第258話 のんびりマイペースに

「ごちそうさまでした」


「ワフン」


「「バウ」」


 ルピに加えて、レダとロイが加わって食卓が賑やかになって嬉しい。

 今日のIROのご飯はランジボアの肉とレクソン(クレソン)、仙人筍のオステラソース(オイスターソース)炒め。

 これまた白いご飯が欲しくなる一品……


『オイスターソースが手に入ったんですねー』


『セルキーさんたちがショウ君にってくれたんです』


 説明をミオンに任せつつ洗い物を済ませる。

 ルピたちは食休みなのか、輪になってお昼寝中で可愛い。


「さて、わらび餅を作る前に……」


『前に?』


「あ、うん。応用魔法学<水>を取ろうと思って。この間、冷やす話があったから」


『あ、そうでした!』


 本のタイトルに『熱』とあった<火>と、『氷』とあった<水>。

 俺としては、とりあえず氷水で冷やせればいいので、確実な水の方を選ぼうかなと。


 1階のキャビネットから「水、氷、蒸気について〜応用魔法学<水>」を持ってきて、さっそく……


「よし。応用魔法学<水>スキル取れる!」


 ポチッと取得して、さっそく本をパラパラと読むと、


「あ、あった。<冷却>と<加熱>の両方か……ってこれ、基礎魔法学の一部って書かれてるけど」


『何か分けてある理由が?』


「日常生活で使うには危険だから、十分に注意しろって注釈が入ってる。知らないうちに物質の温度を上げたり下げたりはしないようにだってさ」


『熱いものを触ると火傷につながりますしー、冷たいものを触ると指がくっついて取れなくなりますよー。そういう危険があるからじゃないですかー』


『「なるほど」です』


 イタズラじゃ済まなくなるからって感じだよな。

 島の中ならそんなことは……ルピやスウィーが熱々の食器とか触らないように注意しよ。


「ともかく、冷却はできるようになったし、わらび餅作らないとな」


 ………

 ……

 …


「いったん、これだけで送るか」


『転送箱にはまだ入る気がしますけど』


「わらび餅って保存が難しいっていうか……」


 送ってすぐに気づいて食べてくれるのが一番なんだよな。

 余ったら冷蔵庫行きが普通だけど、冷蔵すると食感も悪くなるし、なんか変な味になりがち。

 そうなると魔導保存庫とかに入れてもらうしかないんだけど……竜族なら持ってそうな気がするな。


「たくさん作っておいて都度送るでもいいけど、そうなるとこっちの保存庫を圧迫しちゃうから」


『あ、そうですね』


 ランジボアの肉を早めにベーコンにしないと。


『ゲーム内で氷室とか作れませんかねー?』


「じいちゃんに聞いたことはありますけど、うちの田舎は雪とかあんまり降らないとこなんで……」


 ヤタ先生の無茶振りがひどい。

 というか、あれは冷蔵庫っていうよりは、氷そのものを保存するのが目的だったような?


『ショウ君の場合、氷の壁で冷蔵庫を作ったほうがいいかもですね』


「ああ、その手があったか。いや、でも、わらび餅って冷蔵すると味が落ちるっていうかね。アイスとか作れるようになったら考えるか……」


 というか、シャーベットなら既に作れるよな。

 グリーンベリー、グレイプルあたりの果汁に空砂糖を入れて凍らせればいいわけだし。

 これは夜にでもやってみよう。


「手紙に保存庫がないとたくさんは送れないって書いとくよ」


『あと布と糸のお礼も忘れないでくださいね』


「りょ」


 亜魔布に亜魔糸って、まだ本土には無い素材なんだろうし、めっちゃ高そうだよな。

 転送箱の余ってるスペースには、きな粉と青蜜の瓶を詰めて……

 手紙はさくっと書いて、ミオンチェックを入れてもらってから蓋を閉める。


「よしっと。そろそろ時間?」


『はい。5時半前です』


「おけ。ルピたち呼んでログアウトするよ」


***


『じゃ、ナットさんとポリーさんが行くのは、水曜になるんですね』


「うん。セスたちがまだ前線拠点を作ってるところだからね。それが終わるのが今日か明日になるんだって」


 月曜夜恒例の畑仕事をしつつ、ミオンと雑談。

 ポリーいいんちょからナットに話があったことを伝え、その上でセス美姫の思惑を再確認しておく。

 よくよく考えると、帝国側の前線拠点は今ごろ大騒ぎのはずで、そんなところに行って面倒ごとに巻き込まれたりしないかっていう。


『白銀の館の生産組の人たちも一緒だとは思いませんでした』


「俺も。でも、土木スキルがあれば、道作るのが格段に速いって聞いて『なるほどなー』って思ったよ」


 ベル部長たちが魔術士の塔で見つけた応用魔法学の本は、さくっと複製(手書きで!)されて、『白銀の館』のメンバーや親しくしているギルドへと渡っていったそうで。

 陶工のジンベエ師匠、鍛治のゼルドさん、大工のバッカスさんは応用魔法学<地>に土木スキルも習得して、ナットたちのフォローに入るらしい。

 あいつ、自分が悪く言われたりするのは気にしないのに、知り合いを悪く言われたりするのには敏感だから、大人が付いててくれるのは助かる……


『島では綺麗な道を作ったりはしないんですか?』


「そのうちかな? もっと島民が増えたりしたら必要かも?」


 今のところ、俺、ルピたち、スウィーたちが歩いたりする場所は、古代遺跡から教会までが少しマシなぐらいで、後はほとんど山道か獣道って感じ。

 ゴブリンがいた洞窟から海岸までを整備しようかなって思ったけど、今はもういいかなって放置中。

 俺とルピたち、スウィーたちには、それで十分だからだけど。


『馬っているんでしょうか?』


「あー、いると嬉しいかもだけど、走り回れる場所ってなると……」


 教会の正門を開けた先になるよな。

 島の北西側も気になってるけど、まずは女神像を作らないと。


「今日はここまでにしておやつにしようか」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 みんなで集まって、おやつタイム。

 採れたてのグレイプルの実で、フローズングレイプルを作ってフェアリーたちに。

 ルピ、レダ、ロイにはライコス(トマト)の砂糖がけを。


「んじゃ、俺は木像作りをするから、遊んでていいよ」


「ワフ」


「〜〜〜♪」


 いきなり大きいのを作るのは怖いので、まずは翡翠の女神像と同じ大きさのものを、木彫りで作る予定。

 ルピやスウィーたちといつもの場所に戻って腰を下ろす。

 フェアリーたちは追加のグレイプルを取りに行ってるし、レダとロイはこの場所が珍しいのか、あちこち様子を見に行ったり。


「せっかくだし、ちゃんと聖域を作るかな」


 女神像にMPを注ぐと薄緑の光が広がっていく。

 なんか、この聖域の中にいると心が落ち着く感じ? 翡翠の女神の恩恵に平穏ってあったからかな。

 物作りに集中できそうで、すごくありがたい。


 女神像より一回り大きい角材を取り出して、まずは前後左右天地にそれぞれから見た女神像を写し描く。

 アージェンタさんから魔導刻印筆をもらってて良かった。これがなかったら、いきなり躓いてたもんな。

 さて、まずは大きくカットしていくか……

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