第262話 女神様らしさとは?

 結局、放課後だけでは完成せず夜に持ち越し。

 アージェンタさんに女神像の聖域についてのレポートを送ってから、続きを30分ほどやったんだけど……


「うーん」


 手に持った翡翠の女神の木像をあちこちから眺める。

 正直、かなり良い出来で、ミオンを意識して作ってるのは確実にバレるレベルになってしまった。

 それはまあ、もうオッケーもらってるから良いんだけど……


『完成ですか?』


「いや、もうちょっと……」


 何かが足らない気がするんだよな。

 画竜点睛を欠くってこういうことを言うんだっけ?


「〜〜〜?」


 俺が作業の手を止めたのに気づいたスウィーが木像を覗き込む。

 顎に手をあてる仕草は一丁前の評論家気取りなんだけど……


「スウィーはどう?」


「〜〜〜!」


 ばーんと両手を突き出し、でも、右手の親指だけ折ってるってことは、


「10点中9点ってこと?」


 腕組みしてうんうんと頷くスウィー。

 俺の「何か足りない」と一致してる……


『気分転換してみるのはどうですか?』


「あ、うん、そうしようか。ルピ、散歩行こう。レダとロイも」


「ワフッ!」


「「バウ!」」


 俺の周りでお昼寝中だったルピたちがシャキッと起き上がる。

 今日は火曜。いつもなら南側をぐるっと周る予定だったのを、女神像作り優先にしちゃってたからなあ。


「「「〜〜〜♪」」」


「うん、みんなで行こうか」


 フェアリーズもやってきたので、みんなでわいわいと南側へ。

 焦らなくても良いよな。


 ………

 ……

 …


「火をお願い」


 その言葉に小さな火花が飛んでいって、集めた枯れ枝が燃え上がる。火の精霊石用の魔銀ミスリルのホルダーも作らないと。

 久しぶりに、ゴブリン洞窟横の川に来たんだけど、仕掛けてあったかご罠は一部壊れちゃってて、これは確実に作り直し。

 先週はなんで見回り忘れたんだろうって思い出すと、アージェンタさんと白竜姫様が来たからだったなあと。


「かご罠、もっと太い竹にするか、いっそ金属で作るか。鉄だと錆びるし、銅かアルミかな?」


『あ、もう鉱石は出来てるはずですよね?』


「うん。帰りにちょっと確認するけど、採掘しては明日の放課後にするよ」


『はい』


 わたを抜いて串に刺したフラワートラウトを火にかける。

 ルピ、レダ、ロイ、そして俺の4人分は採れたので良かった。

 そのうちにトゥルーたちセルキーにも食べさせてあげたいところ。セルキーって川魚も食べるよな?


「〜〜〜!」


「はいはい。女王様とフェアリーズにはこれね」


 パプの実もたくさん採ったので、乾燥の魔法で手早くとろとろ干しパプにして配る。

 そういえば、アージェンタさん、甘味のやり取りのための保存箱を用意するって言ってたけど、準備できたら連絡くるかな。


「ワフ」


「あ、うん。もう大丈夫かな」


 焼き上がったフラワートラウトをルピたちの分は串を抜いて渡す。


「じゃ、いただきます」


「ワフ」


「「バウ」」


 久々のフラワートラウトの塩焼きが美味しい。

 川は穏やかに流れ、そのさらさらとした音が心地良い。


「ここも雨が降ってない時は穏やかで良い場所だよな」


『気分転換できました?』


「うん」


 インベントリから木像を取り出して眺める。

 悪くない出来だと思ってたけど、何となく足りない部分がわかった気がする。

 一番小さい彫刻刀を取り出し、目元と口元をほんの少しだけ修正。

 ちょっと表情が硬かったのを、にっこりふんわりした感じにしたんだけど、なんか微妙に圧ができた気がしなくもなく……うん、いいな。


「完成!」


【木工スキルのレベルが上がりました!】

【木工スキルの基礎値が上限に到達しました。返還SPはありません】

【細工スキルのレベルが上がりました!】


 あ……


『おめでとうございます! これで木工は上限突破できますよね?』


「そのはず。ま、今さら気にしてもしょうがないか。やらない意味もないし」


 彫刻刀をしまい、ノミを握ると、


【ワールド初のスキルレベル上限突破(木工):3SPを獲得しました】

【工芸(木工)スキルが獲得可能になりました】


「よし! で、上級スキルは工芸らしいけど、かっこついてるし、木工専門の工芸ってことかな?」


『取ってみますか? 先駆者の褒賞がもらえればプラスになりますよ』


「うっ、ちょっと必要SP確認してみる……」


 えーっと、スキル一覧を『工芸』で検索……

 工芸(木工)だけ出てきたけど、これ(石工)とか(細工)とかありそうな気がするんだよな。上級スキルは上限突破してないと見えないってことか。

 で、必要SPは4だからアンコモンスキルと。工芸品って呼ばれるレベルなら、それなりにいるってことかな。


「アンコモンだから先駆者の褒賞はないかも? 確か今まで先駆者が取れたのは、調教と隠密でどっちもレアスキルだったと思うし」


『あ……』


 アンコモンの4SP使って、先駆者で9SP戻ってくるのはやばすぎだよな。

 まあ、レアリティによって先駆者褒賞SPが違うのかもだけど。


「うん、取るよ。あった方が教会に置く女神像も良くなる気がするし」


『はい』


 というわけで、工芸(木工)をポチッと取得。

 先駆者褒賞が出るのは、実際に何かしようとした時だし、戻ってもう一体作ってみよう。


『ショウ君、道具を鑑定してみてもらえますか?』


「え? ああ、そうか。工芸スキルにも補正がかかるかってことだよね?」


『はい』


 上限突破のために手に取ったノミを鑑定してみると、


【最高品質のノミ(中)】

『木材に使用する中サイズのノミ。魔銀ミスリル製で最高品質。

 木工+1、工芸(木工)+1、細工+1』


「お、工芸の分が増えてる!」


『良かったです』


 他の道具も木工スキルに補正がついてるものは、工芸(木工)スキルにも補正がつくらしい。


「工芸って言っても、結局のところ、木工の延長ってだけであんまり変わらないのかな?」


 名前を変えてスキルレベル上げなおしってだけなら、取る意味はなかった気がしなくもなく……


『作るのがもっと早くなったりするかもですよ?』


「なるほど。今でも十分早いけど、さらにってなるのは嬉しいな。

 よし! 戻って何か試そう。まだ時間はあるよね?」


『はい。今、10時半です』


「さんきゅ。じゃ、みんな帰るよ〜」


 翡翠の女神の木像をもう一つ、ログアウトするまでにさくっと作れるのがベスト。

 明日のライブで等身大サイズも作れちゃうと良いんだけど……

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