月曜日
第257話 つながる人と場所と
「2年生って今日から修学旅行なんだな」
「そだな」
外はしとしとと雨が降っているので、教室でのお昼。
こういう湿気てる日は、サンドイッチもオーブンで軽くパリッとさせたい気分……
「一般的な高校の修学旅行って、だいたいこれくらいの時期なのかしら?」
「そうじゃねーの? あとはまあ秋とかだろうけど、うちは文化祭がでかいらしいからな」
そういや、夏休み明けてからは、真白姉も結構忙しくしてたような気がしなくもない。
あれは風紀委員だったからなのか?
「ん」
「さんきゅ」
ミオンが熱いお茶が入ったマグボトルを持ってきてくれている。
日曜にミオンの家に遊びに行った時に、お茶が美味しいことを椿さんに伝えたら、お昼の分ぐらいは持ってきてくれるって話になったからだけど。
「ん? いいんちょ、どしたん?」
ミオンからコップを受け取って、お茶を注いでもらってる俺をなんか半目で見ているいいんちょ。
ひょっとして、俺がミオンに無茶言ってるとかそういう?
「はあ……なんでもないわ。それよりも、ベルさんが今日からしばらくいないのよね」
「あ、そうなんだ」
知らんぷり知らんぷり……
いや、美姫から微妙に聞いてた方がそれっぽいのか?
そいや、昨日のライブで魔王国側から死霊都市って話の発表があったはずだけど。
「ショウは昨日のトリプルコラボ見てねーの?」
「あー、普通に11時までIROやってたからなあ」
今日の部活はわらび餅作って送らないと……
「俺もまあ、最初の方だけ見てたんだけど、めちゃくちゃ盛り上がってたぞ。雷帝レオナ、氷姫アンシア、魔女ベルがIROで揃い踏みだし、それで発表されたのが死霊都市への新しい攻略拠点の話だからな」
とテンション高めなナット。
その様子を見て、また一つため息をつくいいんちょ。
「?」
「え、ああ、柏原くんに聞いておいて欲しいって言われてるんだけど……」
いいんちょの話は『白銀の館』として、ナットたちのギルド『妖精の友』への打診。
それは死霊都市へ、例の帝国側、独占してる前線拠点の方に行って欲しいとのこと。
「んー? 俺らには魔王国側の拠点使わせてくんねーの?」
「そういう話じゃないの。最後まで聞きなさい」
「うっす……」
独占されてる側の前線拠点は、昨日のベル部長たちの発表で動揺してるはず。
放っておけば例のギルド内で揉めて、そのうち独占状態をやめることになるんだろうけど、それを見越した上で一手打ちたいらしい。
それは……
「あー、前線拠点同士を繋げるのか?」
「そう。柏原くんたちには、あそこから反時計回りに道を切り拓いてもらって、同時に魔王国側の拠点からは時計回りに道を拓くの」
「なるほど、二つの拠点が繋がれば、氷姫アンシアに補給線っていう命綱を握られることもないか……」
「さすが美姫ちゃんだな!」
そう言って笑うナット。
何かしら考えてるんだろうなとは思ったけど、これなら異論も出ないかな。
「ともかくわかったぜ。多分オッケーだろうけどギルメンと相談させてくれ。返事は明日でいいんだよな?」
「ええ。受けてくれるなら、準備やスケジュールを細かく詰めたいって。それで……私がそっちのギルドにお邪魔することになるんだけど、いいかしら?」
「お、おう、もちろん。てか、うちのギルド大雑把な奴が多いから助かる」
良かったな、ナット。
というか、美姫のやつ、ここまで込みで考えてたのか? ベル部長とか白銀の館の人たちの入れ知恵って可能性もありそうだけど……
でもこれでワールドクエストも少しは進むか? 俺としては、アージェンタさんたちが例の転移魔法陣を確保してくれるまでは、足踏みしてくれても良かったんだけど……
いや、もう一つ問題があったな。
「ワークエの進捗が戻ったりするやつって原因分かったりしたのか? それどうにかしないと、魔王国側からでも厳しいんじゃない?」
「いや、全然。実際どうなのか見てみないとわかんねえし、美姫ちゃんがなんとかしてくれるって」
ナットが答え、いいんちょも同意見なのか頷く。
多分、正解なんだろうなってのが、あの女神像なんだけど……どうしても詰まったって話になるまでは秘密でいいか……
***
『ショウ君、女神像の話は……』
「んー、別にいいんじゃない。セスあたりが気づくと思うし、それにあの女神像だけって話でもない気がちょっとしてきて」
『え?』
「昔は都市だった場所だから、教会ぐらいあるんじゃないかな? そこまで行けば、さすがに聖域の手がかりが落ちてると思うんだよな」
『なるほどです!』
ノーヒントで『名も無き女神像』だけ落ちてて、それでどうにかしろってことだとは思えないんだよな。
それ以外に落ちてる物とかを調べれば、あの女神像の使い方とかもわかるとか、何かしら手がかりは用意されてるはず。
「俺はほら、ワールドクエスト不参加扱いになってるし!」
『ふふ、そうですね』
アージェンタさんから『困った』って話が来たら考えるけど、それより先にやらないといけないことあるし。
「こんにちはー」
『こんにちは』
「どもっす」
ヤタ先生が部室に登場。
さっきまでクラスでホームルームしてた担任の先生が、そのまま顧問ってのも変な感じだけど、そのうち慣れるんだろうな。
「そういえばー、ベルさんから向こうのホテルに着いたと連絡がありましたよー」
「結構、早くチェックインするんすね」
「1日目は移動で疲れる子も多いですからねー」
北海道広いもんな……
『ショウ君、部長から写真が来てますよ』
「お、見せて見せて」
ミオンが送られてきた写真をリアルビュー上のウィンドウに表示してくれる。
映し出されたのは、二頭立ての馬車に乗ったベル部長たち。
下についたコメントに『クエスト場所まで移動中』と書かれている……
「なんか早くも禁断症状が出てる気がするんですけど」
「まだ大丈夫でしょー。本当に余裕がなくなったらー、そんなセリフも出なくなりますからー」
それはもうダメなやつなんじゃ……
でもまあ、VRHMDも持っていけないし、IROするためにはPCが必要だし、できたところで公式フォーラムのチェックぐらいだよな。
『私たちも来年同じ場所なんですか?』
「いえー、一年の三学期に決めますよー。北海道の南か真ん中か東からですねー。ちなみにベルさんたちは真ん中ですー」
真ん中は自然を満喫するコースらしく、さっきの馬車も牧場なんだそうで。
『ショウ君は乗馬とかできたりするんですか?』
「え? いや、やったことないから無理だと思う」
『そうなんですか。なんだか、できても不思議じゃない気がして……』
田舎のじいちゃん家にお世話になってた時、近くに牧場があったから牛も馬も見たことはある。
ただ、あそこにいた馬は乗馬ってよりは、またがって散歩するぐらいしかさせてもらえなかったはず。
「ミオンさんのためにー、IRO内で白馬に乗る練習をしておいてもいいんじゃないですかー?」
「さすがに恥ずかしいんで勘弁してください……」
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