第234話 より大事なこと

 とりあえず、おかわりを……ああ、そうだ!


「これ、新作なんで良かったら」


 インベから取り出したのは、ブルーわらび餅。

 保存庫でも劣化するかもだと思って、インベントリに入れてあったやつ。


「〜〜〜!」


「はいはい。スウィーの分もあるから」


 ちゃんと二皿取り出す。

 もう一皿あるんだけど、これはトゥルーに食べさせてあげたいなと。


「不思議な食べ物ですね……」


「すらいむみたい〜」


「〜〜〜♪」


 アージェンタさんが不思議そうに見つめ、お姫様からは率直なご意見が。そして、構わず食べ始めてるスウィー。


「お姫様ひいさま、美味しいようですよ」


「うん!」


 スウィーの食べっぷりに安心したのか、お姫様もフォークでプスっとそれを刺して口へと……


「おいしい!」


 そう言って、黙々と食べ始めるお姫様。

 スウィーと揃って、口元がきな粉まみれで真っ青っていう……


「えっと、話の続きをお願いします」


「ああ、すいません。古代遺跡は管理者によって、どの程度まで制御可能なのでしょうか?」


「えっと、俺がやったのは、非常用の魔晶石にマナを注いで再起動させたぐらいですね。あとは古代遺跡そのものが自己修復した感じで……」


 そこまで言ったところで、アージェンタさんがビクッとなり、同時にお姫様から白く透明な光が溢れる。


「お姫様ひいさま


「大丈夫よ」


 えええええ……

 そう答えた顔つきは既に幼女だった時のあどけなさに加え、美しさが漂う。……口の周りはきな粉とブルーガリスシロップまみれだけど。

 それに気づいたのか、何かボソッと呟くと、口の周りの汚れは綺麗さっぱり無くなった。綺麗にする魔法?


「ショウ様。こちらが本来の白竜姫アルテナ様です。厄災を収めた反動で、日にわずかの時間しか覚醒しないのです……」


「あ、えっと……、どうも……」


「あなたが甘味を贈ってくれた子なのね」


 そう言いつつも目はスウィーの方に。

 空気読まない女王様は、そんな変化には目もくれず、ブルーわらび餅を堪能中。


「今、古代遺跡が自己修復すると言ったわね? どういうことかしら?」


「はい。ここの場合は……」


 まず、送魔線ってのが非常用の魔晶石のマナで修復されたんだよな。で、それが直ったおかげで崩落してた通路も直せたことを伝える。


「そう……」


 ほうと一つため息をついて、アージェンタさんにもたれかかるお姫様、いや、白竜姫様。

 何を憂いてるんだろうと思ったんだけど、


『ショウ君。死霊都市の、厄災を起こした施設も同じように……』


「あ!」


「気づかれましたか……」


 うかつに死霊都市の古代遺跡を再起動したら、また厄災が起きる可能性がある?

 NPCどころかプレイヤーまで巻き込んで厄災を起こすかもしれないとか、どんなMMORPGだよ……


「〜〜〜♪」


「ん」


 スウィーがどういうつもりなのか、ブルーわらび餅を一欠片、白竜姫様の口元へともっていく。

 それをパクッと頬張る白竜姫様。仲悪いんじゃないの? いや、そうじゃなくて。


『どうするつもりなんでしょうか?』


「えーっと、どうするんです?」


「今のところは様子見かしらね。死霊都市はきっちりと解放されるべきでしょうし、今さら好奇心は止められないわ」


「ショウ様が古代遺跡の管理者となった際、指輪が必要だとおっしゃってましたが?」


「あ、これです」


 別に没収になってもいいかと、指輪を外してアージェンタさんに渡す。

 二人ともそれをじっと見つめてるんだけど、鑑定してるのかな。


「これは『最上位管理者』の指輪のようですが、他のものもありますか?」


「あ、いえ。まだこれが落ちてた資料室って場所を隅々まで捜索できてなくて。一応、フェアリーたちが拾ってくれたものはあるんですが……見ますか?」


 後で鑑定しようと思って、ミニチェストの中にぶちまけたままなんだよな。


「いえ、いいわ」


「この指輪だけが管理者になれるという話だといいのですが。ありがとうございます」


「あ、はい」


 アージェンタさんがすんなり指輪を返してくれて、ちょっとビックリ。

 まあ、信頼されてるんだと思っておこう。


「あなたには、いずれ面倒ごとを頼むかもしれないし、これを渡しておくわね」


 そう言ってテーブルの上に置かれたのは真っ白なメダル。

 あー、はい、白竜貨ってやつですね……


「これを使わないといけないって、それ大陸の方に行った時とかですよね? 俺、そんなつもりは全くないんですけど……」


「あら、そうなの? じゃ、なぜこの子がここにいるのかしらね?」


 そう笑ってスウィーの方を見る白竜姫様。

 神樹の樹洞うろのことバレてるのか……


「〜〜〜……」


 そっぽを向いて知らんぷりのスウィー。

 よくよく考えたら、フェアリーの女王なんだから、他の種族の王族と面識があってもおかしくないんだよな。

 普段の言動がおこちゃまだから全然そんな気がしないんだけど、トゥルーとも実は知り合いだったとか?


「こちらでも可能な限りサポートいたしますので、何卒、お力添えいただければと……」


「はあ……。でも、できることってあんまりないと思いますよ。スウィーにお願いすれば神樹を通って本土へ行けますけど、場所もはっきりしないし……」


 前は共和国の南側だったはず。

 ずいぶん遠い場所だし、あそこから死霊都市までってなると、誰とも合わずには無理そう。

 そうなると絶対に俺のことに気づくプレイヤーがいると思うんだよな。キャラバレしてるし……


「ワフ」


 俺の困ったなあを察したのか、ルピが膝に頭を乗せてきた。モフって心を落ち着かせよう……

 ルピも絶対についてきてくれるだろうけど、これも確実にバレる要因なんだよな。


「この山小屋の1階に転移魔法陣があると聞きました。その場所も教えていただきましたが……」


 あー……


「あれってひょっとして死霊都市直行だったりします?」


「はい。中央先端魔導研究所、彼の地の中心にはかつてそう呼ばれていた場所があります」


 転移魔法陣だけ回収したい……

 そんな顔をしたのがバレたのか、


「転移魔法陣がある第11号3番転移塔は、見つけ次第、竜人族で占有しますのでご安心ください。何事もなければ、転移魔法陣はここへと運びますので」


 フォローしてくれるアージェンタさん。

 それに続けて、


「あなたに何かを頼むとしても、それは最終手段よ。何かしらそれ以外の手段を考えましょう。いいわね、アージェ?」


「承知いたしました」


「あなたにはもっと重要なことをお願いしたいもの」


「〜〜〜♪」


 白竜姫様とスウィーの視線が空っぽになった皿に。

 とりあえず、ドライグレイプルでも出すか……

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