第245話 フェアリーズが育てました
「ふう、あとは港だけか」
バルコニーから階段を下りて、港へとつながる通路へ。
そういえば、ベノマスライムを潰したまま放置してたな……
「ニーナ。再起動する前に俺たちはベノマスライムっていうモンスターと戦ったんだけど、それってどこから来たかわかる?」
[いいえ。ですが、魔導安全柵が稼働していなかったため、そこから侵入した可能性が高いと考えます]
「ああ、そういうことか」
通路から港に出たところにあるのは、ベノマスライムの亡骸……とそれを押しつぶした石の塊。
結構でかいのを出したんだな、俺。
「これ、処分しておいた方がいいか」
掘削の魔法で割っていけば、とりあえず持ち運べる大きさにはなるだろう。
そう思って手をかざしたところで、
『あ! ライブまでは残しておいてください!』
「え、あ、うん。ライブで見せるの?」
『はい!』
ミオンのストップが掛かったのでキャンセルで。
ゴリ押しで倒した風に見えるのがちょっと恥ずかしいけど、実際、ゴリ押しだったからしょうがない。
そういえば、落石の魔法については話してないし、そのことも軽く話すかな。
「ニーナ。この港って何のためにあったのかかわかる?」
[はい。港は本島以外の周辺諸島で出る廃棄物が集積される場所です。その量は多くないため、小型魔導船が必要に応じて収集にまわります]
小型魔導船……
あの港に収まるとなると、ホバークラフトみたいな感じかな?
周りの島から出るぐらいのゴミ(?)なら、一隻あれば十分なんだろうけど……
『船は無くなっちゃったんでしょうか?』
「うん、それ。ニーナ、今って船がないけど理由わかる?」
[いいえ。小型魔導船の運用については、本施設はいっさい関知いたしません]
「まあ、そうか。あ、灯台はどう?」
[いいえ。灯台の運用についても、本施設はいっさい関知いたしません]
ニーナがやることは、あくまでマナリサイクル。他の島へ行くような船や灯台のことまでは管理しないってことか。
うーん……他の島はまだまだ先でいいんだけど、誰かがその船を拾ってこの島に……ないか。
「よっと」
「ワフッ」
港のホーム(?)から一段低い方へと降り、海側の出口へと進む。
開けっぱなしだった扉の向こうに綺麗な海が見えてきてテンションが上がる。
「ライブは灯台のところからスタートでいいかな? で、港へ入る感じ」
『はい。スライムを倒したことを説明してくださいね』
「りょ。で、階段上ってバルコニーだけど、隣の島が見えるのはどうしよう?」
無人島スタートできる場所じゃないから話してもいいかな?
『それは触れないほうがいいかもです。この島の場所の手がかりになりそうですし』
「なるほど。島の場所がわかる手がかりになりそうなことは、うかつに明かさないほうがいいか……」
『はい。日曜のルートからは外れますが、火口と火の精霊石の話はどうですか?』
「いいね。本土でも火の精霊石が手に入る可能性とか探ってもらうのも良さそうだし」
そんな感じでライブの大まかな流れを話しているうちに外へと出た。
日差しが強くて少し暑いけど、その分、海の香りを運んでくれる潮風が心地よく感じる。
「トゥルーたち元気にしてるかなあ」
『明日の夜にご飯会ですか?』
「一応、そのつもり。1時間ほど漁やって、その後にご飯かな。何作るかはまだ決めてないけど」
魚介類系で醤油とか味噌とか使わないのって、もうやり尽くした感あるんだよな。
まあ、トゥルー以外は、ごま油と塩で食べるお刺身とか、アクアパッツァがまだのはずなんで、それでいいかなって思ってる。
デザートはプレーンとグリーンのわらび餅を持ってきてるし。
「ふう。ただいま、かな?」
「ワフン」
「〜〜〜♪」
「ああ、スウィーありがとう」
雨が降るだろうと、窓はきっちりと閉めておいたせいで、空気が若干澱んでいる。
それに気づいたスウィーが風の精霊にお願いしてくれ、一気に換気されて爽やかな空間に。
まずは持ってきた野菜類を取り出して置いていく。入れ物の木箱ごと。
きな粉と片栗粉はそれぞれ壺に詰めて持ってきた。あと砂糖、塩、黒コショウ、白コショウといった調味料も。
これらはトゥルーたちセルキーのみんなに使ってもらいたい。
『たくさんですね』
「空間魔法の収納拡張が使えて助かったよ」
2回分を1回で運べるのはやっぱり大きい。
その分、STRが必要だし、VITがないとすぐ疲れそうだけど、今までのレベルアップで得たBPは全部ステータスに突っ込んで正解だったと思う。
それでも結構キツいし、移動時間もかかるし、やっぱり転移魔法陣の対になってる方が欲しいんだよな。
今ごろアージェンタさんの部下の人たちが頑張ってくれてるんだろうけど……
「〜〜〜♪」
「あ、うん、カムラスね。ちょっとだけ待って」
取りに行く前にグレイプルワインを仕込んでおこう。
木箱いっぱいに入ったグレイプルの実を抱えてバックヤードへ。
「あ、今って何時ぐらい?」
『10時半の少し前です』
「うーん、意外と時間かかったけど、動力部見に行ったりしたからなあ」
木箱を置いて、魔導醸造器にグレイプルの実を……の前に一応洗っておくか。
樽を抱えて外へと出て、水の精霊にお願いしてゆすぐ。
乾燥の魔法で乾かしてから、再び魔導醸造器にセットし、グレイプルの実を入れていく。
ひとまず全部グレイプルワインになるようセット。
1時間コースなので、出来上がりを見る前にログアウトすることになるだろうけど、まあ問題ないと思う。ちゃんと蓋もするし。
「よし。じゃ、カムラスの実を採りに行こうか」
「〜〜〜♪」
「ワフ!」
………
……
…
「スウィー、これぐらいにしとこうよ。もう木箱いっぱいだし」
「〜〜〜♪」
1週間ぶりにカムラスを採りに来たんだけど、前に俺がセルキーたちと海に潜ってる間に、スウィーやフェアリーたちが樹の周りのお手入れをしてくれたらしい。
育ちすぎてた下草が程よく間引かれ、綺麗なカムラス畑と呼べるぐらいになっている。
そのおかげなのか、カムラスの実がかなり増えてて、グレイプルを入れてきた木箱いっぱいにカムラスっていう……
「スウィー、ひょっとして何かした?」
「〜〜〜…」
ぷいっとそっぽを向くあたり、何かしたんだろうな。
「まあ、樹が元気になってくれたんならいいよ。カムラスの実、美味しいしね」
「ワフ」
「ルピ、あーん」
そのまま食べてもちょっと苦くて甘酸っぱい。
フェアリーたちはコンポートにして甘くした方が好きみたいだけど、俺はこのままでも十分かなって気がしてる。
『ショウ君、そろそろ11時です』
「りょ。じゃ、帰ろうか」
このカムラスの樹のあたりは段々畑にできそうだし、そうしたらセルキーたちも好きな時に野菜を取れるはず?
ま、明日にでもトゥルーに聞いてみるか……
※ [図解] 島 古代遺跡略図
https://kakuyomu.jp/users/kimino-neko/news/16817139554982230453
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