第248話 風穴を開ける

「どもっす。俺のせいじゃないっすよ」


 バーチャル部室に来たベル部長とセス美姫に先に言っておく。

 燻製室はちゃんとできたし、後は土曜の昼にってことでログアウトして待つことしばし。

 最近はいったん部室に来てから落ちるのが普通になってるから、俺に確認に来たってわけでもないと思うけど。


「残念ながら、誰のせいなのかはもうわかっておるぞ、兄上」


「二人が想像してる人で合ってると思うわよ」


 そう言って席につく二人。

 じゃ、やっぱり……


『アンシアさんですか?』


「うむ。なかなか面白いことになっておるようでな」


 アンシア姫が領主をしている共和国南東部。

 大きな川を挟んで向こう側が魔王国領なんだけど、そこを船で行き来しての交易が本格化しているらしい。

 こちら側(共和国側)の岸辺に造られた取引所では、アンシア姫のギルド『溶けぬ六花』が仲介役として商品のやりとりをしているんだとか。


「売りたい物と希望価格を伝えて預けておくっていう、フリマサイトみたいな感じらしいわよ」


「よくそんなめんどくさいことしますね。人力なんですよね?」


「NPCを雇えばいいことだし、アンシアさんのファンはそういうの好きな人多いもの……」


 はい、そうでした。

 なんか、一線を退いた企業役員とかがサポーターにいるとかいないとか聞いた覚えあるよ。


『それが今回の件と関係があるんですか?』


「今まで共和国で魔王国の玄関だった街は取引が減って困るでしょ?」


「あー、それで巻き返しを狙って的な? でも、魔王国側に入れるようになるのは、あっちの都合なんじゃ?」


「それは魔王国側の玄関街も同じことよの。ベル殿、地図を出していただけるか」


「ええ、ワールドアナウンスであった一部地域っていうのは、地図で言うと……」


 ベル部長が公式に載ってる地図を出して説明してくれるんだけど……、そもそも大陸側の話ってよくわからないんだよな。


『国境ってこれですか?』


「そうよ。その大きな門がそうらしいわ」


 共和国の東側、なんか遺跡っぽい大門があって、そこが魔王国との国境ってことになってるらしい。

 共和国、魔王国どちらも「軍がその門を越えたら戦争だ!」みたいな規定だそうで、そこを挟んでお互いの入国審査があるんだとか。


「この大門に近いニアーゲの街と、そこから北東へ行ったウェラボの街までね」


「街道一本のみで繋がっておるのも、往来自由に至った要因であろうの」


 人の流れが把握しやすいし、何かあったとしても、そこで抑え込めるって計算があるからか。


「ん? でも、これって魔王国が国としてオッケーしたんだよな? 地方が勝手にって話じゃなくて」


「うむ。当代の魔王は開国派との話よの。氷姫アンシアの交易が至極順調なのも、それゆえなのではないか」


 開国派……

 脳内に江戸幕府と黒船来航みたいなイメージが出てきて、慌ててそれを追い払う。


『あの……、部長もセスちゃんもどうしてそんなに詳しいんですか? 今、フォーラムを見ても、皆さんそんな話は全く……』


「え?」


 ミオンが不思議そうにそう問いかけると、セスが「クックック」と中二っぽい笑いをし、ベル部長が多少呆れたように続ける。


「往来ができるようになって、一番最初に魔王国に入ったのは、マリーさんとシーズンさんよ」


「うわー……」


 思わず頭を抱えてしまう。

 そういやそんなこと言ってたよ、マリー真白姉……

 じゃ、今まで話していた内容は、シーズンさんがいろいろ調べてくれたことなんだろうな。


「マリー姉が魔王国に行きたがってたのは知ってましたけど、それにアンシア姫が絡んでるんです?」


「それが、マリーさんとシーズンさんが一番に行けたのは、アンシアさんから裏で動いてたかららしいのよね」


「『はい?』」


 全く意味がわからないんだけど……どういうこと?

 セスを見ると、ニヤリと笑ってから説明を始める。


「あの策士気取りは、姉上とシーズンどのを通じて我らに力を貸せと言ってきたのだ。死霊都市の独占を崩せとな」


 は? 死霊都市? 魔王国の話じゃなくて?

 意味が全くわからないんだけど……


「この奥のウェラボの街から北西に森を突っ切ると、死霊都市の南東側に出るわ。そこに攻略の前線拠点を作ろうって話ね」


「はあ!?」


『勝手にやっていいことなんでしょうか?』


「魔王国側は既に準備を始めているそうよ」


「え? それってつまり、魔王国のNPCが主体になって、死霊都市の攻略に乗り出してくるっていう……」


「うむ。『ワールドクエストを攻略可能なのはプレイヤーのみと誰が決めた?』そういう話よの」


 まーじーかー……


『でも、それならお義姉さんやシーズンさんに頼まなくても、そのうち独占が崩れる気がしますけど……』


「それでNPCにおいしいところを持っていかれても、というところかの」


「そうね。でも、今回はどっちかというと、私やレオナさんへのメッセージじゃないかしら。今回は手を組みましょうっていうね」


 ベル部長がちょっと苦笑いだけど嬉しそう?

 なんだかんだ張り合ってたりするけど、3人仲は良いからなあ

 ただ、裏で何かしらありそうな気がしてならない。

 こういうときはセスの意見を聞くに限る。


「お前はどう思う?」


「良いのではないか。今のワールドクエストについては、全く無視かタイミングを見計らって参加の二択であろう。

 補給線をアンシアに頼るのはやや不安要素ではあるが、我にも考えがあるのでの。クックック……」


 と中二全開のセス。


「ともかく、明日またギルドメンバーやレオナさんと相談ね。私が来週いないことを伝えないといけないもの」


「あ、そっすね」


 でも、修学旅行から帰ってくる頃には、ちょうど攻略開始なのかな?


「セス、マリー姉のこと頼んだぞ……」


「うむ、任せておくが良い!」


 セスがいた方が何かとストッパーになってくれるだろうし。


『魔術士の塔の方はどうなんですか?』


「そっちは今日ちょうど一区切りついたところなの。ちゃんと応用魔法学の本は全種類揃ったわよ!」


「おお!」


『おめでとうございます!』


 見つけた魔導書は複製して他のプレイヤーズギルドに販売するらしい。

 物が物だけにかなりの値段になるかと思いきや、実費でオッケーという太っ腹。

 まあ、そういうことなら、俺も土曜のライブで全部見つけたのバラしていいかな?


「一区切りついたってことは、最上階まで行けたとか?」


「いえ、それがまた『権限が足りません』なのよ……」


 あー、うん、管理者権限のついた指輪が必要なやつです、それ……

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