水曜日

第263話 未納の覇権

「おは」


「おう」


 忘れないうちにナットにも木工スキルが上限突破したことを話しておこう。

 大工スキル持ちだし、魔銀ミスリルの工具が作れれば、ナットも上限突破が見えてくるはず。


「昨日、木工スキルの上限突破したぞ。で、上級スキルの工芸(木工)ってのも取った」


「おま……相変わらずやらかしてんな。で、上限突破の方法って?」


 ナットのフレさんたちも気になってるそうなので、最高品質の魔銀ミスリルインゴットで木工用の道具を作ると補正がついたって話をしておく。


「キツくね? 魔銀ミスリルで、かつ、良質のインゴットって……」


「島は魔銀ミスリル鉱石いくらでも掘れるし、古代魔導炉が優秀なせいだな。

 そういえば、レオナ様の双剣の片方って総魔銀ミスリルでスキル補正ついてるんだろ?

 多分、それと同じことだろうから、アミエラ領にいるNPCドワーフに頼めばいけると思うぞ」


 他の道具も魔銀ミスリルで作ってみたいところだけど、いや、先に円盾を新調しようかなあ。

 剣鉈は重い方がいいから今のままでもいいし。


「なるほど。けど、量が厳しいな……」


「あー、大工ならカンナは? あれなら刃の部分だけだし、実際、作ってみて木工と大工に+1あるの確認してるから」


「マジか。あれくらいならかき集めればなんとか行けるか。で、その上級スキルの工芸はどうだったんだ?」


「そっちはまだ実感するようなことは起きてないな。取ってちょっと試すぐらいの時間しか無かったし」


 結局、先駆者褒賞も出なかったし、やっぱりレアスキルじゃないとって線かな?

 何にしても、もう少しレベル上げないと見えてこない気がする。


「ああ、そうそう、予定がちょっと早まって、今日から死霊都市へ行くことになりそうなんだ。連絡は行ってると思うけど、美姫ちゃんにも伝えといてくれ」


「おい、そっちの方が重要だろ」


 土曜にベル部長が修学旅行から帰ってくるんで、それと同時に帝国側と魔王国側の拠点がつながり、死霊都市の攻略も開始って感じだったと思うんだけど。


「何か急ぐ理由ができたってことだよな?」


「なんか、帝国側の前線拠点を独占してた『未来の覇権』ってギルドが空中分解したらしいぞ」


「うわ、マジか……」


 独占と高値の維持を主張してた生産組が、人手が欲しい攻略メインの戦闘組と揉めて、ギルドを抜けて出て行ったそうで。

 で、評判も悪くなってるし、連鎖的にギルドを辞めたいって人たちが続出と……


「今、残った連中も撤退しちまうと、前線拠点が空っぽになってまずい。さっさとフォローに行った方がマシだって話になったそうだ」


「とんだとばっちりだな」


「全くな……」


 そうは答えつつも、こいつのことだから、覇権ギルドとやらで残った連中とうまくやるんだろう。

 そのあたりは心配してないけど、ベル部長が聞いたらフリーズしそうだな、これ……


***


 で、お昼にその話の続きを。


「最初から疑問だったんだけど、なんでその逃げた連中は急いで稼ごうと思ってたんだ? 多少の観光地値段ならみんな納得だったと思うんだけど?」


「俺に聞くなよ」


 ナットがそう答え、牛乳を一気に飲み干してから、いいんちょに助けを求める。

 こいつまだ背を伸ばすつもりか……


「はぁ……。ユキさんから聞いた話だし、ユキさんも本当かどうかは調査中だけど、逃げた人たちはどうやら帝国の貴族に借金してたらしいのよね」


「「え?」」


 思わずミオンとハモってしまう。

 NPCから借金? 何の理由があって借金なんてしてるんだ?


「金借りるってなんでだ? あいつらだって限定オープン組で稼いでただろ?」


「竜貨を持ってないメンバーが予想以上に多くて、足りない分を帝国貴族から購入してたらしいわ。代金は一部が前払いで、残りは死霊都市の攻略次第って話でね」


「でも、それなら攻略が進んでない間は問題ないんじゃ……あ!」


 いいんちょが苦笑いしつつ頷く。

 日曜のトリプルコラボで魔王国側から攻略される可能性が高まったからか。


「ま、自業自得だな。しっかし、それでトンズラして何とかなんのか? ダメそうだから竜貨返すってできんの?」


「どうかしらね。何にしても独占はもうなくなってて、逆に急がないとって話になったそうよ」


「ま、ヒーローは遅れて現れるってやつだな!」


 またそんなことを言って、いいんちょに盛大に呆れられてるナット。

 後から入ってきたナットや白銀の館の人たちが、件の覇権さんと揉めるかもと心配してたけど、どうやらそんなことはなさそうで良かった良かった、かな。


***


『部長に連絡しておきます?』


「あ、うん。送っといた方がいいと思う……けど……」


 放課後。

 今日は水曜だし、いつもなら職員会議のはずなんだけど、


「ベルさんに伝えていいですよー。おそらく他の人から聞いてるでしょうしー、公式フォーラムとかで知っちゃうでしょうしー」


 2年生が修学旅行中ということで、職員会議もなしだそうで、とってもご機嫌なヤタ先生……


『買った竜貨を返して返金はできないですよね?』


「俺もできないと思うなあ。貴族の方からしてみれば、余らせてる竜貨よりも現金じゃない? 帝国は内戦ごっこやったのもあるし……」


「残りの代金はどうやって払ったんでしょうねー」


 払わずに踏み倒して逃げたりしたら……赤ネームになるのかな?

 少なくとも帝国にはいられない気がするし、IROってそのあたりの仕組みはどうなってるんだろう。


『公式フォーラムを見てきましょうか?』


「あ、いや、いいよ。俺たちが気にしてもしょうがないし、それより夜のライブの準備しないと」


「そうですねー。今日はどんなライブの予定ですかー?」


 ヤタ先生への説明はミオンに任せよう。

 俺はIRO行って、まずはルピたちとご飯にしないと。


***


「ごちそうさまでした」


「ワフン」


「「バウ」」


 今日のご飯は厚切りベーコンに目玉焼き。

 ライコス(トマト)も添えてバランス良く。


『厚切りで美味しそうです……』


『私は薄くカリカリに焼いたのが好きですねー。黒コショウが効いた辛めの方がー』


 ミオンはともかく、ヤタ先生はお酒のつまみのことを言ってるのでは……


「さて、教会用の女神像のための木材を確保しないと。スウィー呼んできてくれる?」


「ワフン」


「「バウ」」


 神樹の方へと走っていくルピたちを見送りつつ、俺は斧を準備しないと。

 スウィーに樹を見繕ってもらうとして、必要な大きさを考えると、南西の森の方が良さそう。

 ちょっと運ぶの大変そうだけど、インベントリが増えたからなんとかなるはずだよな……

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