木曜日

第241話 女神の信徒一号?

「さて、始めようか」


『気をつけてくださいね?』


 天気もいいことだし、何かあった時に困る(?)気がしたので、山小屋前の草むらに腰を下ろす。

 右手に置いた木箱には、資料室で得たアイテムが雑に入れられている。一番大きいのは短杖ワンドだけど、50cmぐらいのいかにもなやつ。


「一つずつ確認するけど、危なそうなら止めてくれよ?」


「ワフン」


「〜〜〜♪」


 ルピとスウィーにお願いを。正直、二人の方がそういうのには敏感な気がする。


 ベル部長に聞いたところ、呪われた武具やアクセはちゃんと(?)存在するらしい。

 それも大体がアンデッドからのドロップ品だそうで……蒼月の指輪は単純にラッキーだったと思おう。


 呪いは鑑定のレベルだけでは見分けることはできない。

 神聖魔法スキルを取ればわかるようになるのと、<浄化>を使うとだいたい解けるので、ドロップ品はまず浄化が基本らしい。

 それをケチって装備してしまうと、今度は<解呪>が必要となって、教会での値段は浄化の10倍以上、下手すると50倍もかかるようになるんだとか。

 俺の場合、島には俺以外いないから、呪いが致命傷になりかねないんだよな……

 ということで、神聖魔法を取れるなら取りたい。


「女神様お願いします」


『は、はい……』


 翡翠の女神像を置いてスタンバイ完了。

 メニューを開いてスキル一覧から神聖魔法を探す……


「よし! 取れる!」


『良かったです……』


「ああ、ごめんごめん。取れなくても別にミオンのせいじゃないし、取れたのはミオンのおかげだけどね」


 ということでポチッと取得。で、神聖魔法スキル+1の古代彩神教典を持つ。

 あ、改めて女神像を鑑定しておくかな。


【翡翠の女神像】 

『古代魔導文明の時代に各家庭に置かれていた女神像。

 捧げられた信仰心によって、心身の平穏と自然の恵みをもたらしてくれる翡翠の女神像へと変化した。

 マナを注ぐことにより、女神の加護による聖域を作ることができる』


「すごいな……」


『あの幽霊が怯んだのは聖域の効果だったんですね』


「だね。で、やっぱり今回のワールドクエストはこれを使わないとダメなんじゃないかな……」


 区画を浄化しろとかどうとか書かれてたし、そのためかな?

 死霊都市を探索してれば、きっと『名も無き女神像』が見つかるんだと思う。


『なるほどです』


「憶測だけどね。せっかくだし、ちょっと試してみるかな」


 手に取った女神像にゆっくりとマナを注ぐと、薄緑色の淡い光が溢れて広がっていく。

 どのあたりまでなのかはちょっとわからないけど……結構広い? 家一軒入るぐらいはありそう。


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 ルピが嬉しそうに吠え、スウィーもぱちぱちぱちと拍手してくれてるし、成功ってことでいいんだよな?


『時間はどれくらいもつんでしょう?』


「うーん、数分ってことはないと思うんだよな。前の時は戦闘終わってインベントリに入れちゃったから、そこで終わりになったんだと思うけど」


 それも確認できそうだし、まずは短杖ワンドから行ってみるか。

 念のため、ランジボアの革の端切れを間に挟んで取り出し、じっくりと鑑定。


【魔術技師の短杖】

『魔銀で作られた短杖。

 マナの微細な制御がやりやすくなる。元素魔法+1』


「おお! 当たりかな?」


『ショウ君、それで元素魔法が限界突破しますよ』


「ああ、そうだった! これでようやっと空間魔法が取れる」


 呪いの類は無さそうだけど、念のためかけておくか。


「浄化っと」


 さっきの薄緑な光がふわっと短杖を包んで消える。

 あれ? 白じゃない? ベル部長のライブで見かけたのは白い光だった気がするんだけど……信仰する神様によって違う感じかな? まあ、いいや。


「よっと」


【元素魔法のスキルレベルが上限を突破しました】

【元素魔法の上位スキルが獲得可能になりました】


「おっけ!」


『おめでとうございます!』


「さんきゅ。ちょっと空間魔法の本取ってくるよ」


 取れる時にさくっと取っておこう。

 上手くすれば、空間魔法スキルを取って、先駆者の褒賞がもらえてSP収支プラスになるし。

 山小屋の1階、キャビネットに入れてあったそれを持ってきて、改めて座り直す。


「さて、これで取れるはずだけど……あった!」


 空間魔法スキルをポチッとして取得!

 改めて、魔導書に目を通して……


『どうですか?』


「使えそう。スキル取ると呪文がわかるようになった。えーっと……<固定>」


 さっきの短杖を手に取り、<固定>を唱えた後に手を離すと……浮いているようにその場に固定されている。


【空間魔法の先駆者:10SPを獲得しました】


「よし!」


『すごいです!』


「先駆者が取れたのはいいんだけど、この魔法、なんか手品っぽくない?」


 中空にピタッと止まってるだけのこの魔法なんだけど、止めてる間もMPを消費してる。

 とはいえ、俺の場合は回復量がすごいから、減っては回復って感じで実質減らないんだけど……


『それって、ずっとそのままなんですか?』


「ううん、ずっとMP消費してるのを止めれば……」


「ワフッ!」


 落ちていく短杖をナイスキャッチしたルピが渡してくれるので、しっかりモフって褒めてあげる。

 逆にMP消費し続けてれば固定されたままなのかな?


「もう一回、<固定>。で、スウィー、あの杖に座れる?」


「〜〜〜♪」


 ガッテン! って感じで飛んでいったスウィーが短杖に座ると、


「うわ、MP消費が増えた」


『固定されているのを動かそうとすると、でしょうか?』


「多分ね。でもまあ、面白い使い方はできそうだから、いろいろ考えてみるよ」


 固定をやめるとすっと落ちる短杖。

 スウィーが一緒に落ちる……はずもなく、ふわっと飛んで俺の方へと戻ってくる。

 なんか楽しかったのかサムズアップしてるし……


「他に使えそうなのは……これだ! 収納拡張!」


『えっと、インベントリが広がる?』


「多分ね。じゃ、さっそく<収納拡張>。……んん!?」


 そう唱えた瞬間にMPが半分近くごっそりと持っていかれた。いや、なんか違う?

 慌ててメニューを開いてステータスを見ると……


「うわー、最大MPが半分近くになってる……」


 最大MP表示に【使用中:190】って追加され、MPゲージの半分近くがグレーアウトしてる感じに。


『えっ? それってずっとですか?』


「あ、いや、解除はできるよ。この収納拡張っていうのは、発動中はMPを固定でいくらか持っていくみたい」


 解除すると元に戻るけど、減った分のMPは戻らないパターンだろうな。

 で、インベントリがどれくらい増えたかというと……


「インベントリが倍になってる。うーん……微妙?」


『そうなんですか?』


「結局、インベントリ内のアイテムの重さがあるからなあ。STRも上がってくれば平気なんだろうけど……」


 これなら一輪車の方がありがたい気がしなくもなく。

 まあ、使ってれば経験値は貯まるんだろうし、新エリア探索とかの前に外すことにしよう。

 ちゃんと忘れないように、ミオンに注意してもらうことにしよ……

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