火曜日

第232話 早くなんとかしないと……

「ん」


「うん、またお昼に」


 ミオンが自分の席へととてとてっと歩いて行くのを見送りつつ、俺も自分の席へと。

 ナットがさっそく報告があるという感じで待ち構えてるんだよな……


「おは。なんかあったか?」


「おは。コショウの話、サンキューな」


 ああ、そっちの話か。

 入れておいたメッセは既読がついてたし、美姫セスいいんちょポリーから連絡も行ったんだろうな。


「もう見つかったのか?」


「いや、さすがにそんなすぐにはな。けどまあ、ギルド設立しようって話になった」


「おいおい、コショウをあてにしてか?」


 コショウが高値で取引されてて、かつ、白コショウは存在しない、多分、製法が存在しないんだろうけど、それを皮算用ではお勧めできないわけで。


「そこまでギャンブラーじゃねえよ。今の開拓地からさらに南側を目指そうって話をしててな。コショウがあれば最高だが、無くてもやってけると踏んでる」


 ナットの話だと、今の開拓地は二つのギルド『昼下がりの華』と『月夜の宴』に任せて、さらに南西を目指すらしい。

 クリーネっていう釣り人プレイヤーが集まる漁村よりさらに南、大きな川を越えた向こう側を考えてるそうで。


「それ、コショウどうこうよりもギャンブルっぽいんだが……」


「そうでもないぞ。川も川幅が狭くなってて渡れる場所を調査済みだしな。何より、古奥のダンジョンにかなり近くなるってメリットがあるし」


「あれ? なんか、スライムが多くてしょっぱいって話じゃなかったか?」


「……スライムの中に竜貨を抱えてるやつがいる」


「マジかよ……」


 ナットたちはすでにノームから地竜貨をもらってるんだけど、さらにまた手に入ったそうで。


「それを売るって話か?」


「さすがに得体の知れないプレイヤーに売るのはまずいよなって話になって、ラシャード伯に相談したんだよ。そしたら国で買ってくれるってさ」


 さっきの二つのギルドの仲介があって、ナットたちが新たな街を開拓し、ギルドを立ち上げることも歓迎されたそうだ。

 その支払いは全て、スライムからのレアドロ、地竜貨払いで良くなったらしい。


「加えて、お前からコショウの話があったから、もうやるっきゃねーだろってな」


「なるほど。直接力にはなれないけど、まあなんか情報があったら伝えるよ」


「頼む! で、だ……」


 いつもの両手拝み。と、さらに続きがあるらしい。


「気候的に島の南側に近いって話だよな? あの島のどこで何が取れるかを教えてもらっていいか?」


「ああ、そんなことか。それくらいなら、いくらでも教えてやるけど……。それよりお前、いいんちょ誘わないのか?」


「う……」


 ただでさえ、どんぶり勘定な感じがあるこいつ。

 今までは俺がフォローしてたけど、今回はそうはいかないし、それならきっちりしたいいんちょがついてる方がいい。という理屈でお前も覚悟を決めろ。


「俺のフレ、野郎が多いからちょっと不安ってか……」


 ダメだ、こいつ。早くなんとかしないと……


***


 昼休みに一通り島の産物と、だいたいの場所を教えておいた。

 あくまで参考にって感じだけど、カムラスが実際に見つかったし、近くにパプの木も見かけるらしいので、レッペリン(コショウ)が見つかる可能性も高そうだ。

 ただまあ、見つけてもしばらくは控えめに行くらしい。

 コショウの輸送中はNPC盗賊に狙われやすいっていう噂があるそうで……


「それって、コショウを売った商人から話が漏れてるんじゃないかしら?」


「「あ!」」


 いいんちょの指摘に、男二人、間抜けづらを晒すハメになった……


 まあ、そんなこんなあって部活の時間。

 アージェンタさんから返信が来ていて、今日の9時に最初に出会った地下、大型転送室に来るそうだ。

 というわけで、お出迎えの準備を兼ねて、火曜の南側探索に来ている。


『ショウ君。パプの実だけじゃなくて、葉も集めてるのは……』


「ああ、これ昨日寝る前に思いついたっていうか、思い出したっていうか、柿の葉茶になるんじゃないかって思って」


『え? 柿の葉っぱがお茶になるんですか?』


「うん。そういや、椿さんはお茶淹れるのやたら上手かったし、知ってるんじゃないかな?」


 料理は壊滅的らしいのに、お茶を淹れるのは上手かった記憶。

 使ってる茶葉もすごく良い物なんだろうけど、あれは趣味なのかな。

 そういや、お茶の葉になる茶の木って椿科なんだっけ……


『どういう味がするんでしょう?』


「香ばしくて……ちょっと甘い? そんな主張がある味じゃないけど、渋くもないし飲みやすいよ」


 夏とか冷たい柿の葉茶はガブガブ飲めていいんだよな。

 麦茶も捨てがたいけど、そもそも麦がないからなあ……


『なるほどです。今度、椿さんにお願いしてみます』


「まあ、IROのパプの葉茶が同じかどうかはわからないけど。試してみて、良さそうならアージェンタさんに出そうかなって」


 わらび餅ならお茶、日本茶だよなってぐらいのノリだけど。

 パプの葉茶がうまく行っても、茶葉は別に探さないとな。あとコーヒー豆……


「ワフ」


「お、さんきゅ」


 ルピがバイコビットを2匹狩って、俺の前に差し出してくれる。

 さくっと解体して、スライスを1枚、おやつに渡すいつものやりとり。


 部活の時間なので、いつもより足早に南側をぐるっとまわって、ゴブリンがいた洞窟の方へ到着。


『あ、ショウ君、ニーナさんに聞いて欲しいことがあります』


「え? 何?」


『鉱床の採掘ポイントの復活ってニーナさんは把握してるんでしょうか?』


「あ、ああ!」


 あの鉱床も古代遺跡の施設の一部らしいし、ニーナの方で管理してる可能性ありそう。

 古代遺跡へと入ったところで、


「ニーナ、ちょっといい?」


[はい。ご用でしょうか?]


 指輪に話しかけると、すぐに返事が返ってきた。


「この先にある鉱床って施設の一部だよね? 魔銀ミスリルの鉱床って掘れるようになってる?」


[はい。送魔線が不通となっていた間、南側区画は独立稼働していたようですが、現在は制御下にあります。魔銀ミスリル鉱床は現在再生中で、およそ2週間後に採掘可能となります]


「ありがとう!」


『やりましたね!』


「うん、ミオンもさんきゅ。すっかり忘れてたよ」


 これでまた魔銀ミスリルが取れるようになるなら、今ある魔銀ミスリルのインゴットも惜しまず使える。

 とりあえず、今あるので何作ろうかな。

 円盾にはちょっともったいない気もするし……やっぱり道具かな?

 女神像を作る話があるし、木工道具から魔銀ミスリル製にしていくのは悪くない気がする……


「ワフン」


「っと、もう階段まで来てたか」


『ショウ君、そろそろ5時半です』


「りょ。急いで上がるよ」


 まあ、その前にアージェンタさんの話だよな。

 ついでに、女神像についてもう少し何か情報ないか聞いてみよう……

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