第247話 火のないところに煙は?

「<土壁>〜、<浄水>〜、<石壁>〜」


 めちゃくちゃ効率良くて、今までの苦労はなんだったんだってレベル。

 部活ではあの後、白粘土の土壁を目地材っぽくうすーく出せるかにチャレンジし、何度か失敗したけど、最終的にうまくできるようになったところで終わった。


『ショウ君。MP気をつけてくださいね?』


「あ、うん。収納拡張してるから最大MPも減ってるんだった」


 とはいえ、赤鎧熊のマントと蒼月の指輪のおかげでMP回復もすごいことになってるっていう。

 土壁は元々MP消費が少ないし、目地材に薄く作るだけなので消費は一桁。浄水でちょろっと水を出すのもほぼ同じ。

 レンガがわりの石壁を出すはさすがに二桁MPかかるけど、それも1分で回復しちゃうんだよな。


「これで下の方は完成」


『どういう感じか教えてくれますか?』


「うん。えーっとね……」


 一番下、底の部分は薪を燃やすところ。ここで出る炎で上に設置した鉄板を加熱し、鉄板の上のチップを燻す。

 チップから出た煙と熱が、今から作る中心部分で食材を燻製へと変えてくれる仕組み。

 最後に一番上まで行った煙は、通風口から外へ行く。はず……


『なるほどです!』


「ま、最初からそんなうまくいくかわかんないけどね」


 今から作る中心部分は、まず食材を置くグリル部分。単純に鉄の棒を何本か渡すだけだけど。もう少し上には、吊るす用の鉄の棒も渡しておく。

 両サイドを積んだら正面に扉だよな。てか、木を切りに行かないと。

 あ、蝶番持ってくるの忘れてる……。今日のところは仮でいいか。


 ………

 ……

 …


「ワフ!」


「〜〜〜♪」


「あ、おかえり」


 遊びに出てたルピとスウィーが帰ってきたってことは、10時まわったぐらい?

 最後の一段を積み、後は蓋となる天板(石板)を置けば終わりという、ちょうどいいタイミング。


「もうちょっと待ってて。これ、おやつ」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 踏み台がわりにしてたテーブルを降りて、二人にとろとろ干しパプを渡す。

 蓋をする前にもう一度、確認しておこう。


『土木スキルですね』


「うん。これ便利だよなあ」


 意識を集中させ、パーツごとの強度を確認。

 外側は問題なし……内側もぐるっと見回して……大丈夫だな。


【土木スキルのレベルが上がりました!】


「あ……」


『おめでとうございます』


「さんきゅ。まあ、土を出したり石を積んだりもしてたからかな」


 テーブルへと乗って、最後の蓋……の前に、白粘土を出して水を染み込ませる。

 完成イメージを意識……広さ、厚さ、よし。


「<石壁>」


 綺麗に蓋がされて、これで煙は通風口の方へと流れ出るはず。


「ふう。完成かな」


【応用魔法学<地>スキルのレベルが上がりました!】

【石工スキルのレベルが上がりました!】


『また上がりましたね!』


「やっぱり、ちょっと凝った物を作る方がスキル経験値多いのかな。よっと!」


 テーブルを降りてブーツを履き直す。

 さて、試運転のために薪拾ってこよう。


「行こうか」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 これでうまく行ったら、ランジボアでベーコン作ろう。

 砂糖も塩もコショウも手に入ったし、美味いベーコンが作れるはず。

 やっぱり、そろそろ小麦か米を探さないと……


 ………

 ……

 …


「準備オッケー。今って10時半ぐらい?」


『はい。まわったところです』


「りょ。んじゃ、さくっと……。せっかくだし、火の精霊にお願いしてみよう」


 インベントリから取り出した火の精霊石に着火をお願いすると、シュッと火花が飛んでいって、並べた薪が燃え始める。すげぇ……

 消える心配とか無さそうなので、鉄板にパプの木の端材を粉砕したチップを盛って火の上へと。


『えっと、直接燃やしちゃダメなんですか?』


「うん、燻さないとだからね。そのまま火に入れるとすぐ燃え尽きちゃうし」


 いい感じに熱された鉄板がチップを焦がし、煙がもうもうと立ち始めたので、


「よし、投入〜」


 グリル部分にアジの干物を3尾並べて木の蓋を閉じる。

 これでいいはずだけど……って、煙がちゃんと通風口から出てるか確認しないと!


「ルピ、煙見に行こう!」


「ワフ!」


 外へ出て、倉庫の横に行く前にもう煙が見える。

 ちゃんと通風口から排煙されてるのを確認できたので……


『出来上がりまでどれくらいですか?』


「んー、とりあえず15分で試してみるかな」


 というか、蓋しちゃうと見れなくなるの問題だよな。そろそろガラス作る方法を考えないとまずいか……

 でも、吹きガラス作るにしても、原材料からって考えると大変すぎるんだよな。魔法か魔導具か……アージェンタさんに聞けばわかったりしないかな。


 3人で堤防の先までゆったりと散歩して戻ってきた。ちょうど15分ぐらいかな?

 ……ちょっと燻しすぎた気がしなくもない。


「ま、ダメでもパリパリになってるぐらいで食べられるはず。あ、ありがとう」


 火の精霊に終わりを告げて消火。

 グローブをはめて鉄板を取り出すと、チップは真っ黒にはなりつつも燃え尽きてはないし、ちょうどいい感じ?


「さて、どうかな……」


 木の蓋を外すと、ムワッと熱気が抜けて、その先にあるのは飴色になったオランジャックの干物。


「おお、成功っぽい?」


『すごいです!』


 木皿に取り出すと、ルピがしっぽフリフリで待ちきれない感じ。

 けど、さすがにちょっと味見してからにしよう。焦げてると体に良くなさそうだし。


「ちょっと待ってな。一応、味見してみるから」


 小さいオランジャックだし、そのまま豪快にばりっとかぶりつくと……


「うまっ!」


「ワフッ!」


「ごめんごめん。はい、2つ食べていいよ」


 干物の生臭さが全部香ばしさに変わってて、スナック感覚でバリバリ食べれる。

 フラワートラウトの燻製もなかなかだったけど、これはこれで別の美味しさがある感じ。

 ルピなんか頭からバリバリと食べてて、また好物が一つ増えたかな?


『美味しそうです……』


「これはまあすぐ作れるし。それよりもベーコン作りたくて」


『ベーコンですか!?』


「ランジボアの肉で作れると思うんだよ」


 そんな話をしていると、


〖魔王国の一部地域への往来が可能になりました!〗


「『え?』」


 魔王国って……共和国の東側、アプデでスタート可能になるかもって噂があったけど、ひょっとしてもう? いや、一部地域?


「アプデが近いってことかな? ワールドクエストの途中だけど」


『それとは関係なく、交流の結果という可能性はありませんか?』


「ああ、それか。アンシア姫が交易してどうこうとか噂あったもんなあ……」


 他の種族と仲良くするって話、共和国にいたフェアリーたちは俺が保護して連れてきちゃってるからなあ。

 その代わりに魔王国と仲良くなってって感じだったっぽいけど……


『ショウ君。部長やセスちゃんに呼ばれるかもですよ』


「え? 俺関係なくない?」


『いえ、その、またショウ君がって思われてるんじゃないかって……』


 うん、そうだね……

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