩コショウの味付けで調整。
最後に卵を溶いたのをざばーっと流し込んでから、さっとかき混ぜて蓋をする。
『あ! オムレツですね!』
「うん。スパニッシュオムレツって奴ね。で、ちょっとここは集中……」
まあ、蓋を使ってひっくり返すだけなんだけど。
何度か失敗した苦い思い出があるので慎重に。ライブで失敗は恥ずかしいし。
「よっと!」
【カナカン】「お見事!」
【フェル】「うまいなあw」
【シモツン】「いやー、オムレツとか最近食ってないわー」
【ドラドラ】「もう腹減ってきた……」
etcetc...
しっかり火が通ったところでお皿へと。4人前ぐらいなので、ルピたちを呼ぼう。
「おやつにするよー!」
森の方に向かって声を掛けると、さすがというかすぐに気づいたみたいで、ルピたちが走ってくる。
スウィーたちもおやつ=甘味ってことで、慌てて追いかけてきてるし、冷却の魔法の披露がてら、フローズンでも用意しよう。
「ん?」
ルピたちが土間に来たのはいいんだけど、みんなして明後日の方向を見てて……
「ワフ」
「ん? なんかあるの?」
まさか、アージェンタさんが来たとかそういうパターン?
まあ、ライブ出るのは今さらだから別にいいのかなと思いつつ、遺跡の入り口の方に目を向けると……
「え? マジ?」
透き通る美しさを持つ美幼女が俺を見つけて駆け出してきた……
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