第244話 火の精霊石
【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】
「はい」
バルコニーの西側の扉を押し開けると、真っ直ぐ続く通路。
天井が明るく光っていて、ほっと一安心。
気配感知にも何もかからないのを確認して、精霊の加護を解除する。
「大丈夫そう」
『ですね』
ニーナを信頼はしてるけど、見たことのない場所に行く時は慎重に。この前はめちゃくちゃ危なかったし……
通路の先には転移エレベーターが見えているので、さくさくと進む。
「ここも同じっぽいね」
『ショウ君。下へ着いたら暑いかもしれませんよ』
「あ、確かに……」
火山の火口が見れるかもって場所だし、気をつけないとだよな。
「ニーナ。動力部監視室って暑い?」
[はい。体感温度は今いる通路より上昇しますが、危険な温度というわけではありません]
「りょ」
まあ、蒸し焼きになるような温度じゃないよな。
「よし、行こうか」
「ワフ」
「〜〜〜♪」
一つだけあるボタンを押すとすぐに扉が開く。
うん。今までの転移エレベーターと同じだな。
中に入ってボタンを押すと扉が閉まり、一瞬ふわっとして、チーンと音がする。
「うん。ここは反対側だったな」
前もって地図を見ておいたから、今回は驚くこともなく。
降りた先は少し進んで左折なんだけど、転移エレベーターを出たところでじわっとした熱気を感じる……
「〜〜〜♪」
「お、スウィーありがと」
「ワフ〜」
スウィーが風の精霊にお願いしてくれたのかな?
俺たちの周りをそよ風が吹き抜けていって、これなら汗だくになることもなさそう。
『風ですか?』
「うん。風の精霊魔法だと思う」
ゆっくりと進み、角を曲がったところで、また少し体感温度が上がった気がする。
本当に大丈夫なのか、ちょっと不安になってきた……
「この上か」
目の前の階段を上がったところが監視室らしい。
見上げた視線の先には噴煙(?)が見えるだけ。
慎重に一段ずつ上がっていき、頭が出る手前で気配感知を一応……大丈夫。
「さて、どういう……うわっ!」
『すごいです!』
火口の側面にぽつんと飛び出た岩棚。
電脳部の部室ほどしかないここが動力部監視室らしい。
というか、火山の噴煙とかって硫化水素があって有毒だった気が……
「ニーナ。これ本当に大丈夫なの?」
[はい。魔導安全柵で保護されていますので問題ありません]
バルコニーっぽいところにあったあれか……
ぐるっと見回すとフロアの外周をきっちり覆ってて、噴煙もその内側には入って来ないようだ。
「ワフ」
「うん、出ようか」
ルピが行きたいなら仕方ない。
階段を上りきると……
「うわあ……、本当に火口なんだここ……」
上を見上げると、噴煙の隙間から青空がちらちらと見える。
火山の噴煙をこんなところから見れるなんてVRならではだよな……
『ショウ君。動力部ってどこでしょう?』
「あ、そうだ。てか、解説してもらった方がいいな。ニーナ、ちょっと動力部とかどれが何なんのか説明してくれる?」
[はい。まず、正面上方の崖に設置されているのがマナ収集板です。大気中に拡散していくマナの一部を回収し、本施設の稼働に利用しています]
そう言われて正面を見上げると、向こう側の崖に設置されている白い板が見えた。
パッと見は小さいけど、距離のことを考えたら10m四方ぐらいはあるはず。
[右側下方にある投入口から廃棄物が火口へと投下されます]
右下……、もうちょっと動かないと見えないか。
そろりそろりと右側へと進むと、このフロアよりも下の位置にポッカリと空いた四角い穴が見えた。
「火口にいきなり放り込んだりして爆発したりしないの?」
[はい。同時に投入される廃棄物は一定量以下に制限されています]
少しずつ廃棄してるってことか。いきなりどっさり放り込んで大爆発とかシャレにならないもんな。
実際に放り込まれるところを見るのは……やめとこう。なんか怖いし。
「まあ、ここに来ることはほとんどないかな」
『そうですね』
階段を出たところまでさがり、改めて上を見上げる。
ん? 噴煙の中に小さな火の粉が舞ってるように見えるけど、あれってひょっとして……
インベントリに確か極小の魔石があったはず。
『ショウ君?』
「ちょっと待ってね。あったあった。これを浄化……よし!」
魔石を神聖魔法で浄化すると魔晶石になるって話は前にベル部長から聞いた。
全然試してなかったけど、上手くいって良かった。
これを地面に、いや、もう少しフロアの端の方がいいか。
「ワフ」
「ああ、ルピ。ありがとう」
俺の意図を察したルピが、魔晶石を咥えてフロアの端へと置き直してくれる。
『え? え?』
戻ってきたルピをモフりつつ、魔晶石を眺めていると……
「お、来た」
火の粉だと思っていたそれが、魔晶石へと吸い込まれていく。
最初、魔導安全柵があるからダメかなと思ったんだけど、それなら熱も入って来ないはずだし。
しばらく見ていると、透明だった魔晶石がオレンジ色に光る石へと。
これで多分……
「ワフ?」
「うん、お願い」
ルピに拾ってきてもらったそれを鑑定。
【精霊石(極小):火】
『火の精霊が宿った魔晶石。
精霊魔法:MPを消費して火の精霊を使役することが可能』
『あ!』
「よし! 火の精霊石ゲット!」
「〜〜〜♪」
パチパチパチと拍手してくれるスウィー。
多分そうなんじゃないかと思ってたけど、こんなにあっさりうまくいくと思わなかったな。
『おめでとうございます! 火の精霊はショウ君が初めてですよ!』
「さんきゅ。でも、これって条件厳しすぎない? 大陸の方って火山とかあったっけ?」
『いえ、私も聞いたことないです』
北側に白竜山脈とか言うのがあるらしいけど、活火山があるって聞いたことないんだよな。それか……
『これから行けるようになる場所とかでしょうか?』
「山だったり、地下に潜る古代遺跡ならあるかも」
『なるほどです』
溶岩の池? があるような地下洞窟とかってRPGだと定番だし、IROにもありそうな気がする。
そういえば、アミエラ領の『ドワーフのダンジョン』は第4階層までで詰んでたとか言ってたし、その先ならあるかもだよな。
「あれ? ドワーフのダンジョンってなんで第5階層に行けてないんだっけ?」
『部長たちですか? 確か扉があって「権限が足りません」って言われたとかいうお話をされてたかと』
「そうだった。権限が……って、あー」
権限ってこれじゃないのか?
左手の中指にはめてある指輪。これって最上位管理者用だったよな。
『それと同じ指輪が落ちてたりするんでしょうか?』
「どうだろ。でも、似たような指輪はありそうな気がするんだよな。特に死霊都市には」
『そうですね。昔は研究所だったそうですし』
「いや、待て。これと同じ権限の指輪だと、死霊都市の施設を再起動できるかもしれないって話が……」
『あ……』
「……うん。これ以上、俺らが考えてもしょうがないし、気にしない方向で!」
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