第235話 天啓

 ドライグレイプルを木皿によそうと、スウィーも白竜姫様もそれを食べ始めて……話の続きは?


【ワールドクエストが更新されました!】


「え?」


「女神から天啓があったようですね。確認いただけますか?」


「あ、はい。じゃ、失礼して」


 ワールドアナウンスって、NPCには天啓って扱いなんだ。でも、クエスト情報は確認できないのかな? とか思いつつそれを開く。


【ワールドクエスト:死霊都市:第二部「解放」】

『漆黒の森の奥に見つかった廃墟。アンデッドに占拠されたその都市は古代魔導文明が引き起こした厄災の中心地であった。

 竜族の信頼の証を得た者たちが集まり、いよいよ死霊都市の本格的な調査が始まろうとしている。

 しかし、調査には跋扈するアンデッドを駆逐し、女神の威光を以って区画を浄化していく必要があるだろう。

 目的:死霊都市のアンデッドを駆逐して全エリアを解放する。達成率1%』


「えっと、死霊都市の攻略が始まった感じですね。これから本格的に都市内部に入っていくことになるんじゃないかと」


「なるほど」


 現時点の1%ってのは、どこかの門が開いたとかそれぐらいかな?

 そう言えば、第一部の最初の1%は俺だったとかいう話らしいけど、俺はそもそも不参加扱いって言われてるのにカウントするものなのかな。


『ショウ君、女神の威光を持って区画を浄化ってなんでしょう?』


 っと、確かにこれなんだろ?


「あの、天啓に『女神の威光で区画を浄化する必要がある』ってあるんですが、何かわかります?」


 その問いに首を横に振るアージェンタさん。

 うーん、これはこれでプレイヤーたちで考えろってことか……

 また調べ物しろって感じなんだろうな。


「……アージェ、眠るわ」


「はい。お姫様」


 木皿のドライグレイプルが空っぽになったと同時に、白竜姫様がそう言って、こてっと眠ってしまった。

 長い眠りから覚めたとか言ってたけど、まだ全然本調子じゃないのか。

 スウィーもさすがに満足したのか、満腹満腹って感じで定位置に座る。

 今日の話はこれくらいで終わりかな? あ、一応、聞いておくか。


「古代遺跡の制御室に行ってみますか?」


「いえ、今日のところは……」


 そう言って、すやすやと寝息を立てているお姫様を見る。

 そりゃそうか、起こしちゃうよな。


「ショウ様。できるだけご迷惑をおかけしたくはないのですが、その指輪のことは隠していただけますか?」


「あ、ああ、そうですね」


 ワールドアナウンスで古代遺跡の管理者になっちゃったのは十中八九バレてる。

 明日のライブでそれは話さないとだろうけど、


「ここの管理者になっちゃったことはバレてると思いますけど、この指輪と非常用の魔晶石にマナを入れる話はしないことにします」


 ざっくり「よくわからないけど、管理者にさせられた」でいい気がする。実際そうだから嘘はついてない……

 ベル部長とセスには大まかにはバレてるんだけど、秘密にしておいてもらおう。まあ、二人とも誰か別の人に話すなら、その前に確認に来てくれるだろうけど。


「ありがとうございます。転移魔法陣がある区画については、こちらで責任を持って抑えます。何かありましたら、ご連絡致しますので」


 お姫様を起こさないように、気を遣いつつ頭を下げるアージェンタさん。

 ドラゴンも大変なんだなあ……


 ………

 ……

 …


「それでは失礼致します。今後ともよろしくお願いいたします」


「はい。こちらこそ」


 ぐっすり寝ているお姫様を抱えたアージェンタさんが、転移魔法陣を使って帰っていった。

 一応、確認したところ、ここの転送魔法陣、転移魔法陣は例の死霊都市とは全く別の場所、竜の都の北側にある、海に突き出た半島の先にあるらしい。

 そこに立ち入れるのは竜族のみで、厳重な警戒を敷いて、庇護下の他種族も入れなくしてあるので安心してほしいとのこと。


「ふう……」


 思わずため息というか、さすがに気疲れしたかな。

 確かに重要な話だったけど、基本的に俺ができることは『黙ってる』ぐらいだし、気持ちを切り替えて、島でのんびりに専念しよう。


『お疲れ様でした』


「ワフ」


「ミオンもお疲れ様。ルピも」


 思わずしゃがんでルピを撫でまわし、もふもふを堪能することで気力を回復させる俺。

 肩に乗ってるスウィーは大きくあくびをして眠そうな感じ。

 さて……、ああ、そうだ。確認しときたいことがあるんだった。


「ニーナ、質問いい?」


[はい。ご用でしょうか]


「この部屋に誰か転移してきたのって把握できる?」


[はい。転送されてきた物品、転移してきた人物などは即座に把握可能です。ただし、報告にはショウが施設内にいる必要があります]


 あー、そりゃそうか……。そもそも俺がログアウトしてる時に来られるとわからないんだよな。


『ショウ君、誰か来てもエレベーターが動かなければいい気がします』


「あ、それだ! ニーナ、俺以外は転移エレベーターが使えないとかは可能?」


[はい。通常稼働中ですので、すでに管理者及びその同行者のみが利用可能となっています。利用者を新たに登録する場合は、制御室にて登録する必要があります]


「よし!」


『大丈夫ですね!』


「あ、今のままでいいよ。もし誰かが来てて、俺が報告できる場所にいる時はすぐにそうして欲しいかな」


[はい。了解しました]


 向こう側はしっかり見張ってくれてるだろうけど、万一を考えたら不審者が来てもここを出られないのがベスト。

 転移して来るんなら、帰ることもできるだろうし、諦めてお帰りいただこう。

 さて……


「今って10時ぐらい?」


『えっと、10時前ですね』


 微妙な時間だな。

 南側をぐるっと散歩するとなると駆け足になりそうだし、それだとあんまり意味がない。それか、畑ちょっと見て来ようか。


『あの、今日はもう終わりにしませんか? 疲れてるみたいですし……』


「え? あー、うん、そうするか……」


 時間を気にして慌ただしく何かするのは、ちょっと違うよな。

 今日のところは終わりにして、明日のライブの準備は放課後にちゃちゃっと済ませることにしよう。


「ルピ、スウィー、今日はもう終わりにするよ。ごめんな」


「ワフ〜」


「〜〜〜♪」


 二人とも賛成してくれたので、ゆっくりすることにしよう。

 山小屋のある盆地に出たところで、ふらふらと神樹の方へと去っていくスウィーを見送る。


『ショウ君。スタジオに来てくれますか?』


「りょ」


 明日のライブの相談かな? それなら残りの時間でゆっくり話すこともできるし。

 でも、なんでスタジオなんだろ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る