第254話 管理者特典・採掘場

「って話なんだが、お前もゲーミングチェアいるか?」


「もちろん!」


 あっさりとオッケーが返ってきた。

 ちょっとは遠慮というものをと思ったんだけど、


「兄上だけ使うのは居心地が悪いのであろう? 遠慮せず我もご厚意に甘えようではないか」


 そうニヤリと笑う美姫。

 まあ、全部お見通しってやつだよな。


「まあ、そうだな。すまん」


「うむうむ。それよりも、食後のデザートを希望する!」


 冷蔵庫から買ってきた焼きプリンを出してやると、待ってましたとばかりに蓋を開け始める。


「そいや、今日ってベル部長のライブあんの?」


「うむ。修学旅行前にゲーム分とライブ分を限界まで補充しておくと言うておったぞ」


 ゲーム分とライブ分を補充ってバッテリーかよ。まあ、わからなくもないけど。

 それより、


「で、死霊都市の攻略、お前も魔王国側から参加するんだよな?」


「レオナ殿も乗り気でな。昨日のうちに共和国まで移動は済んでおるので、今日の放送で魔王国へと入る予定よ」


 魔王国の玄関と言われるニアーゲの街へ行き、その後はウェラボの街に移動するらしいけど……


「魔王国側から死霊都市攻略って話は、もうオープンになってるのか?」


「いや、今日の放送で明らかになる手筈よ。魔女ベル、雷帝レオナ、氷姫アンシアのトリプルコラボで大々的にの」


「うわ、マジか。てか、氷姫アンシアは大丈夫なのか?」


 ベル部長は仲は良いけど苦手にしてるっていう微妙な感じだし、例によっていじられるパターンになりそうな。


「策士気取りは攻略には同行せんようでの。補給の確保など後方支援にあたるとのことよ」


「……お前、本人の前で『策士気取り』とか言うなよ?」


「わかっておる。それよりも姉上の心配をした方が良いのではないか?」


 そうだった……

 既に魔王国に入ってるって話だし、ウェラボの街で合流するとかなのかな。

 レオナ様と模擬戦したりするくらいならいいけど、現地で他のプレイヤーと揉めたりしないか不安。


「……頼むぞ、美姫」


「ふふん、任せておくが良い!」


 ホント、頼りになる妹だよ。


***


「ベル部長、明日出発ですよね? いいんですか?」


『今日はライブが終わったらログアウトさせますよー』


『なるほどです……』


 日曜の夜なのに、ヤタ先生が部室に来てるのはそういうことらしい。

 そのままミオンのスタジオに入り、ソファーに腰掛けて『魔女ベルの館』の配信をチェック中……


『お邪魔でしたかー?』


『嬉しいです!』


「だ、そうです」


 俺としてはどっちでもって感じかな。

 ヤタ先生は俺らがネタバレ的な話をしてても黙ってるだろうし。

 まあ、今日やるのは女神像作り……のための道具をグレードアップ。


「ワフ」


「「バウ」」


「うん、いってらっしゃい」


 丁字路でルピたちと別れる。

 ルピはレダとロイを連れて、南側を一周してくる感じかな?

 スウィーとフェアリーたちは、今日はおやすみというか、神樹や泉のあたりでのんびりするらしい。


「さて、まずは鉄鉱石を掘るよ」


『はい』


 光の精霊にあかりを頼み、採掘場へと降りる。

 そういえば、なんでここだけ暗いままなんだろう?


「ニーナ。この場所が暗いままなのには理由が?」


[はい。鉱床となりうる箇所をできるだけ確保すること、および、その隆起が考えられるためです]


「なるほど……」


 利便性よりも生産性重視ってことか。


『今のは古代遺跡のAIですかー?』


『あ、はい。先生、このことはまだ秘密でお願いします』


『はいー、大丈夫ですよー』


 ヤタ先生はニーナのこと知らないんだった……

 ベル部長とセスには話したから、すっかり話したもんだと思ってたけど、あれも夜遅くだったし、それ以降は全然だったもんな。

 ともかく、そのへんはミオンがフォローしてくれるのに任せて、復活している鉄鉱石を確保していく。


「ま、今日は行きのついでだから」


 それでも、空間魔法の収納拡張を使えば結構運べるはず? いや、重さのほうで厳しいかな。


『ショウ君、ニーナさんに質問してもらっていいですか?』


「え、うん。何を?」


『今は鉄鉱石と魔銀ミスリル鉱石だけですけど、他の鉱石は掘れないんでしょうか?』


「ああ、なるほど……。ニーナ、ここで採掘できる鉱石って鉄と魔銀ミスリルだけ?」


[いいえ。軽銀、銅、銀、金の鉱石を生成するよう設定が可能です。現在は最上部に魔銀ミスリル、それ以外は鉄となっていますが、設定を変更しますか?]


「マジか……ちょっと考えさせて。ポイントと鉱石の種類を指定すれば変更とかそういう感じなんだよね?」


[はい。その手順で合っています。変更した場合、次に生成される鉱石から指定された鉱石になります]


「すげえ……」


『さすがです!』


「いやいや、ミオンのおかげだよ。変更できるとか全然考えになかったし。でも、どれを指定するべきかは悩むな」


 金、銀、銅と軽銀……軽銀ってなんだ? 軽くて銀みたいな……アルミニウムかな?

 皿やナイフ、フォークなんかの食器類はアルミにすると軽くて良いかもだな。


『先生のおすすめは銅ですねー』


『銅ですか?』


『はいー。銅は錆にくく加工しやすい金属ですしー、銅製のドアノブとかー、やかんとかー、見たことありませんかー?』


「あー、じいちゃん家で見たやかんがそうだったかも……」


 レトロっぽい感じで結構好きなんだよな、ああいう感じ。

 今はお湯を沸かすにも土鍋か鉄鍋だし、銅のやかんはちょっと欲しい。

 うまく加工できるかどうかも試してみたいし。


「じゃ、まずは一箇所ずつ変えて様子を見ることにしようか」


『はい。あ、でも生成されるまでの時間が長くなるかもです』


「ああ、そうだった。ニーナ、それぞれの生成時間ってどれくらいか教えてくれる?」


[はい。軽銀、鉄、銅が約1日。銀、魔銀ミスリルが約14日。金が約60日です]


 へー、銀と魔銀ミスリルが同じって意外だな。あと金が2ヶ月って結構かかるんだ。


「ちなみになんだけど、オリハルコン? そういうのってあるの?」


[いいえ。本施設の生産可能鉱石には存在しません]


 うーん、残念。

 しょうがないけど、ちょっとロマンなんだよな。

 この島がエンドコンテンツとか言われてるけど、それが本当ならオリハルコンは存在しないのかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る