第259話 進捗どうですか?

「ふう、やっぱ大変だな。作り始めて1時間ぐらい?」


『はい。少し休憩しませんか?』


「りょ。なんとなく外観は見えてきたかな?」


 木工スキルが高いおかげというか、カットするのにミスはしないし、思い通りにサクサク切れるのはいいんだけど、やっぱり造形が細かいものは時短対象にはならない模様。

 一度作ったら、次からはっていうのに期待しよう。

 基本的には、これを大きくして等身大にするだけのはず……


「ワフ!」


 遺跡の方? からルピの声が聞こえてくる。


「え? 呼んでる?」


『ショウ君、行ったほうが!』


「あ、うん!」


 武器防具はいつも身につけてるから大丈夫。

 ポーションの類はインベントリの隅っこに最低限入れてある。

 ダッシュして遺跡につながる道へと入ると、


「ワフ」


 俺の姿を見たルピが「ついてきて」という感じで遺跡の方へと駆け出す。

 最初にここに来た時は、出口の洞窟にでかいムカデが出たけど、今はもう大丈夫のはずだよな。

 洞窟の中に入ったところでレダとロイが待ってくれていた。ルピもそこで立ち止まったので、当然追いつくんだけど。


「どうした?」


[お呼びして申し訳ありません]


「うわっ、ニーナ?」


 遺跡入り口の近くまで来たところで、ニーナの声が聞こえてびっくりする。

 声が届けばいいから、ちょっと外ぐらいなら大丈夫なのか。


『あ、ニーナさんの声が届かないから呼んでくれたんですね』


「ああ、そういうことか。びっくりした……」


「ワフゥ……」


「ごめんごめん、怒ってないよ。むしろありがとう」


 ルピたちをしっかり褒めて、ちゃんと撫でてあげる。

 で、ニーナに呼び出した理由を聞いてみると、


[大型転送室にドラゴン、個体名アージェンタが来訪しています。ショウが気づくのを待っているようです]


「え、マジか。ごめん、ミオン。女神像作りは中断して迎えに行くよ」


『はい!』


 翡翠の女神像、放り出したままになるのがアレだけど、戻ってる時間が惜しい。


「ルピ、一緒に行こう。レダとロイはスウィーたちにお客様が来たことを伝えてくれるかな?」


「ワフ!」


「「バウ!」」


 レダとロイが教会裏へ駆け出し、俺とルピも大型転送室へと走る。


「あれ? ニーナ、アージェンタさんって転移エレベーターには乗らなかったの?」


[はい。転移魔法陣から少し離れた場所で、手にした書類を確認中のようです]


 アージェンタさん、真面目……

 そのまま転移エレベーターに乗ってくればいいのに。って、解錠コードの扉が閉まってると思ってるか。

 あのあたりの扉は、今は山小屋に戻る時は閉めるようにしてるけど、ずっと開けっぱなしにしてもいい気がするな。

 というか、ニーナがいる制御室に続く通路に移せないかな?


『ドラゴンさんたちは、ニーナさんのこと知らないですよね?』


「あ、それもあった。ニーナはアージェンタさんに話しかけたりはしてないの?」


[はい。こちら側からの問いかけは管理者、もしくは、生命の危機に関わる要件でない限りは行いません。

 今回はドラゴンの来訪が重要要件である可能性が高いと判断し、まずはショウの見解を得るため、マナガルム、個体名ルピに通知いたしました]


 なるほど。アージェンタさんが来たから、たまたま通りがかったルピたちに知らせたのか。


『ルピちゃんと話せるんでしょうか?』


「ニーナってルピとは会話できる?」


[いいえ。何かしら通知を行えば、ショウへと連絡を取る可能性が高いと判断しました]


 うーん、さすがにルピと会話はできないか。

 でも、ルピに知らせれば俺を呼べるって考えるあたりは賢いよなあ。


『ルピちゃん、偉いです!』


「ワフ!」


 十字路を右に曲がって、転移エレベーターに到着。

 ルピと飛び乗って、ボタンをポチッと。

 スウィーがいないけど……ニーナの話だと白竜姫様は来てないっぽいからいいか。


「アージェンタさん!」


「ああ、ショウ様。お気づきいただけましたか。突然お邪魔して申し訳ありません」


 駆け寄るとそう言って深々と頭を下げてくれる。

 相変わらず礼儀正しい。こっちが恐縮するレベルで……


「えっと、今ちょっと作業中なんで、そっちでいいですか?」


「はい、ありがとうございます。道々、説明させていただいても?」


「ええ、お願いします」


 ………

 ……

 …


「死霊都市に向かった竜人族は、北側の門から侵入し、まずは門に近い区画のアンデッドを駆逐したそうです。

 本来なら、そこを足がかりに先へと進むはずだったのですが、夜になるとアンデッドが大挙して押し寄せ、区画を取り返されてしまうとのことで……」


「な、なるほど……」


『同じなんですね』


 ミオンのいう通り、プレイヤーだけじゃなくて、NPCにもちゃんと襲い掛かってるんだ。

 いやまあ、そうじゃないと不公平って言われるからなんだろうけど。


「報告では、竜人神官たちは確かに浄化を掛けたとのことですが、アンデッドの数は一向に減らず、消耗戦となる前に一時撤退しました」


「神官? 竜人族の人たちも女神様を信仰してる?」


「はい。我々の庇護下にありますが、信仰を禁じているわけではありません。我々竜族は女神を信仰はしませんが、彼らが信じるのは自由です。

 ……いえ、一つだけ信仰を禁じている神がいますね。そのことはまたいずれお話ししましょう」


「はあ……」


 遺跡を出たところで、


「ワフ?」


「うん。レダとロイのところに行っていいよ。スウィーは……呼ばなくても平気かな」


「ワフ!」


 先へと走っていくルピを見送りつつ、俺とアージェンタさんは教会裏へと続く道を歩く。

 アージェンタさんはここが初めてだからか、少し周りが気になる様子。


「あれが教会ですか」


「ええ、こっちは裏手になります。正門は魔導具の扉でがっちり閉まってて、今のところは開けるつもりはないですね」


 さすがに今日はお茶請けとか用意してないけど、昨日収穫してインベントリに入れてあるライコス(トマト)でも出そうか。

 冷やしライコスに塩を添えて、とか思いつつ参道っぽい道を抜けて裏手へと出る。


「ショウ様、あれは?」


「え? あー、あれはですね……」


 アージェンタさんの目が良いのか、聖域を出して置いたままの翡翠の女神像に気付いたらしい。……どうしよう?


『ショウ君、説明していいですよ』


 ミオンの気づかいが嬉しい。

 心の中で感謝しつつ、翡翠の女神像――かつて『名も無き女神』――だったそれについて説明を始めた。

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