第260話 大事な相談事

「なるほど。マナを注ぐことで翡翠の女神像にですか……」


「ええ、マルーンレイスっていうのをなんとか倒した話は手紙に書いたと思うんですけど、その時にです」


 休憩場所になってるスペースにアージェンタさんを案内し、作りかけの木像と道具類はインベントリに回収。

 お互いが着席したところで、本題を聞かないとなんだけど。


「えっと、今日来られたのは?」


「はい。転移魔法陣の回収に予想以上に時間がかかりそうだと言うことを。

 それと先程の問題に、あわよくば何かしら対処法をご存知なのではと……」


 うーん、これアージェンタさんに話しちゃっていいのかな? というか、気付かれてるっぽいから、今さら隠すのもなあ……

 いや、そもそも女神像が出す聖域って、神聖魔法で使えたりしないのか?


「竜人の神官さんって聖域って魔法は使えないんですかね?」


「聖域が使える高位の神官はそれなりにいます。区画を制圧した後に、聖域でアンデッドを近寄らぬようにしていたのですが、夜になるとどうしても休まねばならないため……」


「ああ、寝ずに聖域を張り続けるのは無理がありますよね」


「はい。交代で行うとしても、区画全域を網羅というわけにもいかず、消耗を繰り返すだけと判断したそうです」


 正解だと思う。となると、やっぱりあの女神像を使えってことなんだろうな。

 MPを注いでおけば、本人はいなくなっても聖域が残ってくれるはず。実際、さっき置いていったけど聖域は維持されてたっぽいし。

 俺みたいなプレイヤーが使った場合はログアウトしたら消えるかもだけど。


「えっと、これが確実な方法って訳じゃないと思うんですが……」


 石のテーブルの端に置いてあった翡翠の女神像を真ん中に。


「これってMP……マナを注げば、神聖魔法が使えなくても聖域を張って維持してくれるみたいなんです。どれくらいの時間続くのかはわかってないんですけど」


「なるほど」


 と聖域が展開されている女神像を、じっくり見つめるアージェンタさん。鑑定してるっぽい?


「死霊都市を探索して『名も無き女神像』を見つけて……」


「それをいずれかの女神像に変化させれば、神官に頼らずとも聖域を維持し続けることができると」


「です。かなり適当な推察ですけど……」


 正直、「ゲーム的にそうなんじゃないの?」っていうひねた見方なのは否めない。

 だって、死霊都市に入ってアンデッドを駆逐したら、自然と見つかりそうなアイテムっぽいし。

 鑑定にも『各家庭に』とか書かれてたぐらいのものだし、建物の中を探せば見つかりそうな気がするんだよな。


「いえ、ありがとうございます。現状、全く方針が立たなかったのですが、まずはその線を試してみましょう」


「はい。あ、ちなみになんですけど、竜人さんたちってどの女神様を信仰してるんです?」


「白竜山脈には竜族の庇護下に竜人、巨人、獣人、翼人がおります。竜人と獣人は翡翠の女神を。巨人は紅緋の女神を。翼人は蒼空の女神を信仰しています」


 なんか意外とバラけてるな。っていうか、


「月白の女神を信仰してる種族っていないんですか?」


「いないというわけではありません。それぞれの女神の上に月白の女神がいますので、主神として信仰しているとも言えます」


「なるほど」


「像は翡翠の女神が良いということでしょうか?」


 とアージェンタさん。


「あ、いえいえ、俺はそうだったってだけなんで。それもなんというか、偶然そうだったってだけですし。

 ただ、他の女神像にもなるのかどうかは、ちょっとわからないですね……」


 紅緋とか蒼空とか月白の女神像になるのかな? いや、なるよな。

 そうじゃないなら、最初からその女神の像にしておけばいいだけだし。

 

「わかりました。それと聖域が持続される時間が不明とのことですが……」


「その辺はよくわかってなくて。すいません」


「いえいえ、何かわかったことがありましたら、ご連絡いただけますか?」


「はい。このままにしてればわかると思うんで、また手紙で伝えます」


「ありがとうございます」


 ホッとした表情になるアージェンタさんだけど、そのまま少し困った感じに。


『まだ何かあるんでしょうか?』


「えっと? 他にも?」


「ええ、これは急ぎでもなんでもない話なのですが……」


 アージェンタさんがバツが悪そうに切り出したのは、わらび餅を大量に運ぶ方法についての相談だった……


 ………

 ……

 …


「「バウ」」


「「「〜〜〜♪」」」


「ただいま」


 ルピと一緒にアージェンタさんを大型転送室までお見送りし、戻ってきたところで、レダ、ロイ、スウィーとフェアリーズが出迎えてくれた。

 突然のアージェンタさん来訪で焦ったけど、俺が持ってる情報は全部出しちゃったし、あとは任せるしかないよな。


『ショウ君、お疲れ様でした』


「ミオンもフォローさんきゅ。これでアージェンタさんたちがうまく行ってくれれば良いけど……」


 アージェンタさんたちNPCだと、名も無き女神像を変化させれないんじゃないかっていう気が若干。

 そうなると俺がいったん預かって、翡翠の女神像に変えるっていう方法ぐらいしか思いつかなくて、竜人さんたちが確保した区画にミオンの像が置かれまくるっていう……


『ショウ君、ドラゴンさんからのお礼の品ってどうしますか?』


「どうしよ。すぐに思いつくのは持ち運べる転移魔法陣だけど、それを今確保しようとしてくれてるわけだし、他にって言われても……」


 アージェンタさんは『古代魔導保存庫』のことは知っていて、同じものを竜族でも使ってるらしいので、余ってるそれを大型転送室に置いてやり取りする方向になった。

 これで向こうに送る物が増えるんだけど、その分の代金というか報酬というか、また欲しい物を聞かれて困ってしまった。


「ミオンは何か思いつく?」


『そうですね……。あの女神像みたいな、ドラゴンさんたちも使い方がわからない物をもらうとかはどうですか?』


「ああ、それがいいか。アージェンタさんたちも鑑定はしてるみたいだけど、それでも使い方わからない物とかあるよな」


 スキル補正とかステータス補正がすごくあるようなアイテムをもらうのは、なんか微妙な気分になりそうだし。


『あ、ショウ君、そろそろ11時です』


「りょ。まあ、何が送られてくるかわからない方が面白いよね」


『です』


 あとは聖域がログアウトしたら消えるのか? どれくらいの時間維持されるのか? チェックしないとだな。

 1日ぐらいは持つ気がしてるんだけど……どうだろ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る