金曜日
第246話 イメージが大事
「じゃ、またお昼に」
「ん」
ミオンがニコッとして自分の席へと向かうのを見送る。
そこにいいんちょが近づくのを見送りつつ、自分の席へと。
「おっす」
「おは」
ナットが何か聞きたそうな顔をしてるのがわかる。
間違いなくIROのことなんだけど、島の植生とかは前に結構しっかり解説したし、他に思い当たる節がない。
「なんだ?」
「ワークエの進捗が変なんだよ。お前、心当たりないか?」
「は?」
そもそも俺はほぼ名指しでワークエ不参加扱いなんだが?
そう言い返したいのをグッと堪えて、その『進捗が変』とやらについて聞く。
「昨日の夜、落ちる前に確認したら15%超えてたんだけどよ、朝になって6%に戻ってんだよ」
「……お前、朝からIROログインして確認してんの?」
「公式サイトに出てるっての」
「マジか」
今すぐスクールパッドを取り出して確認したいところだけど、予鈴がなりそうなので自重。休憩時間まで待とう。
「って、その様子じゃ知らないってことだよな」
「ああ、俺はそもそも不参加扱いだしな」
「そうなんだよな。……不参加の割に一番貢献してねえ?」
「言うな。悲しくなるから……」
ワークエ褒賞SP貰えてもいい気がするんだけど、無人島発見関連で先払いされてる可能性高いからなあ。あと島民関連とか。
そんなことを考えてるうちに予鈴が鳴り、
「おはよーございますー、HR始めますよー」
とヤタ……熊野先生が現れる。
「っと、続きはまた後でな」
「りょ」
部活の時に改めてベル部長にも聞かないとだな。
***
「え? そんなことになってるの?」
「いや、まあ、俺も聞いた話なんでなんともなんですけど……」
部活の時間。
ベル部長にさっそく聞いてみたんだけど、珍しくご存じない模様。
『これですね』
ミオンがそう言って公式ページ、ワールドクエスト情報のページを見せてくれるんだけど、進捗は5%と聞いてた6%からまた下がってるし。
「昨日も魔術士の塔に行ってたから、全然知らなかったわ……」
「まあ、物価とかそれ以外にもいろいろめんどくさそうですよね」
「妙な揉め事が起きて、それをほったらかして修学旅行に行くのはね。来週はよろしくね?」
『任せてください』
ミオンが張り切ってるけど、普通に部活するだけだからなあ。
ヤタ先生もいるわけだし、特に変なことは起こらないはず。……っていうとフラグっぽいから用心しよう。
「それにしても、1日1%とかだと100%になるのに3ヶ月以上かかりますよね? ワールドクエスト失敗とかって可能性あるんすかね?」
「どうなのかしら? 想定される期間より長引けば、その分評価は落ちるでしょうけど」
『第一部のワールドクエスト褒賞ってもう配られたんですか?』
「ええ。ほとんどのプレイヤーが5SP貰えたと思うわよ。少なかったのは、途中から入った新規の人とか、他の種族と全く関わりを持たなかった人ぐらいかしら」
ってことは、ナットやいいんちょも5SP貰えてるのか。ちょっとうらやま……いや、島民増えたとかで同じぐらいもらったな。
「まあ、俺は不参加って公言されてるからいいか」
「あまりに進捗が遅くて問題になってきたら、さすがに物価を釣り上げてる人たちも慌てるんじゃないかしらね」
と意味深な笑いを浮かべるベル部長。
公式フォーラムが荒れてるらしいし、責任論みたいな話が始まるんじゃないかっていう……めんどくせぇ……
『部長たちはそれでいいんですか?』
「今は魔術士の塔が順調だもの。昨日、ついに結界魔法の魔導書を手に入れたのよ!」
「おお! おめでとうございます!」
『おめでとうございます!』
さっそく取得し、今日いろいろと試すらしい。
俺が空間魔法を取得できたこと話した時、めちゃくちゃ悔しそうだったもんな……
***
IROにログインし、まずは昨晩仕込んだグレイプルワインができてるのを確認。
半分をまたグレイプルビネガーにすべくセットした。
「さて、倉庫を改造するかな。でも、ちょっと時間足りなさそうなんだよな」
『ちょっと話し込んじゃいましたね』
時間は5時前。
あの後、ベル部長に修学旅行中の連絡とかについて説明された。
VRHMDはさすがに持っていけないけど、私物の端末とかはもちろん持っていけるので、何かあったらそっちにって話。
ギルド運営はセス、ゴルドお姉様、生産組に任せるけど、気になることが起きたら連絡して欲しいと。
「よくよく考えると、来年は俺らなんだよな。1週間近くルピと会えないのは辛い……」
『ですね……』
ゲームプレイはともかく、ルピと会えないのはなあ。
「ワフ?」
どうしたの? って小首をかしげるルピをモフって癒される。
ちゃんとしばらく留守にするよって言っておけば大丈夫だとは思うけど。
「先のことはいいや。まずは燻製室を作らないと」
『燻製室ってどういうものですか?』
「簡単に言うと……下側で木を燻して、その熱と煙を素材にあてる感じ? 煙は外に逃さないと大変なことになるから、倉庫の壁を一部抜かないとかも」
掘削の魔法のおかげで倉庫の石壁に穴を開けるのは大丈夫だと思う。そんな大きな穴の必要もないだろうし。
「よいしょっと」
旧酒場を出て隣の倉庫へと。大きな錆びた引き戸を開ける。
作業もするし、またしばらくの間は開けっぱなしにしとこう。
光の精霊にあかりを出してもらい、中を改めて確認……
『どこに作ります?』
「えーっと……ああ、あった。あそこに小窓あるの見える?」
『あ、はい』
天井との境目ぐらいに、ブロック1個分ほどの小窓。いや、換気口かな?
今まで暗くてわからなかったけど、鉄格子っぽいものがはまってる。
「あれから煙が出ていくようにすればいいし、この辺にこれぐらいの大きさで……」
あんまり大きくても効率が悪いので、50cm四方の狭い部屋を作ってその中で燻製にする感じで。
『なるほどです。でも、火事にならないか心配ですね』
「うん。そこはちょっと注意が必要かな。それも考えると、今日の夜にじっくりやる方がいいか……。セルキーたちにご馳走するの、土曜の昼になっちゃうけどいい?」
『はい。ちゃんと配信はしておいてくださいね?』
「それはもちろん」
んじゃ、部活の時間は下の方をじっくりと、
「あ、また粘土のこと忘れてた……」
粘土堀りに行って終わりかな、こりゃ。
『ショウ君。粘土って土の魔法で作れないんでしょうか?』
「あー、試してみる価値はあるな」
今まで土壁って、なんとなく適当な土をイメージしてたけど、それを明確に白粘土にして……
「<土壁>」
『すごいです!』
目の前に白粘土の小山が出来上がってびっくりする。
なんだ、これなら元素魔法があれば、石造りの建物建て放題じゃんって思ったんだけど、後でベル部長に「そんなことできるのは、応用魔法学<土>か土木があるからじゃないの?」って言われました……
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