土曜日
第249話 セルキー伝統の調味料
土曜日はソロプレイの日。
美姫と早めのお昼を食べてからIROへログイン。
ベル部長たちは今日の打ち合わせの結果次第だけど、レオナ様が反対とか言わない限りは共和国へ向けて動き出すらしい。
もちろん、
「ふう。こんなもんかな」
燻製室の反対側に普通の石窯コンロを作成。
倉庫内に煙がたまる可能性があったので、掘削の魔法で通風口を増設。
壁が崩れないように慎重にやったので、ちょっと時間がかかったけど、これで雨の日でも食事ができるようになったし、旧酒場の方のかまどは後で撤去かな。
倉庫前の草むらには、ルピとスウィーが揃ってお昼寝中。
ちょっと起こすのは忍びないけど、そろそろ2時だし、トゥルーたちを呼ぼう。
「ルピ? スウィー?」
「ワフ」
呼ぶとシャキッと起きてくれるルピと、その背中から転げ落ちても寝てるスウィー。
「そろそろトゥルーたち呼ぶから」
「ワフン」
そう答えて、スウィーをちょいちょいっと突いて起こしてくれる。
寝ぼけ眼の女王様は左右を見回して……ふわーっと浮いて俺の左肩へと。くあーっと大きなあくびを一つ。
「はい、これで目を覚まして」
渡したグリーンベリーをパクッと食べ、くぅ〜っとその甘酸っぱさを堪能して目をぱちくりさせる。
「んじゃ、呼ぶよ」
ペンダントのセルキーの呼び子を軽く咥えて、
ピュイ〜〜〜ョ〜〜〜♪
透き通った心地良い音色が生み出され、入り江全体に響き渡る。
音がまだ残っているうちに、さざ波の合間から見えるアザラシの頭。その数がどんどんと増えていく。
「キュ〜♪」
「お〜!」
トゥルーの声に手を振って答えてあげると。
セルキーたちがスピードを上げて近づいてくる。
「キュ♪」
「ワフン」
「〜〜〜♪」
ルピと握手?して、スウィーとはハイタッチ。仲が良くて何より。
燻製室の説明は魚採ってきた後でいいかな? どうせ料理するんだし。
さっそくと思ったんだけど、
「キュキュ〜」
「ん?」
トゥルーが何かあるっぽくて、後ろを見て手招きをすると、小さな陶器の壺を持ったセルキーが二人近づいてくる。
「キュキュ」
「え、くれるの?」
「キュ〜♪」
受け取ってと満面の笑みなのでありがたく。
でも、これなんだろう。中身が気になるんだけど……
「中を確認していい?」
「キュ〜」
良さそうなので、片方を置いてから、もう片方の昆布でできた蓋を取る。
途端に溢れる少しツンとした、でも、なんだか落ち着く香り……
【クルーぺソース】
『クルーぺを塩漬けしたエキスから作られた調味料。
熟成が進むほど味わいとくせが強くなる傾向にある。
料理:調味料として利用可能』
「ああ! 魚醤ってやつか! めっちゃ嬉しい! 今日はこれで料理作るよ!」
「キュキュキュ〜」
「え、ああ、もう一つの方はまた別?」
うんうんと頷くので、クルーぺソースをしっかり蓋をして置いてから、もう片方の蓋を取ると……
「ああ、これはわかる! オイスターソースだ!」
「キュ〜!」
【オステラソース】
『オステラを塩漬けしたエキスから作られた調味料。
独特の風味と濃厚なうま味を持ち、炒め物などに使われることが多い。
料理:調味料として利用可能』
「ヤバい。一気に料理の幅が広がる気がする。葉野菜を炒めてオステラソースかけるだけで美味しいんじゃないかこれ……」
これで焼きそばとか作りたい。けど、小麦粉ががが……
そろそろ教会の外に、いやでも女神像が先なんだよな。
やること多すぎて処理しきれない……
「キュ?」
「あ、ごめんごめん。これも使わせてもらうよ。かわりにっていうのも変だけど、コショウとか砂糖とか持ってきてあるから、余ったら持って帰って」
「キュ〜!」
余った野菜とか調味料とかセルキーに渡そうと思ってたけど、交換って考える方がいいのかな?
ま、あんまり深く考えなくていいか。
ともかく、一緒に潜って、おいしい魚介類で料理しよう。
………
……
…
「キュ〜?」
「うん。持って行って食べ始めちゃって」
「キュ〜♪」
お手伝いしてくれてるセルキーたちに伝えつつ、オランジャックを揚げていく。
前回作った『オランジャックの南蛮漬け』をさらにレベルアップ。グレイプルビネガーにオステラソースを追加することで、さっぱりなのにコクのある美味しさに。
「っと、ルピもどうぞ。熱いから気をつけてな」
「ワフン!」
今日もまた大きな魚、セリオラっていう……ブリっぽいのを捕まえてくれて、既に半身はお刺身として食べてもらっている。
クルーぺソース(魚醤)とクレフォール(わさび)でもいいし、ごま油と塩のお好みの方で。残る半身は今から炒め物に。
「「キュ〜?」」
「うん、見てていいよ」
前に手伝ってくれてたセルキーと同じ子かな? 俺の料理を知りたいらしいので、見ていてもらおう。
少し厚めの一口サイズに切って片栗粉をまぶす。
チャガタケ、キトプクサ、仙人筍も同じサイズに切り揃える。
「火を使った料理って、君たちもやってるの?」
「「キュ〜」」
うんうんって感じなので、やってるっぽい。
まあ、前も普通に料理したのを食べてたわけだし、包丁の使い方もうまかったし、自分たちで料理してるんだろう。
料理道具とかどうなってるか気になるんだよな。
古いの使ってるなら、新品を渡してあげた方がいいんだろうか……っと、それは後でいいや。
「フライパンを熱して油をひく。で、まずはセリオラから焼いていくよ」
じゅわっといい音がして、既に美味しそうな香りが漂ってくる。
いい感じに焼き色がついたところで、チャガタケ、キトプクサ、仙人筍を投入。
「野菜の方も火が通ったら、ここでオステラソース、砂糖、塩を入れてしっかりと絡める感じ」
ふんふんと頷いてるセルキーたちの目が真剣……
「最後にクルーぺソースを隠し味に少し入れて完成」
大きめの木皿に移して軽く味見……
「うん、美味しい!」
ブリのオイスターソース炒めをIRO風にアレンジした感じだけど、しっかりした味がすごくいい。
セルキーの子たちにも勧めると、パクッと一口食べた瞬間にカッと目を見開いて美味しさに驚いてる様子。
「「キュ〜♪」」
そんな尊敬の眼差しをされても困るっていうか、オステラソースとクルーぺソースが優秀すぎるせいな気がするんだけどなあ。
ああ、でも、普段は片栗粉とか砂糖なしで、ただ焼いてソースかけるだけって感じなのかな?
「おっと、そろそろベーコンはどうかな?」
本当なら手間がかかるベーコン作りだけど、素材加工スキルや乾燥の魔法で下準備もあっという間。
燻す時間もとりあえず15分経ったはずなので……
「おお、いい色!」
「「キュ〜♪」」
あ、良かった。
セルキーたちって魚しか食べないかもと思ってたけど、この反応なら大丈夫そう。
バイコビットとかグレイディアのお肉も食べてみてもらわないとかな。
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