第233話 白竜姫

 8時45分。

 そろそろ迎えにいかないとってことで、俺、ルピ、スウィーの3人で地下の大型転送室へと向かう。


『そういえば……明日のライブはどうしますか?』


「あー、やっぱ、ニーナのこと話すしかないかな。制御室から資料室、あのバルコニーみたいなところぐらいまで見せる感じ」


 ワールドアナウンスが流れて、案の定というか俺だろって話になってるらしい。そりゃそうだよな……

 隠してる意味もないし、さっさとバラしちゃった方が良いと思う。


「今日、アージェンタさんが視察にって話になるかな? あの資料室とか、片付けといた方が良かったか……」


『日曜にあったことをお話しするなら、片付けない方が良いかもですよ?』


 確かにそうか。でもなあ、俺が散らかしたわけじゃないけど、散らかった部屋を見せるのはどうも抵抗がある。


 そんな雑談をしながら十字路に到着。

 左折して転移エレベータで降りると、出てすぐそこが大型転移室。


「ニーナ、この部屋の説明って可能?」


[はい。大型転送室は廃棄処分になった魔導具などが転送されてくる場所です。

 転送されてきた品は一定期間保管されたのち、奥にある廃棄口へと投入され、火口へと投棄されます]


 奥にある廃棄口? 歩きながら奥へと目をやると、なんか壁が開閉するような溝がある。


「あそこが開くの?」


[はい。ただし、大型転送室内に生体反応がある状態では開閉不能となっています]


「なるほど。安全性重視なんだ」


 まあ、この部屋を使うことはないよな。

 使ってないスペースを物置にとか? いや、ここまで運ぶのも大変だし。


「そういえば、ここって『転送室』で『転移室』じゃないんだ」


『あ、そうですね』


「転送と転移って違うんだよね?」


 なんとなくニーナに聞いてみると、


[はい。転送は非生物のみ、転移は生物も含みます。大型転送室には廃棄品が転送されてくる大型転送魔法陣と、廃棄すべきでなかった品を回収に来るための転移魔法陣の二つがあります]


 と丁寧に答えてくれた。


『なるほどです』


「そっかそっか。間違って捨てちゃったかもしれないから、しばらく保管してから捨てることになってるんだ」


 そういえば、最初にアージェンタさんが来た時は、大型転送魔法陣の方に来たよな。

 あれって自力で転移の魔法を使って、大型転送魔法陣を目標に転移してきたってことかな?


『ショウ君、そろそろ9時です』


「おっと、ちょっと下がろうか」


「ワフン」


 普段はドラゴンの姿なんだろうし、大型転送魔法陣の方に来るんだろうと、その前に待機していたら……


「ワフ」


「え? そっち?」


 右手にある転移魔法陣の方に光の柱ができ、それが消えた後には、いつぞやの執事姿のアージェンタさん。……の隣には5歳ぐらいの小さな女の子。

 白銀の髪に透き通るような白い肌とサファイアの瞳。なんというか、息を呑むレベルの美少女、いや、美幼女。

 少しだけ残るあどけなさが女神というよりは天使っぽい?


「ショウ様、本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます」


「いえいえ、ようこそ……」


 そう答えつつも、目線がどうしても下へと行ってしまう。


「すいません。こちらは白竜姫アルテナ様です」


「あ、はい。……え?」


 竜族のお姫様。厄災の暴走を止めた竜。

 とろとろ干しパプ1ヶ月分を数日で平らげたという……ん?

 なんか、お姫様の目線が俺に、いや、俺の左肩のスウィーに向いてるなと思って、ちらっとそっちを見ると、なんかよくわからない上から目線のスウィー。


「あーじぇ、だっこ」


「はい」


 言われるままにアージェンタさんがお姫様を片手で抱え上げると、今度は彼女が上から目線でスウィーを見下ろす。

 まあ、うん。俺は背が高い方でもないし、180オーバーのアージェンタさんが抱え上げればそうなるよねっていう……


「え? スウィー?」


 左肩を離れたスウィーが俺の頭の上に膝立ちに。

 それでちょうど同じぐらいの目線になったのか、睨み合ってるようで……


「お姫様ひいさま、おやめ下さい……」


 アージェンタさんの困ったような言葉にぷいっとそっぽを向くお姫様。


「スウィーも何してんだよ。てか、膝立ちはやめてくれ」


 その言葉に渋々と言った感じで左肩へと戻る。

 こっちもこっちでぷいっとそっぽ向いてるし、いったいなんなんだか……


『なんなんでしょう……』


 ミオンも思わずそう呟く。

 今日の話し合いの間は返事できないと前もって伝えてはあるからか、ミオンもじっと聞き役にまわってくれてるんだけど、さすがに声に出ちゃうよな。


「えっと、とりあえずここは殺風景ですし」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 ここはただ単に広いだけだし、何か話し合うにしても落ち着かない。

 まずは山小屋に案内して、腰を落ち着けて話したいところ。

 あ、椅子足りない……部屋から持ってくるか。


 ………

 ……

 …


 結局、部屋から椅子を持ち出す必要もなく、お姫様はアージェンタさんの膝の上に座っている。

 その目はテーブルの上、木皿に盛ったとろとろ干しパプに釘付けになっていて……


「あ、たくさん用意してあるんで、好きなだけどうぞ」


 その言葉に後ろを見上げ、アージェンタさんが頷いたと同時に、とろとろ干しパプを食べ始めるお姫様。


「〜〜〜!」


「ああ、うん、スウィーも食べていいよ」


 ……なんかすごい勢いで減っていってるけど、気にしたら負けな気がするな。

 人数分のマグカップにパプの葉茶を淹れて、俺も席へと着く。


「ありがとうございます」


「いえいえ。で、話って……俺が古代遺跡の管理者になっちゃったのは、やっぱりまずかったですかね?」


「いえ、それは全く問題ありません。むしろ、我々竜族としても信頼のおけるショウ様でホッとしております」


「は、はあ……」


 アージェンタさんたちが住む竜の都、結構広い範囲を指すらしいんだけど、そこにある古代遺跡は竜族の管理下、いや、監視下にあって手付かずのままらしい。

 何かしないと問題がある古代遺跡なら調査もするんだけど、そういうのも特にないので放置してるそうで。


「何年かに一度、モンスターが大量に発生して古代遺跡から溢れることがありますが、我々からしてみれば大したことではありませんので」


「ははは……」


 雑魚モンスターが大量に湧いたところで、ブレス一発で終わりとかだよな。

 わざわざ中に入って調査しようとか思わないか。


「それゆえ、ショウ様が発見されたような『管理者』という存在に気づけませんでした」


「え? いやでも、既に人間の国が管理してる古代遺跡とかありますよね?」


「それらに関しては任せきりですのでわかりません。そもそも、我々が女神に頼まれたのは厄災を止めること。お姫様が眠りにつかれてしまい、我々としてもそれどころでは……」


 まあそりゃそうか。自分達のお姫様の方が大事だもんな。

 それでも、支配下にあった有翼人とかに行方不明者の捜索をさせたりはしたらしい。

 で、最近になって、やっとお姫様が目覚めたと。


「おかわり」


「〜〜〜♪」


 ……とりあえず、今は元気そうでなにより。

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