火曜日
第261話 急がなくても大丈夫?
「ワフ?」
「うん、いいよ。いってらっしゃい」
「〜〜〜♪」
そう答えると、レダとロイを従えたルピ、フェアリーズを従えたスウィーが遺跡の入り口へと向かっていく。教会裏か南側へと遊びに行くんだろう。
昨日の帰りから、十字路の南北にある解錠コード付きの扉は開けっぱなしておくことにした。
北側の教会裏に出る洞窟はセーフゾーンだし、南西側の出た場所の草原もセーフゾーンなので、モンスターが遺跡内に入ってくることはないはず。
『放課後のうちに完成しそうですか?』
「微妙かな。どれくらいでよしとするか次第だから……」
昨日から始めた翡翠の女神の木像造り。
ざっくりとした外観が見えてきたので、今日は細部を彫っていく予定。
ライブで「こういう感じのを等身大で作ってる」と発表するわけだけど……どれくらいミオンに似てしまうかは出たとこ勝負な感じ。
まあ、多分、なんとなく似てるねっていうあたりになると思う……
「じゃ、今日もお願いします」
『は、はい』
家の前の草むらに腰を下ろし、翡翠の女神像を前に置く。
集中力が上がる気がするので聖域も展開させるんだけど、ミオンが律儀に返事をしてくれるのが嬉しい。
ちなみに昨日の夜、10時ぐらいに発動した翡翠の女神像の聖域は今も続行中。もうすぐ午後4時なので、18時間ずっと続いてる計算になる。
「やっぱり丸一日ぐらいは聖域持つ感じかな?」
『でも、ここにはアンデッドがいないからかもです』
「ああ、それは確かに……」
夜にまたログインして、それでも聖域が続いてるようなら、ひとまずアージェンタさんに手紙を書いて送ることにしよう。
「そういえば、部長って今ごろ何してるんだろ? ミオンにまた写真とか送られて来てない?」
『あ、放課後すぐに来てましたよ。今日はラフティングっていうのをしたみたいです』
「え? 何それ?」
『大きなゴムボートで川を下る感じでしょうか?』
「へー。……って、北海道はまだ寒いんじゃないの?」
『どうなんでしょう。「大丈夫だ、問題ない」って感想がついてました』
いや、それダメなやつなのでは……
そんな雑談をしながら、少しずつ少しずつ削り出していく。
『あ、先生が来たので少しはずしますね』
「りょ」
鍵を閉めた部室に入って来れるのは、今週はヤタ先生だけ。
それ以外の人が来た場合は、ミオンに通知が行くので、リアルビューに戻って対応してもらうことにしている。
まあ、誰も来ないけど。
『こんにちはー』
「あ、どもっす」
ヤタ先生もスタジオに来てくれたっぽい。
というか、昨日もだけど、
「いつもより部室に来てくれるの早くないですか?」
『一番厳しい八坂先生が修学旅行の引率でいませんからねー。先生たちもみんなまったりしてますよー』
『そうなんですね』
いいのかそれ……
ヤタ先生の話だと、八坂先生――ベル部長の担任――が教頭先生で一番厳しいらしい。
校長先生はフワッとした人なので、いいコンビなんだとか。
『ところで何を作ってるんですかー?』
「えーっと、女神像の試作ですね」
今さらヤタ先生に隠し事をしてもしょうがないので、ミオンそっくりになってしまった翡翠の女神像のことも話してしまう。
これはまあ、ミオンと事前に話してあったことなので……恥ずかしいけど。
『次のライブでは教会に置く女神像作りの予定です』
『島を守る女神様がミオンさんなのはいいですねー。いっそ、ミオンさんが女神像に乗り移れたりしませんかねー?』
「さすがにそれやったら、贔屓どころじゃないっすよ……」
そういえば、ミオンはキャラメイクだけして止めてあって、課金だけはしてるのか……
「それはいいんですけど、その女神像自体がワールドクエストに絡んでそうで、ちょっと悩んでて……」
『なんでしょー?』
ミオンそっくりになった翡翠の女神像――旧『名も無き女神像』――の聖域の効果で、死霊都市を攻略していくんじゃないかっていう推測を話す。
それが本当かどうか、今、アージェンタさんが竜人族に伝えて、試してみてくれてると思うんだけど。
『なるほどですー。ですがー、あまり気にしてもしょうがないですよー。ショウ君はワールドクエスト不参加と明言されているんですからー』
『そうですよ』
「まあ、そっか……」
『ベルさんが戻って来るまで待ってあげましょー。お二人に急ぐ必要はないんですからー』
「あ、そっすね……」
『先に進んじゃうと、部長が悲しみます』
転移魔法陣も別に今すぐないと困るわけでもないもんな。
とりあえずはアージェンタさんの報告待ちってことで、のんびりまったり女神像作りをやろう。
***
「へー、結構早いな」
「レオナ殿の親衛隊が張り切っておるのでな。ベル殿が帰ってくる土曜には、前線拠点も完成し、今の帝国側の拠点とも繋がろう」
夕食後のデザート。美味しそうに焼きプリンを頬張る美姫。
俺も自分の分を一口……1個150円の幸せがそこにある。
「真白姉は?」
「心配せずとも普通にゲームを楽しんでおる。シーズン殿は姉上を御するのが上手いようでの」
「へー、珍しい……」
まあ、真白姉もわかりやすいっちゃ、わかりやすいしな。
「まあ、昨日はまたレオナ殿とPvPをしておったがな」
「ぐふっ……っぶね。どっちが勝ったんだ?」
「レオナ殿の圧勝だったのう。姉上はあれだな。できることが多くなって、迷いが生じておるのだろう。そんなことを言われて苦笑いしておったぞ」
「マジかよ……」
さすがレオナ様というか、真白姉に物申せる人間なんてなかなかいないんだけどな。
いや、
「兄上の方は順調なのか?」
「順調っていうか、のんびりしてるよ。次のライブも教会に置く女神像作りだしな」
「ふむ。そろそろ、兄上のやらかしが欲しいところなのだがのう……」
こいつ……なんか気づいてる風を装って、俺が何か隠してるかカマかけてるのか?
先に「気にするな」って言われてて良かったよ。
「何もねーよ」
「作る女神像はミオン殿だったりせんのか?」
「……似ちゃうのはしょうがないだろ」
こいつホント……
「ふーむ、我も兄上に像を彫ってもらおうかのう」
「ゲーム上では兄妹なの伏せてるんだから無理だっての。
ああ、そうだ! 白銀の館の人と雷帝の座だっけ? そっちの生産組の人に教えておいて欲しいことあるんだった」
例の高品質
「はあ……、兄上、それは十分やらかしだと思うのだが?
まあ、その量の
うん、そうだよな……
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